第29回 『アニメーション紀行 マルコ・ポーロの冒険』
『アニメーション紀行 マルコ・ポーロの冒険』は「幻の作品」となってしまったタイトルだ。1979年4月7日に放映が始まったTVシリーズで、NHKの30分枠アニメとしては、『未来少年コナン』『キャプテン フューチャー』に続いて3作目となる。
東方見聞録で知られるマルコ・ポーロの生涯を映像化したもので、キャラクターが登場するドラマ部分はアニメで描き、風景や人々の暮らし等は、海外ロケによる実写映像を使用するというスタイルを採っていた。タイトルに「アニメーション紀行」の冠がついているが、アニメであり、世界紀行番組であったわけだ。NHKならではの企画だろう。『未来少年コナン』は日本アニメーションが製作した作品を、『キャプテン フューチャー』は東映動画が製作した作品を、NHKが放映するかたちだったが、『マルコ・ポーロの冒険』はNHKが自局で製作した番組だった。アニメーション制作はMKとマッドハウスが担当。アニメの実制作はマッドハウスだったのだろう。
旅のロマンとエキゾチックさが魅力の作品であり、対象年齢は高く、大人びたムードが漂っていたと記憶している。見どころのひとつが、杉野昭夫によるキャラクターデザインだ。彼にとっては『宝島』直後の作品であり、劇場版『エースをねらえ!』と同時進行で作業をしているはずだ。タッチが、劇場『エースをねらえ!』に近く、彫りが深く、骨太のデザインとなっている。赤トーン、青トーン等、1トーンで画面をまとめる色遣い、大胆に省略した美術等、マッドハウスらしいスタイリッシュな映像が随所に観られるはずだ。シンガーソングライターの小椋佳が音楽を担当しているのも話題のひとつ。この番組のために作られたボーカル曲も多く、中でも、オープニングに使われた「いつの日か旅する者よ」は名曲だ。
と、またも、さも知ったような事を書いてしまったが、僕は『マルコ・ポーロの冒険』を全話は観ていない。多分、半分も観ていないだろう。どうして観ていないのかは覚えていない。何か裏番組を観ていたのかもしれない。再放送で観ればいいや、と思っていたような気がする。ところがそれは甘かった。僕が知る限りこの作品は一度も再放送されておらず、ビデオソフト化もされていない。
ビデオソフト化については、したくてもできないらしい。それについては、NHKの関係者の方にうかがった事がある。『マルコ・ポーロの冒険』はアニメパートと実写パートをビデオ編集し、音声をダビングするかたちで制作されていた。つまり、ビデオのかたちで作品が完成している。そして、そのビデオのマスターテープは、放映終了後に消去されてしまったのだ。当時はビデオテープが高額であり、放映後にビデオが消されるのは当たり前の事だった。
6年ほど前だったか、当時のスタッフが1話と2話を録画しており、それを観せていただく機会を得た。記憶通り、作品の作りはしっかりしたものだった。実写パートとアニメパートの組み合わせは、記憶していたよりもずっと複雑だった。たとえば、1話でマルコの父親のニコラ、叔父のマテオがローマ法王庁を訪れたシーンは、映像は全て実写のローマ法王庁を撮影したもので、そこにキャラクターの声を乗せてドラマを構成していた。2話のバザールのシーンでは、売り買いをする人達の実写のカットと、キャラクターをアニメで表現したカットが混在している。賑やかなバザールの点描は実写、マルコ達と彼等と交渉する商人達がアニメといった具合だ。あるいは、ラクダに乗ったマテオ達が、いなくなったマルコを探すシチュエーションは、実写のラクダの映像に、マテオの声とラクダの足音の効果音を乗せる事で表現していた。視聴者が想像力を働かせる部分が大きい作りだ。それが面白いと思った。
1話と2話を観て、改めて他の話も観てみたいと思うようになった。NHKで放映された少年ドラマシリーズの「タイム・トラベラー」も人気のある番組だったが、これもNHKに映像が残っていなかった。だが、視聴者が家庭用ビデオデッキで録画していたのが発見され、現在はビデオソフト化されている。『マルコ・ポーロの冒険』は「タイム・トラベラー」よりは時期が後であり、録画しているファンはずっと多いはずだ。当時ファンが録画していたビデオを集めれば、全話DVD化できるのではないかと思うのだが。
第30回へつづく
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