アニメ様365日[小黒祐一郎]

第23回 1979年

 1979年は奇跡のような1年だった。前1978年がアニメブームが勢いよく盛り上がっていった年なら、1979年はブームの中、名作傑作が次々と生まれていった年だ。思春期にこの年のアニメを立て続けに観たら、アニメファンにならないわけがないと思うくらい、傑作が続いた。
 富野由悠季は『機動戦士ガンダム』を、りんたろうは劇場版『銀河鉄道999』を、出崎統は劇場版『エースをねらえ!』を、宮崎駿は『ルパン三世 カリオストロの城』を手がけている。いずれも、それぞれの監督の代表作となっているタイトルだ。劇場版『999』『エース!』『カリ城』は、アニメブーム以前では考えられなかった企画だし(そもそもブーム以前は、劇場長編が製作される機会は非常に少なかった)、『ガンダム』もアニメファンに向けて作られた作品だ。
 アニメブーム期に、劇場長編や高年齢のファンをターゲットにした作品を制作する機会を得て、名作や傑作が作られた。だが、それだけではない。アニメブームは、さっき名前を挙げた監督達、あるいは現場のスタッフが成熟してきた時期なのだ。日本初の本格的TVアニメシリーズである『鉄腕アトム』の放映開始が1963年。富野監督、りん監督、出崎監督は、いずれも『鉄腕アトム』で演出家としてのキャリアをスタートさせているし、宮崎監督も同じ年に東映動画に入社し、アニメーターとして活動を始めている。『鉄腕アトム』で日本のアニメ状況は大きく変わり、独自の進化を続けた。彼らは様々な作品を手がけ、作り手として成熟していった、そんな時にアニメブームがやってきた。
 また言葉遊びのようになってしまうが、作り手が成熟し、見応えのある作品が生まれるようになったため、それをファンが支持し、アニメブームが起きたと考える事もできる。いずれにしても、アニメブームは、作品を支持するファン、そして、作り手の成熟と共にあった。
 先ほど挙げた作品以外にも、1979年には『赤毛のアン』『サイボーグ009[第2シリーズ]』『シートン動物記 りすのバナー』『アニメーション紀行 マルコ・ポーロの冒険』『ベルサイユのばら』『龍の子太郎』と話題作、見応えのある作品が多い。それらもアニメブームや、作り手の成熟が生んだ作品だ。

第24回へつづく

(08.12.05)