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第18回
うつのみや理のベスト20(2)


── で、次は『外套』。これってまだ完成してませんよね。
うつのみや していませんね。でも入れざるを得ない。ピンスクリーンという手法で作られた『禿山の一夜』(アレクサンドル・アレクセイエフ)ってあるじゃないですか。僕の中では、あれと近い印象なんです。ピンスクリーンも商業ベースに乗らなかった方法で、(ボードに刺したピンの)陰影だけで表現する技法ですよね。僕はそういった手描きでない手法にも興味を引かれるんです。なぜ、セル画を使うかというと、透ける素材を使えば、背景を1枚1枚描かなくていいからでしょう。で、それが商業ベースに乗って、今のセルアニメの方式が確立されていくじゃないですか。で、ピンホールも『外套』も、表現についての考えが、その前の段階から出発している。まずやりたい画面があって、何がなんでもこれでやるんだ、みたいなところから出発しているでしょう。そして、確かにそれだけ見応えのある表現になっていて、観た人になにがしかの事を考えさせるような画面になっている。そういった技法も、CGが発達すれば、商業ベースに乗っかるんじゃないか、とも思うんだよね。
 『外套』はね、下級のお役人さんが貧乏な生活をしていて、爪に灯をともすような思いで、外套を買うんだけど、それが盗まれて、というお話。その冒頭部分しかできてないんだけどね。技法がまたマッチしていてね、もの悲しくうらびれたような寒い感じや、陰々滅々とした主人公の心境が伝わってくる。
── ラピュタ阿佐ヶ谷などで、途中までできたものを上映しているんですよね。
うつのみや そうそう。ラピュタに出かけたりして何度か観たんだけど、やはり表現したいものがあったら、困難でもやるべきだなと思いましたね。『禿山の一夜』を観た時もそう思ったんだけどね。『禿山の一夜』は20歳ぐらいの時に観たんだけど、『ファンタジア』で同じタイトルの同じ曲を使ったパートがあるじゃない。あれよりも怖かったし、ぐっとくるものがあった。
── うつのみやさん自身は、画以外のアニメーションを自分の仕事にしようとは思わないんですか。
うつのみや できるもんだったらやりたいですね。自分で画を描きたいっていう欲求がいまだにあるから、まだそちらには手を出さないけど。ただ、画が描けなくなったり、具体的な依頼がきたりしたらやるかもしれない。ツールですから、それは抵抗ないですね。
── じゃあ、次は『老婦人とハト』。
うつのみや これもやっぱり外せない。日本のアニメーションって、万人受けするような路線を貫いていると思うのね。マンガ原作であったり名作ものであったり。やっぱり、多くの人が好む画面っていうのは、必然的にアーティスティックになりにくいものじゃないですか。でも、フランスという土壌からだと、アーティスティックなものがこういう形で成立するんだなあ、と思った。
 僕はいろんなアニメーションがあっていいと思うのね。『外套』も『老婦人とハト』も大ヒットはしないかもしれないけれど、明らかに価値があるよね。そういうフィルムって、絶対に必要だと思うんですよ。絵画にはいろんなタイプの画があるけど、アニメーションってそれに見合うほどの表現の数はないよね。表現の手段を捨てて、商業ベースに乗っている部分がある。
── 具体的には、『老婦人とハト』はどのへんが素晴らしいんですか。
うつのみや この作り手はお話を作る能力も高いんですよね。僕は字幕なしで観たんだけど。鳩に食べ物をあげている夫人がいて、おなかをすかせた男が、鳩になればこの人から食べ物をもらえるだろうというので、鳩の格好をする。それだけでもう、滑稽というか風刺というか、ひとつの表現になっている。人の善意で餌をもらっているハトをうらやむ痩せこけている薄給の警官とかね。そうした不条理なものへの風刺が画から感じられる。で、男は自分が作ったロジックにはまっていって、悲劇的な展開になるんだけど。絵柄も含めていろんな表現が合致しているし、抑制も効いている。
── 同じ内容を実写ではできないですよね。あの画だから許される。
うつのみや ええ、画でしかできない表現だと思います。表現として昇華しているという点では、『やぶにらみの暴君』にも通じるところがある。こういうのを観ると、現実にはできない物理的なアクションを描く事だけがアニメーションじゃない、というのを認識させてくれますよね。
── アニメーション技術的にはいかがですか?
うつのみや 素晴らしいです。当たり前の事を当たり前にやってるんだけど、巧い。しかも、破綻しているところがほとんどない。
── 次は『シティ・オブ・ファイア』ですが。
うつのみや これはCGです。シーグラフというCGアニメーションの祭典でかかった、テストフィルムなんですよ。メビウスの作品が原作です。
── どこの国の作品なんですか。
うつのみや 中国だったかな?(編注:香港製作、1999年のシーグラフで公開)。正直、動きがいいっていうわけではないんですよ。ただ、メビウスのタッチを壊していない。それまで作られたメビウスのアニメーションより、メビウスらしい。映像が商品価値のあるものになっている。動きは、モーションキャプチャーではなく手づけだと思うんだけど、それでもちゃんとやれるという事を見せてくれる。いろんな人がこれぐらいのものを作れるかもしれないという可能性を感じさせてくれるフィルムです。
── いつごろご覧になったんです?
うつのみや 5年前ぐらいですかね。僕はCGに興味を持っているんで、人から見せてもらったんだけど。僕の中で同じようなカテゴリーだと、『カエル頭の左目』(大坪信康監督、2000年公開)なんていう作品もあって。これは個人作家の方の作品なんです。道ばたで女の子が泣いていて、通りすがりの男の子がどうしたのって訊くと、目を落としちゃったという。で、男の子が一緒に探してあげる――そういう他愛ない話なんです。でも、表現が凄くいい。演劇なんかではよくやる手法だけど、例えば吹雪を表現する時に、かぶりものを被った白い人間が大群で走っていく。コピー&ペーストでやっているんでしょうけど、それが非常に詩的な表現になっていてね。ツールがどんどん一般化してきて、様々な人に行き渡るようになれば、色んな表現がやっぱり増えるんだなって思いましたね。
── なるほど。えーと、ここからが国内編に突入ですね。
うつのみや あ、そうですね。『くもとちゅうりっぷ』は中学生ぐらいに観たっきりなんですけど。雨の表現とか凄い衝撃的でしたね。
── そうですね。
うつのみや いかにも雨降ってるなって、思うんですよ。白黒の雨粒が地面に反射してる描写とかをちゃんとやってるだけで、なんか寒さまで喚起される。そのぐらい説得力があった。政岡憲三さんでいえば、『海の神兵』の影絵のシーンもいいし、とにかく才能のある人だったという気がするね。『くもとちゅうりっぷ』は見返していないんで、印象で語っている部分があるかもしれないけれど。
── いや、問題ないですよ。大丈夫です。
うつのみや 記憶だけで言うのも何なんだけど、ディズニーの『シリー・シンフォニー(シリーズ)』なんかに負けてないと思ったね。表現として混沌としてる部分のよさもあって。今だったら、雨はこうしましょうとなるところを、葉っぱに当たったらちゃんと揺り戻しも描きましょうよ、みたいな事までやっていたと思う。見えてるものはちゃんとそのまま描くしかないみたいな、覚悟をきめて描いてるんじゃないでしょうかね。楽しようと思っていない。
── ようやく読者が観られる作品が出てきましたね。『くもとちゅうりっぷ』はDVDになってますから。
うつのみや ギク。すいませんねえ(苦笑)。『少年猿飛佐助』は、ディズニー作品の選びと同じで、東映長編の中での1本という事なんです。ディズニーが混沌としたものから作っていって、だんだんと様式化されていったように、東映動画でも同じような事が起こるんだよね。『わんぱく』なんかになってくると様式化されちゃうけど、最初のうちは、ちゃんと見えているものを描こうとしていたんだな、って見て取れる。
── 『白蛇伝』の頃は?
うつのみや 『白蛇伝』や『少年猿飛佐助』は、確かにキャラクターデザインはちょっと様式的だけど、後の事を考えると、あれでも様式化は抑えているような気がします。
── 『少年猿飛佐助』は、作画に関しては、えらいリアリズムですよね。
うつのみや リアリズムっていう点で言うと、僕の中では、『白蛇伝』と『少年猿飛佐助』っていうのはまだリアルじゃなくて、その次の『西遊記』あたりからひとつの完成を見るような気がするんですよ。『少年猿飛佐助』は、大塚(康生)さんがやったシーンなんかは凄くいいんだけど、ばらつきもあって、全体として技術的には弱いところがある。『西遊記』になると、それが平均的に上がっているような気がする。
── なるほど。じゃあ、若い人にお勧めの東映長編というと何になるんですか。
うつのみや やっぱり、『長靴をはいた猫』でしょうね。スタジオで一緒に仕事してる若い人に勧めているんですけど、好評なんですよ。『ホルス』もお勧めなんだけど、さすがにみんな観ているからね。逆に『長猫』は観ていなくて、びっくりした。
── まあ、『ホルス』は枕詞のように、宮崎・高畑・大塚って言われますからね。前情報も多いし。
うつのみや ははは。お勧めはやっぱり『わんぱく王子(の大蛇退治)』と『長靴をはいた猫』と、『どうぶつ宝島』の一部分かな。『西遊記』もお勧めですけど、今の人だったら、ちょっと古いと感じるかもしれない。
── 今、『どうぶつ宝島』は部分的にお勧めという話でしたけど、確かにそうなんですよね。全編がテンション高いわけじゃない。
うつのみや そうね。例えば、小田部(羊一)さんがやった船出のシーンは凄くいい。
── あそこは「なんて凄い映画を今観ているんだ、オレは!」と思うんですけど、あの幸せは長くは続かないんですよね。
うつのみや そうそう(苦笑)。昔はあのあたりのコマ送りをよくしたんですよ。波のうねりが凄いとか、そういうところをチェックしてね。作品全体でまとまっていないと、そんなふうに興味がいっちゃうのかもしれない。いいところで言うと他には、宮崎さんの、もうこれでもかっていうぐらい速いアクションかな。巧いですねえ。
── あの頃すでに、宮崎さんはもうリミテッドの方に行ってますよね。TVアニメに行ったから、リミテッドになったわけではない。
うつのみや そうそう、ああいうのが好きなんですよね。まあ、厳密にはリミテッドではないと思うんだけど。
── 中抜けの快感みたいなのがありますよね。
うつのみや うん。ちゃんと(動きを)追ってはいるんだけど、面白いものを描こうっていう気持ちがあって、ああなっているのかなあ。田中達之君なんか、タイプが似てるんだよね。宮崎さんと比べて遜色ないイメージボードを描くし、フルアニメもできるんだけど、その一方で、中抜きぶりも凄いという。何となくダブりますね。
── なるほど。
うつのみや 話は脱線するんだけど、最近『姿三四郎』を観たんですよ。当時は田中敦子さんとか、近藤喜文さんの仕事がすっごい印象に残ったんです。でも、見直してみると……いやいや、大塚さん凄いよ、って。村井半助との対決シーンを描いているんだけど、めちゃめちゃ巧い。そんな事、改めて言うのも失礼かもしれないですけど。
 さらに脱線するけど、田中敦子さんのシーンもやっぱり巧い。月岡(貞夫)さんなんかと同じように、気持ちよく動かすんですよね。余分なアクションはあんまり描かない。友永(和秀)さんは、逆にソウルフルに、余分な動きでもなんでも丸ごと描いちゃって、そこが凄いんだけど。
── という事で、その友永さんや田中さんもやってる『(ルパン三世)カリ城』の話も。
うつのみや 僕は東映動画を観て、アニメーションに興味を持ったんです。で、アニメーションをやろうと思った直接のきっかけが、『カリオストロの城』なんですよ。それぐらい好きで。やっちゃいけないんだけど、劇場で写真を撮ったりしました。作画技術についてはその当時よく分からなかったけど、お話が凄くよくできてて、キャラクターに同化してハラハラした。よくあるパターンかもしれないけど、ルパンという男の純情さが伝わってくるじゃないですか。あまり人に褒められた人生を歩んでいない男が、ほんの少し残った純な部分で、恩ある女の子を助ける、という。そのロマンチックな設定を、面白さのオブラートでくるんでるわけでしょう。
── アニメーターになってからは、見返したりしたんですか?
うつのみや もう何度も見返してますよ。今観ても、作画技術もやっぱりいいんですよね。設計がよくできてて。ああいうふうには、なかなか描けないよね。今のものは凄くこってり作画してあるんだけど、ああいうふうにはなかなかならない。
── 青空すらいいですよね。ただの青い絵の具なのに(笑)。
うつのみや 見せ方がいいんだろうね。緊張感のあるところがあって、のんびりしたところがあって。そういうのんびりしたところって、印象に残るじゃないですか。そういうのが巧い。絵コンテや演出がよくできてるし、作画もそれをちゃんとフォローしている。今作られているような劇場作品ほど時間かけてない分、あの画のスタイルにはいいんだよね。
── そうか。作画に関しては、濃すぎないところもいいんですね。
うつのみや そうそう。
── 次が『(SF新世紀)レンズマン』ですか。劇場版の方ですね。
うつのみや ああ、これはね。このリストを作っている時に、色々考えたんですよ。海外で受けている「ジャパニメーション」と言われるようなタイプのアニメーションって、漠然とだけど、確かにあるじゃないですか。そういうのって、どこから始まったんだろうか、って。ここかなと思ったのが、『レンズマン』なんですよ。もちろん、それ以前になかむらたかしさん達が作られた映像が、そういったさきがけになっているとは思うんですが、フイルムとしてまとまって出てきたのがこれなんじゃないか。あれで、梅津(泰臣)さんと森本(晃司)さんの2人が台頭して、「ジャパニメーション」の礎を築いたような気がしてしょうがない。これ以前には、ああいうタイプのアニメーションって、あまり記憶にない。
── そうかもしれませんね。
うつのみや テレコムの『カリオストロ』みたいな、熟練した描き方ではなくて、もっと自分なりの感覚、自分の好きな形で作ろうとしている。「ジャパニメーション」イコール2コマだとは全然思わないし、『人狼』も3コマだとは思うんだけど、時間のとらえ方が、『レンズマン』と『人狼』では似ている気がする。で、僕にとって、特に衝撃的だったのは、梅津さんと森本さんの担当シーン。
── 梅津さんはキムが発進するところでしたっけ。
うつのみや 結構量をやっているんですよね、100カット以上やっているんじゃないかな。主人公が手で小型機のレバーを押すあたりから梅津さんで。宇宙船に辿り着いて、そこから緊急の呼びかけに応えて、階段の手すりをスーッと降りてきて、もう一度発進するところまで。その冒頭のシークエンスを全部受け持っていて。で、そのあと、レンズを受け取ったあとに惑星が崩壊するんだけど、崩壊した破片が舞い上がるあたりから、また梅津さんの担当で。父親が死んで、ロング(ショット)で星が崩壊するあたりまでは梅津さんじゃないかなあ。あと、森本さんは……。
── あの、長い長い追っかけですね。
うつのみや うん。
── 映画としてはちょっとしんどいんだけど(笑)。
うつのみや (苦笑)。森本さんは、『幻魔大戦』もそうだし『コブラ』でも活躍しているんだけど、やっぱり『レンズマン』での梅津さんとのダブルパンチでよかったんじゃないかなあ。
── 次が、『THE八犬伝[新章]』の4話「はまじ 再臨」ですね。
うつのみや これはもう、アニメーションの歴史の中で、重大な足跡っていう気がしますよ。あの手法が業界にもっと定着するかと思ってたんで、それがなかったのが残念なんだけど。
── ほんとに、あの1本だけですよね。あのアニメーションはあれしかないですよね。
うつのみや 近寄った作品は、あのあと『NINKU』の吉原(正行)君の回(41話 里穂子の涙・父のおもかげ)とか、あと、僕は見てないんだけど……。
── ああ、『SAMURAI7』ですか(第七話 癒す!)。
うつのみや うん。ポロポロとはあるんだけどね。きっとね、ほとんどの人は、他人と同じ事をやるのが嫌なんだろうね。でも、もうちょっと定着していいんじゃないかなあ。
── でも、それで言ったら、うつのみやさんに『御先祖様万々歳』みたいなものをもっと作ってもらいたいと、僕らは思ってますよ。
うつのみや それは……1回やっちゃった事って、繰り返してやりたくはないんですよね。
── (苦笑)そりゃ、そうですよね。
うつのみや そういう事なんだろうなあ。話を戻すけど、これ以前にも革新的なフィルムを作ろうっていう動きはあったんですよね。例えば、『(オネアミスの翼)王立宇宙軍』なんかでも、きっとそうふうな意気込みがあったと思うんです。でも、「はまじ 再臨」は、本当にそれまでの文法をぶっ壊している。ディズニーや東映動画がいちばん最初にアニメーションを作ろうとした時の、丸ごと描かなきゃいけないよね、みたいなところに戻って作ったような感じさえする。
── ええ、「画で表現する事は何か?」というところから始めてますよね。
うつのみや そうそう。雨の描写でもそうなんだけど、いったん現実を見てから、それを作画に起こすのにはどうするかって考え直しているように見える。そういうところに価値がある。また、それがちゃんとよくできている、というのが素晴らしい。表現としてのインパクトがあって、なおかつ技術的なバックボーンがあるんですよね。
── 次は『INNOCENCE』ですか。
うつのみや これはね、思ったよりCGがマッチしていて、これからの可能性を感じたんですよ。さっきの『シティ・オブ・ファイア』に関しては、個人ユースでもできそうなんですよね。一方、『INNOCENCE』は――今後はどうなるか分からないけれど――ちょっと大変な事をやっている。それだけに、色々と可能性は見せてくれたな、と思っているんです。「新しいジャパニメーション」はここから始まるのかな、とさえ思いました。それはCGが大きな要因ですね。作画ももちろんいいんだけどね。
── 途中まで作画の見せ場がほとんどないじゃないですか。このまま映画が終わったらどうしよう、って思って見てました。
うつのみや ははは。僕は、そうは思わなかったな。(後半のプラント船内部のシーンがなくても)十分価値のあるフィルムだと思ったから。それに、みんなが言うほど、ストーリーがよくないとも思わないし。ちゃんとできてる作品だと思いますよ。そういうちゃんとできてる作品で、これをやったっていう意義は大きい。
── 次は『母をたずねて三千里』。
うつのみや これは外せないでしょう。長く続くシリーズって、いろんなものを細かく描写できるじゃないですか。それだけ人間を掘り下げられる。それは1本の劇場長編を作るよりも大変だったりもする。で、『三千里』はちゃんとそれができているんですよ。
 これは僕個人の考えだけど、映画で言えば、イタリアのネオ・レアリスモとか、フランスのヌーベルバーグとか、アメリカンニューシネマとか、みんなそうなんだけど、いったんリアリズムに還るんだよね。物語として面白いものを作ってきたのが、どこかで飽きて、現実はこんなものじゃないよ、となる。それで、手持ちカメラを使ったり、ちゃんと銃撃戦を描こうとしたり、いったん原点に戻ろうとする。さっきの「はまじ 再臨」もそういう事なんだと思う。
 『三千里』に関して言うと、(原点に戻って)キャラクターの気持ちを、そのままちゃんと追いかけようとするんだよね。現実に起こりそうにない事は起こらない。『ホルス』は、「こうなったら、こうなってほしい」みたいなところが多少入っているんだけど、『三千里』はそういう事がない。ありがちな神の視点みたいなものは一切入れずに、とにかく僕らの身近にいるような人間だけを配置して世界を作ろうとしている。つまり、演出的な意味での原点回帰でね。アニメーションでこんなものができるなんて、という驚きが強かった。
── そのあともないですよね。
うつのみや うん。『カリオストロ』は面白い物語を作ろうとしているじゃない。そのちょうど逆で、そこにあるものを活写しようとしている。そういう意味では、僕にとって、このふたつが日本のアニメーションの対極であり、双璧なんです。
── とにかく全部観てほしいですよね。
うつのみや せめて1話と2話は観てほしい。
── 2話は凄いですよね。確か、1話は後から作ったんでしたっけ。
うつのみや そうそう。1話は単独で観てもまとまってて面白いしね。
── 宮崎さんが、『三千里』作っててストレスがたまったっていうのは、まあなるほどなっていう気がします。
うつのみや 宮崎さんのやりたい事と正反対ですもんね。『三千里』は現実にはこんな事は起こらないから、(描写を)入れちゃダメだ、みたいなところがありますからね。僕は、ああいうのを作ってみたい気はしますね。
── で、『SOUL EDGE』ですか。
うつのみや ここまでくると番外編という感じなんですけど。CGアニメーションもやっぱりアニメーションだと思ってるんです。実写が入り、CGが入ってもアニメーションなのか、と言われると、それは違う気もするし、その線引きは曖昧なんだけど。でも、少なくとも『SOUL EDGE』はアニメーションのカテゴリに入れたい。
── これは何ですか。
うつのみや ゲームのオープニングムービーですね。シーグラフなんかを観てると思うんだけど……つまり、何かを動かして世界を作ろうとする時に、まず手で描いちゃった。なんとかそれを背景を見せながらやりたいから、透明なセルを使った。で、そのセルのスタイルが大量生産に向いていて、商業ベースに乗る事から、セルアニメが発展したわけだよね。いちばん最初の、描きたい画がある時に、もしセルを使わないでCGというツールを使ってやったらこうなっちゃったのかな、みたいな、そんな気がするんですよね、『SOUL EDGE』なんかは。
── これは有名なんですか。
うつのみや 何かの賞を獲ったんじゃないかな(編注:文化庁メディア芸術祭第1回大賞受賞等)
── うつのみやさんって、ゲームはやられるんですか。
うつのみや いえ、レースゲームぐらいしかしませんね。
── じゃあ、ムービーだけ観たんですね。
うつのみや そう、ムービーのためだけにゲームを買って、ゲーム自体は遊んでません(笑)。
── わざわざそれだけのために買って観たんですか。それは凄いなあ。
うつのみや まあ、それぐらいインパクトがありましたね。
── で、最後は、以前の「WEBアニメスタイル」でのインタビューでも、うつのみやさんが話題にした梅田さんの作品ですね。
うつのみや リストはちょっとカテゴリーを広げすぎたかもしれないけど、いろんなアニメーションがあっていい、というのが僕の基本姿勢なんですよ。商業アニメーションでも、観客の事を考えていない作品は好みじゃないし、逆にアマチュアアニメーションでも、観ている人の事を考えていればいい。梅田君の作品は――観ている人の事を考えているかどうかは分からないけど――、できあがったものは普通の人が見ても面白いものだと思うし、技術的にも優れている。何より、井上(俊之)君の『幽霊滝の伝説』のように、突出した才能というのは確かにあるんだな、と思わされたものですし。ほら、僕みたいに苦節何年でアニメーションやっている人間も多いと思うんですよ。
── 何をおっしゃいますやら(苦笑)。
うつのみや ホントホント。でもね、最初から描けちゃう人っているんだよね、と思った。聞くと、確かに育ちが違うんだよね。ほら、月岡さんが……。
── ああ、月岡さんは、映画館の息子さんなんでしたっけ。子供の頃から、フィルムを手にとって観たという伝説がありますよね。
うつのみや 梅田君もそうなんです。梅田君は、ビデオをスローで観るのが好きなんですよ。そういうのをプロになる前からやっていたから、知らず知らずのうちにアニメーションの勉強していたのかもしれないね。今何をしてるのか。また、アニメーションやってくれないですかね。あれぐらいの人だったら、今描いてもきっと巧いんじゃないかと思うので。
── はい、という事で終わりです。どうでしたか、選んでみて?
うつのみや ちょっと場違いな作品を入れたり、肩肘張ったりしたような気もします。ざっくばらんに好きなアニメーションを並べた方がよかったのかもね。あと、番外で『御先祖様万々歳!』を入れたいんだけど、いいですか。
── ええ、どうぞ。
うつのみや 自分が関わっている作品だから、ベスト20から外したんだけど、もしも、自分が携わった作品でなかったら、入る作品ではあると思うんですよ。
── そうですね。やっぱり作画について考える上で、大事な作品ですものね。うつのみやさんって、普段、退屈した時なんかに観るアニメってあるんですか。
うつのみや ありますよ。『わんぱく王子』の大蛇退治のシーンを観たりとか、『カリオストロ』とか。あとはCGや『蛙になったお姫様』を繰り返し流していたり。ここで挙げたものは結構観てますね。ものによっては、環境ビデオみたいに1日中流していましたよ。
── ところで、作画にこだわらず、好きなアニメってありますか。
うつのみや いっぱいありますよ。『巨人の星』とか。
── 『巨人の星』は作画いいんじゃないですか?(笑)
うつのみや ああ、そうか。いや、たとえ作画がよくなくとも、『巨人の星』は大好きですよ(笑)。

●2005年2月12日
取材場所/東京・東伏見
取材/小黒祐一郎
構成/小川びい


※なお、本文で触れた、梅田りゅうじ(隆史)さんは、現在は地方在住でマンガを描かれている。下記のサイトでその作品のいくつかをみることができる。

漫画 笑わない子供
http://members.jcom.home.ne.jp/warawanaikodomo/

 

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(05.03.30)

 
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