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第10回
結城信輝・千羽由利子対談(3)


―― じゃあ、後半戦に行きましょう。結城さんのベスト20です。

●結城信輝(アニメーター)の選んだ
「このアニメーターを観るならこの回を!」


▼荒木伸吾・姫野美智
『UFOロボ グレンダイザー』
 25話「大空に輝く愛の花」(ナイーダ)
 63話「雪に消えた少女キリカ」
『惑星ロボ ダンガードA』
 42話「異星人ノエルの微笑み」
『魔女っ子メグちゃん』
 33話「サターンの使者」(ローザ)
 72話「さようなら メグちゃん」(最終回)
『花の子ルンルン』
 1話「ふしぎな訪問者」

▼小松原一男
『宇宙海賊 キャプテン ハーロック』
 34話「銀河子守歌」
 42話「さらば宇宙の無法者」(最終回)

▼杉野昭夫・出崎統
『あしたのジョー』
『家なき子』
 51話「最終回 新たな旅立ち」
『宝島』
 「第25回 潮風よ、縁があったら また逢おう」
 「第26回 フリントはもう飛べない」(最終回)
『エースをねらえ!』
 「第26回 ひろみ対お蝶!最後の対決」(最終回)

▼富野由悠季、安彦良和、金田伊功、湖川友謙
『無敵超人ザンボット3』
 22話「ブッチャー最後の日」
 23話「燃える宇宙」(最終回)
『無敵鋼人ダイターン3』
 12話「はるかなる黄金の星」
 40話「万丈、暁に消ゆ」(最終回)
『機動戦士ガンダム』
 1話「ガンダム大地に立つ」
『聖戦士ダンバイン』
 1話「聖戦士たち」
 37話「ハイパー・ジェリル」

※番外
▼アートランド
『超時空要塞マクロス』
 27話「愛は流れる」

▼金山明博
『超電磁マシーン ボルテスV』
 40話「崩れゆく邪悪の塔!!」(最終回)

▼宮崎駿
『未来少年コナン』
 8話「逃亡」
 25話「ギガント」



―― アニメーターファン的に押さえておきたいタイトルが並びましたね。
結城 話数単位で選んだ方がいいと言われたから、TVに限定してみたんだ。それも、その話数が担当アニメーターの代表作になっいるものというのを基準にしたよ。
千羽 あたしも見せてもらっていいですか。
結城 どうぞどうぞ(書いてきたメモを千羽さんに渡す)。
千羽 (そのメモを受け取って)……へへへ、結城さんの直筆だよー〈喜〉。
一同 (爆笑)
―― そうくるとは思いませんでした(笑)。
結城 『グレンダイザー』って観てました?
千羽 観てました。好きです。
結城 俺が記憶している中で、アニメで初めて「キャラ萌え」したのが、『グレンダイザー』のマリアなんですよ。
千羽 ああ。
結城 アニメを観ていて「うわあ、この女の子!」と思ったのがマリア。で、アニメって、マンガと違って基本的に手元に残らないじゃないですか。TV雑誌に乗っているスチール写真を見ても、「なんか違う。俺の好きなマリアじゃないよー」って(笑)。最初にそういった画のグレードの違いを意識したのも勿論、荒木さんの回で、マリアの前にナイーダっていうデューク・フリードの昔の恋人が出てくる話。で、他にも悲恋の女性キャラみたいな話はあるのに、グッとこないんですよ。なんでこの回だけクルんだろうと思って、それで、画を描いている人に着目し始めた。
千羽 『グレンダイザー』って、なんか全体にキャラが色っぽいですよね。
結城 そうそうそう! 後で考えると、『キューティーハニー』や『魔女っ子メグちゃん』から、ああいうコケティッシュな感じはあったんですけど。でも、俺にとっては、『グレンダイザー』であり、マリアであり、だったんですよね。多分、中学生になりたてぐらいだったと思うんだけど。言っちゃえば「萌え」っていうのは、恋心みたいなもんじゃない。ちょうどそういう気持ちが芽生えてくる頃で、女性キャラを「女性」として意識し始めたからなのかな、って気がするんですよ。
千羽 私もデューク・フリードがすごく色っぽく見えていました。「王子様」っていう、ちょっと他では見られない素敵さで。
結城 荒木さんが描くとすごい美青年になるんだよね(笑)。小松原さんの1話もよかったけど、やっぱりトータルだと、荒木さんの回が抜きん出ていたかな。『グレンダイザー』から『(惑星ロボ)ダンガードA』って、荒木さんが、どんどん頂点に昇っていく、一番おいしい時期だと思うんだよね。挙げた3話は、特に印象的な女性キャラが出てくるっていう部分で、選んでみたんですよ。キリカの話は、マリアも前面に出てきていて、もう「美少女夢の競演!」という感じで。
―― 『グレンダイザー』でこれに次ぐとなると、ルビーナ(72話「はるかなる故里星」)か「吹雪の中のマリア」(68話)ですかね。
結城 そうだね。ルビーナはエピソードがナイーダと似ているんで、ちょっと印象が弱いんだ。
―― でも、ルビーナは作画に姫野(美智)さんが入っているから、画が洗練されてますよね。
結城 姫野さん、キリカの時には、タイトルバックのイラスト描いているよね。でも、『グレンダイザー』の頭の頃には、まだ動画でしょ?
―― 放映の年の春に学校を卒業して、半年後にはキャラクターデザインやっているんですよね。
千羽 はあー(溜息)。
結城 だから、『バビル2世』も『メグ』も観ているのに、荒木さんを強く意識したのがどうして『グレンダイザー』だったのか、って言えば、姫野さんの影響があったからなんだろうね。本来、荒木さんの持ち味は『巨人の星』の花形が大リーグボール1号を打つ回(83話「傷だらけのホームイン」)だろうから。本来は劇画調で、少女マンガの要素はあんまりなかったんだろうから。  で、『メグちゃん』の「サターンの使者」もやっぱり、ローザっていう印象的な女性キャラが出てきた回なんだ。メグを狙う刺客なんだけど、色っぽくてね。凄く覚えていた。
―― これと「さそり座の呪い」(27話)が、2大ハードエピソードでしょうね。両方とも荒木さん。
結城 ああ、そうか。で、『メグ』の最終回っていうのは、これが、それまでどちらかと言えば、お転婆だけど、かわいいキャラクターだったメグとクールなノンが取っ組み合いの喧嘩をするという話。
千羽 あー、そうですね。
結城 あれがね、印象的で。色々最終回っぽいエピソードもあるんだけど、最後は取っ組み合い(笑)。
千羽 ははは(笑)。
結城 で、『ルンルン』の1話はもう、「姫野爆発!」という感じ。姫野さんはキャラ表と1話しかやってないんですよ。だから、俺としては、『グレンダイザー』『ダンガード』と気持ちが盛り上がっていて、そこで、『ルンルン』の1話だから、「きたよ!」という感じだったの。ところが、その次からは「あれー?」という事になっちゃって。その頃はローテーションの事もある程度分かっていたから、「次に姫野さんが作監するのはいつかなーいつかなー」って待ってたら……永遠に巡ってこなかった(苦笑)。それで、凄く寂しい思いをしたなあ。
―― 当時、アニメ誌に載っていた版権って、姫野さんでしたよね。
結城 そうそう。タイトルバックなんかも姫野さんでしょう。ああいうものをセルではなくて、イラストで描くということ自体、新鮮だったしね。アニメーターであんなレベルのカラーイラストが描けるという事自体ビックリしたなあ。
千羽 姫野さんはセルの画だけじゃないでしょう。ちょっと不思議な存在ですよね。
結城 うん。『ダンガード』のEDも姫野さんの画だったじゃない。あれがおいしかった。アニメショップで売っていた、EDのスチルをいまだに持ってますよ。結局、雑誌にも何にも載ってなくて画面で観るしかないから、捨てられないんだよね。画集にまとまらないかねえ。
千羽 ああ、画集はないんでしたっけ。ほしいですよね。
―― 読者の方に説明すると、荒木さんと姫野さんのコンビは、美麗アニメーターの元祖みたいな存在だったんですよね。
千羽 すごく柔らかい画ですよね。それに、あの、キラキラした華やかな感じは、初めて観ました。
結城 うん。描いてるイラストとセルの印象に差がないんだよね。
千羽 あっ、そうですね。
―― 若い読者の方にも、荒木さん、姫野さんの魅力は、ぜひ知っておいてもらいたいですね。というところで、次は小松原さんですか。
結城 これはさっきも話したけれど、トータルのバランスで言ったら、劇場版の『銀河鉄道999』が最高傑作。でも、自分の好みで言うと、『キャプテンハーロック』の「銀河子守歌」と最終回「さらば宇宙の無法者」が、作画的にも奔っていたんじゃないかと。特に、「銀河子守歌」は、Hな女性キャラが出てくるんですよ。
千羽 (笑)
結城 もう松本零士じゃないじゃん、小松原さん奔っているなあ、っていうキャラクターで。死ぬ時になぜか服が破けて死ぬんだよね。
―― 
そう言えば、今度の『HERLOCK』では、小松原マニアぶりを発揮してるとか? ハーロックが歩く時に、体を左右に揺らしてる、と聞きましたが。
結城 ははは。だけど、上手く行かなかったんだよね。あの動きって理屈じゃないんだよ。今のアニメートって、描く上ではやっぱり理屈が必要で、どういうふうになっているのか、ってスタッフの間で侃々諤々だったんだ。ハーロックって、ああいうふうに歩いている印象があるでしょ?
―― まあ、印象的ですよね(笑)。
結城 そうだよね。でも、TV版でも劇場版でも、実際にはキメのところでしかやってないんだよね。だから、OVAでも、最終的にはそれを踏襲して、普通のところは普通にというところで、まとまりました。
千羽 それは楽しみ!
結城 りんたろうが『HERLOCK』をやってるわけだから、俺の中では、前作の『ハーロック』と同じ仕様にしてあげたい、という気持ちがあって(笑)。やっぱり前作が好きだった人から、違和感を覚えられるような仕様にはしたくないと。
千羽 分かります。
結城 小松原さんが松本零士を見ていた同じ位置に立って見てみないと、見えてこないものっていうのがあると思うんですよ。小松原さんのように描くだけでは、小松原さんを絶対に超えられないし、粗雑なコピーになる可能性があるから。だから、小松原さんが松本零士のどういう部分を見てキャラクターを作ったのか、そういうところから入ってやったつもりです。
千羽 はーっ(ひたすら感心)。
結城 話を戻すと、今回の『HERLOCK』のひな形として見ているのも、挙げた2本のあたりなんですね。TVシリーズだから、作画も安定しないんだけど、凄く力の入った修正もあって、そのあたりの一番いいイメージがあるんです。  ……で、次の『家なき子』は微妙なんだけど。
―― と言いますと?
結城 一応、今回は『未来少年コナン』や『赤毛のアン』みたいな、全体に作画が安定しているアニメは外しているんだよ。で、「観るならこの回を!」みたいな、それぐらい、他の回と選んだ回で差があるアニメばかり選んでいるの。その基準からすると『家なき子』って、結構作画が安定しているイメージがあるんだよね。だから、挙げるのはどうかな、とも思ったんだけど。ただ、やっぱり杉野(昭夫)さんの最終回は力が入っているし、完成度も高い。
 演出的にも出崎(統)さんの……。子供の頃、原作の『家なき子』って好きだったのよ。原作は最後、凄くハッピーな終わり方をするじゃない。アニメの最終回も途中まではそのとおりの展開なんだけど、Bパートになると、マチヤと一緒に山に登って、「レミ、お前は幸せか」「男ってのは、自分で道を切り開いて一人前じゃないのかい!」みたいな話になって、それでマチヤと2人、元の旅芸人に戻って、旅を始めるっていうラストになっちゃうじゃない。
―― はいはい。
結城 もう、金槌で殴られたようなインパクトがあって。日アニの名作劇場って、凄くシリアスな話もあるんだけど、ラストは原作をそんなに踏み外したものにならないじゃない。でも、こっちはもう平気で踏み外すんだよね(笑)。
 それはこの次の『宝島』もそうでさ、シルバーが結局捕まって船倉に閉じこめられて、そこにジムがコーヒーを持ってくるじゃない。で、「シルバーのいちばん大事なものって何?」「今はお前の煎れてくれたコーヒーかな」みたいな会話があって。それはなんか違うだろ、って今なら言えるけど。
千羽 (笑)
結城 これにもガーンとショックを受けた。そういう原作からの踏み外し方がすごいよね。ま、今見返すと作画はそんなに安定しているわけじゃないんだけど、当時はあれでも安定していると思ったなあ。
千羽 私もそういうイメージがあります。
結城 うん。でも実はバラツキがあるんだよ。『家なき子』でも、途中、バルブラン・ママの家に帰る回(38話「バルブラン・ママ」)があって、杉野作画がバーッと炸裂するんだけど、次の回から普通なんだよね。勿論、それでもレベルは高いんだけど。
―― 続けて挙がっているのが『エースをねらえ!』の最終回ですね。
結城 これも、作画のグレードがそれまでと全然違うんだよね。リアルタイムではそうは思わなかったんだけど、あとで観てビックリした。出崎・杉野コンビって言えば、劇場版『エースをねらえ!』じゃない。劇場『エース』の作画ってやっぱり凄いと思っていたの。だけど、TV版の最終回を見直したら、「当時からこれだったんだ」って驚いた。やってる事も同じだし、画のグレードもほぼ一緒なんだよね。
―― 一緒とまでは言えないかもしれませんが、確かに作画している杉野さんには『エースをねらえ!』の到達点が見えていますね。
結城 うん。改めて観ると、この時点ででき上がっているんだ、って強く感じたね。
―― 杉野さんについて、もう少しお話をお願いできますか。
結城 うん。何を訊きたいかは分かっているよ(苦笑)。そうだね。俺にとってはアニメーターのモデルみたいなところがある。例えば、安彦さんなら、川元さんや佐野さんみたいに、そのラインを継承している人はいるじゃない。湖川さんのラインは、ビーボォ系の人達が継いでいるだろうし。でも、杉野さんのラインっていうのは、ほとんど切れちゃっているんだよね。なんて言うか、画を激情に任せて描くようなタイプって、今のアニメーター業界にはほとんどいないなあ。
千羽 そうですか?
結城 今の人は、なんて言うか、画に対して見方が凄くクールじゃないですか。例えば『ベルセルク』の馬越さんって凄く巧いけど、画に対するコントロールが抜群な人だと思うんですよ。多分、ビーンボールは投げないな、って。杉野さんは描いている時の心情が前へ前へと出てくる人なんですよ。そういう、気持ちが画面に出る人が、いいか悪いかは別として、俺自身好みだし、踏襲したいという気持ちは凄くあるんです。だから、目標としている人もでもある。
 それから、荒木さんにも安彦さんもそうだけど、巧いアニメーターである一方で、作家の匂いを持っているじゃないですか。そういう作家の匂いみたいなものや、気分が前面に出ているところは、今のアニメには受け継がれていない気がするんです。アニメーターとしての技術は受け継がれているんだけど、その人が何を考えていたのか、どういう気分だったのか、みたいなところはあまり踏襲されていないんじゃないか、って。だから、僕としては、コピーするつもりはないんだけど、同じように気分を前面に出して描いていきたいと思っているんですよ。そういう意味で、杉野さんは勿論、ここに挙げた人たちはみんな、大事な人達なんです。

 

■「第11回 結城信輝・千羽由利子対談(4)」へ

(03.01.30)

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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