第18回 アニメラジオ
アニメブームの頃は「音」が大事だった。すでに家庭用ビデオデッキは発売されていたが、高額であり、そう簡単には手が出せなかった。だから、レコードやカセットの存在が大きかった。主題歌やサントラだけでなく、アニメ本編の音声を収録したドラマ編も沢山発売されていた。TV放映をカセットテープに録音して楽しむ事も多かった。それからラジオだ。僕は中学の頃、アニメ関連に限らず、よくラジオを聴いていた。特にラジオ漬けだったのが1978年だ。その頃、すでにアニメ関連番組は幾つもあった。若者の間のアニメ人気に、ラジオがいち早く反応していたという事だろう。タイトルに「アニメ」の語が入った最初のラジオ番組はアニメトピアだそうだが、アニメトピアの放送開始が1979年秋。その頃には、あまり聴かなくなっている。この連載はデータ的な裏づけをあまりとらず、記憶で書いているが、今回は特に記憶モードでいく。
同年輩のアニメファンと話をして、当時のラジオでよく話題になるのは、オールナイトニッポンで放送された『宇宙戦艦ヤマト』のラジオドラマだ。1977年12月にTVシリーズ第1作の内容をドラマ化したものを放送。『さらば宇宙戦艦ヤマト —愛の戦士たち—』公開直前の1978年8月4日深夜に、そのドラマを放送。同年代の友達にはリアルタイムで聴き、カセットテープに録音した人が大勢いる。放送前には、学校の友達も「『ヤマト』のラジオだ」と言って盛り上がっていたはずだが、なぜか、僕はオンエアを聴いていない。単に明け方まで起きている根性がなかっただけかもしれない。
『宇宙戦艦ヤマト』のラジオドラマと言えば、もうひとつ伝説的なのが、あべ静江の『宇宙戦艦ヤマト』だろう。1977年にNHK—FMで放送された番組だ。まず「NHKで『ヤマト』をやる」というのに驚いた。内容は朗読劇の形式で、ト書きも台詞も、歌手のあべ静江が読んでいた。とにかくデスラーの高笑いが印象的だった。放送を聴いた翌日に、学校で「あべ静江のデスラーが凄かった」と話題になった。
熱心に聴いていたのは、文化放送「ペパーミントストリート 青春大通り」という枠で、毎週水曜にやっていた、ささきいさおの番組。『宇宙海賊キャプテンハーロック』と前後して始まったはずだから、スタートは1978年春のはずだ。「ささきいさおのアニメハウス」というタイトルだと思っていたのだが、ネットで検索してもこのタイトルは引っかからないし、当時のアニメ雑誌をチェックしても、「ささきいさおの青春大通り」とある。記憶違いだろうか。ささきいさおがDJを務めており、アニメ主題歌が沢山かかった。それだけでも嬉しかった。彼が曲を紹介する時に「次にお送りするのは、スキャンティ・スキャンティ……じゃなかった、キャンディ・キャンディ!」と、超ベタなギャグをトバしていたのが印象的だ。「星に想うスターシャ」「枯木霊歌」「好敵手」といった、ささきいさお&松本零士関係の歌はこの番組で何度も聴いた。またこの番組でも『さらば宇宙戦艦ヤマト —愛の戦士たち—』のラジオドラマをやっていた。当時は、オールナイトニッポン版を編集したものだと思っていたが、この番組のための新収録だったようだ。
厳密にはアニメ番組ではないけれど、帯でやっていたドラマ番組「キリンラジオ劇場」「夜のドラマハウス」もよく聴いていた。「キリンラジオ劇場」では、松本零士原作の「ザ・コクビット」が、後にレコード化された。同枠ではTVアニメ以前に「銀河鉄道999」のラジオドラマもやっていたはずだ。メーテルが吉田理保子で、鉄郎が小原乃梨子だったと記憶している。間違いだったらご免なさい。
ラジオドラマと言えば「ラジオ劇画傑作シリーズ」もよく聴いていた。これは人気マンガをラジオドラマ化するシリーズで、厳密にはアニメ関連番組ではないのだが、例えば「750ライダー」は主人公の早川光が富山敬で、ヒロインの委員長が麻上洋子という思いっきり『ヤマト』なキャスティングだった。毎回、委員長がふてくされるシーンがあって、いつも「もう早川君ったら。あたし、髪切って、口紅塗って、グレてやるから!」という台詞を言うのだ。照れくさかったなあ。アニメとは全く関係ないが、同シリーズの『ブラック・ジャック』が大好きだった。台本のト書きや効果音を、大勢の子役が読み上げるアバンギャルドなラジオドラマだった。アニメっぽいキャスティングと言えば、単発でラジオドラマ版『スター・ウォーズ』があった。ルーク・スカイウォーカーが神谷明で、オビ・ワン・ケノービが納谷悟朗。確か「ルーク、フォースを使え!」の台詞が、「古代、波動砲だ!」に近いノリで、ニヤニヤしながら聴いた。
1978年には、毎週日曜に『科学忍者隊ガッチャマン』のラジオドラマもあった。これは秋に始まる『科学忍者隊ガッチャマンII』のプロモーションを兼ねた番組だったらしい。最初はオリジナルTVシリーズの内容をトレースしたシリアスな内容だったのだが、数週おいて聴いたら、アニパロ番組になっていてビックリした。ガッチャマンとギャラクターが野球で勝負したり、大喜利をやったり、ベルクカッツェがギャラクターの歌を披露したり。かなりの悪ノリだった。
アニパロと言えば、前述のささきいさおの番組で、ささきいさお、寺島幹夫、麻上洋子が演ったミニドラマがあったと記憶している。コンドルのジョー(ささき)とカッツエ(寺島)が、なぜかコソドロになって、森雪(麻上)の部屋に泥棒に入るというもの。確か2人が忍び込む場面では「ピンク・パンサー」の曲がかかった。雪の部屋は、古代進の写真が一杯貼ってあって、それを見たコンドルのジョーが「これはまさしく古代(誇大)妄想狂!」と言う。そこに森雪が帰ってきて怒る、という展開。アニメファンが思いついたようなパロディを、オリジナルのキャストがやっていたわけだ。これはインパクトあった。
他に聴いていたのは、山田康雄がDJを務めていた「ルパンにまかせろ」、神谷明と堀江美都子の「ミッチと明の底抜け日曜拳銃」等。それから、これもアニメ番組ではないが、野沢那智と白石冬美の「パックインミュージック」は、この時期だけでなく大学受験の頃まで聴いていた。僕もそうだが、多くのアニメファンにとって、アニメブームはラジオと共にあったのだろうと思う。
第19回へつづく
(08.11.28)