第22回 シャア・アズナブルと長浜美形キャラ
シャア・アズナブルは傑出したキャラクターだ。彼と主人公アムロで『機動戦士ガンダム』という作品のカラーの、かなりの部分を作っている。野心家で、腹に一物ある男。パイロットとして優秀なだけでなく、世渡りにも長けている。つまり、現実的な世界で上手くやれる男だ。その発言はシニカル。自嘲的でもある。1話ラストの「認めたくないものだな、自分自身の、若さゆえの過ちというものを……」は名セリフ中の名セリフだ。自分の行動を客観的に見ており、さらに自分で自分を「若くて未熟だ」と言っているところが、むしろ格好いい。達観しているのだ。勿論、そこにはナルシシズムやプライドの高さも込められている。2話のドレンとの会話での「戦いとは、いつも二手三手先を考えて行うものだ」や、ガンダムとの戦闘で部下に言った「当たらなければどうということはない」等、言っている事がいちいち筋が通っているのにも感心した。言動はスマートだが、屈折したところがあり、また、妙に派手好きで自分のモビルスーツを赤く塗装したりする。そういった部分も含めて、富野監督ならではのキャラクターである。監督自身に似ているキャラクターでもあると思う。彼が創り出した登場人物の中で、最も成功した存在だろう。
さて、以下が今回の本題だ。前回『ガンダム』の登場によって、『ヤマト』的な「ロマン」を甘ったるいと感じるようになったと書いた。それから、僕は『ガンダム』は、長浜忠夫監督のロボットアニメも古いものにしたと思っている。『ガンダム』というリアルロボットアニメの登場で、古典的なロボットアニメ(研究所に博士がいて、そこにロボットがあり、敵が毎回1体ずつ攻めてくるようなロボットアニメ)は勢いを失っていくのだが、それとは別に、長浜忠夫監督のロボットアニメを直撃したと思うのだ。これについても、同世代のアニメファンが同じように思ったかどうかは分からない。どちらかと言えば、そう感じたのは少数派だろう。だけど、僕はそう感じたし、事実そうなったと思う。
長浜監督の『超電磁ロボ コン・バトラーV』『超電磁マシーン ボルテスV』『闘将ダイモス』は、ドラマチックロボットアニメ三部作と言われている。富野監督が『無敵超人ザンボット3』『無敵鋼人ダイターン3』を作っている頃、長浜監督は『ボルテスV』『闘将ダイモス』を手がけており、当時のアニメファンには、そちらの方がメジャーだった。
長浜監督のドラマチックロボットアニメ三部作のシンボルとも言えるのが、美形悪役キャラのガルーダ、ハイネル、リヒテルだ。いずれも高貴な生まれの、自尊心の強いキャラクターであり、女性ファンの人気を集めていた。ロマンが感じられるキャラクターでもあった。系譜で言うと、同じ長浜監督の『巨人の星』に登場した花形満の流れを汲む存在だ。花形も、自意識が強く、プライドが高く、言動が芝居がかっている。ガルーダ達だけでなく、後続の多くのアニメキャラクターが、花形の影響を受けているはずだ。
『ガンダム』で言えば、ザビ家の四男であるガルマ・ザビが、長浜美形的な登場人物だった。生まれ育ちからして、王子様的なキャラクターだ。マスクは甘く、人柄は素直。よく言えば純粋で、悪く言えば馬鹿正直。それまでのロボットアニメなら、主人公の宿敵になりそうなキャラクターだ。シャアも美形悪役として分類されるキャラクターであるが、さっきも言ったようにシニカルであり、屈折している。それまでの美形悪役をドライにし、屈折させ、ダーティさを加えたのがシャアだった。そんなシャアが、ガルマを謀殺した。さらにシャアは、ガルマを殺した後、彼が死んだ理由について「坊やだからさ」と言っている。僕はそれを痛快に感じた。リアルな美形キャラが、甘ったるいロマンの世界にいる美形キャラを殺したように見えたからだ。別にハイネルやリヒテルに恨みがあったわけではないが、そんなシャアを格好いいと感じた。
第23回へつづく
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(08.12.04)