アニメ様365日[小黒祐一郎]

第21回 リアルとロマン

 少しだけ『機動戦士ガンダム』の話を続ける。『ガンダム』に触れてから、自分の中で『ヤマト』の魅力が急速に失われていった。『ガンダム』を観たために、『ヤマト』的な「ロマン」を甘ったるいものと感じるようになったのだ。
 分かりやすい例を挙げれば、劇中での死の扱いだ。『ヤマト』でも人は死ぬ。主人公も、主人公の仲間も命を落としていった。だが、大抵の場合、死ぬ前に思いを込めたセリフを口にしたり、格好いいポーズを取ったりしていた。勿論、僕はそれに魅力を感じていた。だが、『ガンダム』ではキャラクターが死ぬ前に、思いを込めたセリフを口にするような事はなかった。マチルダはドムの攻撃によって輸送機ごと粉砕される。死に至るまでの演出的なタメはなく、グシャっと潰される。カイ・シデンの恋人であったミハルは、自分がミサイルを撃った衝撃で吹き飛ばれて死んでしまった。敵の攻撃で死んだのですらない。「戦争って、本当はこうなんだろうなあ」と思った。
 前回、『ガンダム』の1話について「印象は『リアル』ではなく『シリアス』だった」と書いた。その印象は現在も変わっていない。『ガンダム』の魅力はシリアスさにあると思う。そして、そのシリアスさを支えているのがリアリティだった。『ガンダム』はリアルなアニメだった。世界観やミリタリー的な部分だけでなく、登場人物の描写も、ドラマの運び方もリアルだった。僕は、劇中の出来事を、まるで本当に起きている事のように感じていた。クールなタッチ、ドライなタッチで作られている事も重要だ。分かりやすく文章にすると以下のようになる。「『ガンダム』はクールな感覚、ドライな感覚で作されたリアルで、シリアスなアニメである」。
 言葉遊びのようになってしまうが、シリアスかどうかと言えば『宇宙戦艦ヤマト』も、充分にシリアスなアニメだった。『ヤマト』のドラマは熱く、ウエット。それに対して『ガンダム』のドラマはクールで、ドライだ。『ヤマト』は「ロマン」のアニメであり、『ガンダム』は「リアル」のアニメだった(前も書いたとおり『ヤマト』も「リアル」なアニメではあるのだが、これは「何と比較してリアルか」という問題だ)。
 時系列的な事で言うと『ガンダム』放映開始と同時に、TVシリーズ『宇宙戦艦ヤマト2』が終わっている(『ヤマト2』の最終話と『ガンダム』1話が、同じ1979年4月7日に放映されている)。『さらば宇宙戦艦ヤマト —愛の戦士たち—』で死んだ古代進達が、『ヤマト2』では生き延びる事になり、なんとなく納得できないと思っているところに『ガンダム』が始まった。『ヤマト』的な「ロマン」が色褪せたと感じたのは、そういったタイミングで『ガンダム』を観た事も大きいのだろう。本来的には、作品中で描かれている「ロマン」と、作り手の都合で死んだキャラクターを生き延びさせてしまった事は、別次元の問題なのかもしれないが、少なくとも当時の僕は、それを切り分けて考えられなかった。
 僕以外のアニメファンも『ガンダム』の登場によって、『ヤマト』的な「ロマン」を甘ったるいものと感じるようになったのかどうかは分からない。しかし、多くのファンが『ヤマト』的なロマンに飽きていったのは間違いないし、『ガンダム』の存在がそれを後押ししたのも間違いないだろう。当時、僕ははっきりと『ガンダム』が『ヤマト』を倒したのだと思っていた。富野喜幸監督をはじめとするスタッフ達は、当然『ヤマト』をライバル視して『ガンダム』を作っていたはずであり、その意味でも、彼らは成功をおさめている。

第22回へつづく

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(08.12.03)