アニメ様365日[小黒祐一郎]

第24回 劇場版『銀河鉄道999』

 劇場版『銀河鉄道999』は1979年8月4日に公開された。大ヒットを記録した作品であり、『さらば宇宙戦艦ヤマト —愛の戦士たち—』と並び、アニメブームを代表するタイトルだ。普遍性を勝ち得た作品であり、日本の劇場アニメを代表する1本だろうと思う。
 機械の身体をただでくれるという星に行くため、星野鉄郎は銀河鉄道999号に乗り込んで宇宙を旅する。松本零士の同名マンガの映像化であり、原作は劇場版の前に、すでにTVアニメ化されていた。原作やTVシリーズでは10歳だった鉄郎の年齢が、劇場版では15歳に引き上げられ、見た目も随分とハンサムになっている。公開時には、原作は連載中だったが、この劇場版で先行して旅の終わりが描かれ、ヒロインであるメーテルの正体も、一応、判明した。松本零士の他作品の主人公であるキャプテンハーロック、クイーンエメラルダスも鉄郎が憧れる英雄として出演。その物語への絡め方も上手い。原作もTVシリーズも、童話めいたところのあるファンタジーだが、劇場版ではアクション物の要素が付加されている。また、劇場版はこれから大人になろうとする少年の憧れ、活躍、旅立ちを描いている。この場合の憧れとは、果てしない宇宙、自分が進むべき未来、美しい異性、宇宙を駆ける英雄への憧れである。劇場版は「これから大人になろうとしている少年」の主観に沿って描かれたファンタジーだ。
 そういった意味での「少年の物語」であるところに劇場版『銀河鉄道999』の価値がある。それが映画全体に深みを与えている。特に、999号で地球を旅立つシーンの高揚感、ラストシーンの切なさは素晴らしい。これもやはり「夢とロマン」の映画なのだが、その夢やロマンが「少年の想いや憧れ」という、より共感しやすいものとリンクしているため、作品が古びない。劇場版『銀河鉄道999』が普遍性を持ち得たのは、そのためだと思う。
 スタッフ的な事で言えば、企画・原案・構成である松本零士のロマンチシズムと、りんたろう監督の映像美学、小松原一男作画監督をはじめとする東映動画スタッフのエネルギッシュな仕事ぶりが、ひとつになった作品と言えよう。近年になって、りん監督の本質に、センチメンタリズムがあるのではないかと思うようになった。そういった意味でも、劇場版『銀河鉄道999』は彼に合った題材だったのだろう。作画に関しては、小松原一男の一世一代の仕事だと思う。キャラクターに色気があるし、アクションものらしいメリハリのつけ方もいい。特にメーテルは絶品だ。全ての松本零士原作アニメの中で、最も美しいヒロインだろう。原画で言えば、機械化母星メーテルでの友永和秀、金田伊功のメカアクションが、やはり素晴らしい。アニメ作画史に残る豪華絢爛なアクションシーンだ。それから、稲野義信、兼森義則といったスタジオバードのメンバーの活躍も見逃せない。止めを効果的に使った演出にしても、メリハリを効かせた作画にしても、TVアニメの延長線上にあるものだったが、それがまた格好よかった。勿論、絵画的な美術も、厚みのある音楽もいい。ゴダイゴによる主題歌が名曲であるのも、言うまでもない。
 前年夏に『さらば宇宙戦艦ヤマト —愛の戦士たち—』の公開があり、翌1980年夏には『ヤマトよ永遠に』、1981年夏には本作の続編である『さよなら銀河鉄道999 —アンドロメダ終着駅—』、1982年夏には『わが青春のアルカディア』が劇場公開される。毎年夏には、東映系の劇場で松本零士関連の劇場アニメが公開されていたわけだ。僕はこの映画を、公開2日めか3日めに観に行っている。大きな劇場が満員で、通路にも床に座って鑑賞している観客が大勢いた。これから始まる映画に、皆が期待しており、劇場内が熱気であふれていた。アニメブームという言葉で、最初に思い出す光景は、あの時の劇場の様子だ。
 物語の大筋だけ取り出すと、総集編的になってもおかしくない内容だと思う。2時間9分の中に、地球でのメーテルとの出逢い、タイタン、冥王星、エメラルダスとの邂逅、ヘビーメルダー、機械化母星メーテルでのクライマックス、プロメシュームの最期、ラストシーンと、いつものエピソードが詰め込まれている。にも関わらず、決して展開は性急ではないし、個々のシーンが物足りなくもない。むしろ、機械化母星メーテルに着くまでに停車した星はみっつしかないのに、そこまでにたっぷりと旅をしてきたように感じてしまうところが凄い。鉄郎は機械伯爵を倒した後、機械の身体をただでくれるという星を破壊する事を決意する。そこで「ひょっとしたら、この映画は終わらないのではないか。鉄郎の旅はいつまでも続くのではないか」という妄想を抱いた。そんな妄想を抱くくらい、作品世界に深みがあり、上手く物語が構成されているのだろう。
 前年の『さらば』で泣いてしまったので、劇場に行く前から「今年は泣かないぞ」と思っていた。だけど、泣いてしまった。ラストシーンだ。メーテルと鉄郎のキスシーンのあたりで気持ちが高まり、走っていく999号に向かって、鉄郎が走り出したところで泣いてしまった。今までの人生で、劇場で泣いたのは『さらば』とこの作品だけだ。そして、この時は気持ちよく泣けた。

第25回へつづく

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(08.12.08)