第14回 『無敵鋼人ダイターン3』
アニメブームが本格的に盛り上がる前から、ロボットアニメでは、アニメファンを意識した作品が作られていた。1976年の『大空魔竜 ガイキング』は主人公側に複数の二枚目キャラを配置し、SF的な設定に力を入れていたし、『超電磁ロボ コン・バトラーV』には敵美形キャラであるガルーダの悲劇があった。1977年には松本零士の原作で、しかも、宇宙ものの『惑星ロボ ダンガードA』、ドラマ性を高めたとして評価されている『超電磁マシーン ボルテスV』。それ以前にも、1975年の『UFOロボ グレンダイザー』等、高年齢のファンを視野に入れたと思われる作品はあり、最近、作り手がどんな意識でそれらの作品を作っていたのかが気になっている。
僕は一時期ロボットアニメを観ていない時期があった。小学校の高学年になって、そのジャンルから距離を置いていたのだ。「マンガ少年」の記事等でアニメに興味を持ってから、ロボットアニメを慌てて追いかけ始めた。『グレンダイザー』や『コン・バトラーV』は再放送でチェックし、『ダンガードA』や『ボルテスV』は本放送の途中から観た。
1978年に始まったロボットアニメは『闘将ダイモス』『無敵鋼人ダイターン3』『宇宙魔神ダイケンゴー』だ。この3本の中で、僕が一番楽しんで観ていたのが『ダイターン3』だ。ただ、当時のアニメファンには『ダイモス』の方がメジャーな作品であり、『ダイターン3』はややマイナーな存在だった。『ダイモス』は、『コン・バトラーV』『ボルテスV』から続く長浜忠夫監督のドラマチックロボットアニメ第3弾で、主人公の竜崎一也と、敵バーム星人の女性であるエリカの恋を主軸にしたアニメ版「ロミオとジュリエット」。前2作の流れを汲む敵美形キャラのリヒテルの存在も大きく、アニメファンにアピールする内容だった。
それに対して『ダイターン3』は「007」シリーズを意識した娯楽性の高いアクションものだった。監督は富野由悠季(当時・喜幸)で、企画・制作は日本サンライズ(現・サンライズ)。主人公は、大金持ちの快男児である波嵐万丈。毎回、主役ロボのダイターン3での戦闘開始時に「世のため、人のため、メガノイドの野望を打ち砕くダイターン3。この日輪の輝きを恐れぬのなら、かかってこい!」と、時代劇ばりの決めゼリフを口にする。主人公の名前が「ハランバンジョウ」で、主人公ロボの名前が「大胆」。どう考えても、マジメ一辺倒の作品ではない。シリアスな話もあるが、全体にコメディ色が強かった。だから、「007」的なロボットアニメというよりは、『新ルパン』風ロボットアニメだと思っていた。特にいい味を出していたのが、万丈家の執事であるギャリソン時田だ。礼儀正しく冷静な老人で、万丈の戦闘中に、無線で夕食の献立について連絡してきたりするのがおかしかった。万丈のパートナーはレイカ、ビューティーという2人の美女、そして、トッポという少年だ。主人公がヒーロー的なキャラクターであり、しかも、大人の男性(自信家でキザで、女性にモテる)で、2人の美女を連れているあたりが新鮮だった。
バラエティに富んだシリーズだった。好きだったエピソードは、万丈のヒーロー性が満喫できる「出ました! 破嵐万丈」(1話)、スタジオZの作画が炸裂した「コマンダー・ネロスの挑戦」(2話)、映画のパロディを織り交ぜ、大勢の映画俳優をモブキャラとして登場させてしまった「スターの中のスター」(22話)、万丈、ビューティー、レイカ、トッポの4人がかりで傷ついたダイターンを操縦する「完成! 超変型ロボ!」(28話)、敵コマンダーの妙なポーズが印象的なコメディ編「あの旗を撃て!」(32話)、万丈の代わりにギャリソンがダイターンに乗って戦う「秘境世界の万丈」(33話)等。『ダイターン3』は全体がパロディチックで、さらに「完成! 超変型ロボ!」や「秘境世界の万丈」でその傾向が顕著なのだが、「ロボットアニメそのもの」を茶化しているところもあり、それが好きになった理由のひとつだと思う。ギャグ中心の話も、今観返すとテンポがゆるくて笑えなかったりするのだが、それは時代が変わって、こちらの感覚が変わったためだろう。それについては、ちょっと寂しく思う。
僕は本放送は途中から観た。初期の話数は、後に上映会に行ったり、友達にビデオを観せてもらったりして、クリアしていった。後に発売されたロマンアルバムで、観ていない回の内容をチェックした。名作と評判が高い、万丈の過去編「遥かなる黄金の星」(12話)を観る機会を得たのは、4年後か5年後だったはずだ。
『ダイターン3』でよく話題になるのが最終回だ。万丈は、メガノイドのボスであるドン・ザウサーを倒すが、その後で「僕は、嫌だ」というセリフを口にする。ラストシーンでは、レイカ、ビューティー、トッポ、ギャリソンが万丈邸を去っていく。万丈がどうなったのかは分からないが、誰もいなくなった夜の万丈邸のひとつの部屋に灯りがともる。そこで物語は終わりを告げる。シリーズ中に、万丈の過去は一部が描かれてきたが、その全てが描かれたわけではない。ドン・ザウサーの頭部には、人間の脳らしきものが収められており、僕はかつてメガノイドを生みだした万丈の父親の脳だろうと思っていたのだが、そのあたりも劇中では説明されていない。「僕は、嫌だ」のセリフも、いくつかの解釈ができ、ファンはそれぞれラストシーンの意味について考える事になった。
その最終回や何度かあるシリアス編だけでなく、『ダイターン3』は全体にどこかドライなところがあった。笑いの多い話でも、陽気になりきれないところがあった。それも富野監督の持ち味だろうと思う。
第15回へつづく
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(08.11.21)