第51回 『鉄人28号』(1980年版)
『ムーの白鯨』の後番組が『鉄人28号』だった。『太陽の使者 鉄人28号』と呼ばれる事の多い作品だが、実際の番組タイトルは、シンプルに『鉄人28号』。今回の原稿では、僕が馴れている『新・鉄人』の表記を使う事にする。原作は横山光輝の同名マンガ。『鉄腕アトム』と共に、日本のロボットマンガを代表するタイトルだ。何度も映像化されており、『新・鉄人』は2度目のアニメ化だった。
放映されたのは、1980年10月から翌年9月まで。制作は『ムーの白鯨』と同じ東京ムービー新社で、チーフ・ディレクターも引き続き、今沢哲男が務めている。作画監督は鈴木欽一郎、メカニック・デザイナーは前田実と、スタジオジュニオのメンバーがメインを固めている。原作を大胆にアレンジしたアニメ化だった。舞台を近未来とし、キャラクターやメカのデザインも、現代的なシャープなものとなっている。
物語は、徹底した勧善懲悪だった。主人公側には正義があり、敵側は分かりやすく悪者。鉄人28号は大きくて強い。鉄人の活躍時には派手なBGMがかかり、盛り上がる。正統派と言えば、これ以上ないくらいに正統派。ストロングスタイルのロボットアニメだ。実は、ロボットアニメの歴史の中でも、これほどストレートに主役ロボットの魅力を描いた作品は、あまりないと思う。メインライターは『マジンガーZ』にも参加し、後番組の『六神合体ゴッドマーズ』も手がける藤川桂介。『新・鉄人』が、正統派のロボットアニメになっているのは、彼の個性によるところも大きいはずだ。
『新・鉄人』で忘れてはいけないのが、鉄人の宿命のライバルであるブラックオックスの存在である。鉄人に匹敵する戦闘力を持ったロボットであり、何よりも、なめらかな曲線で構成された黒いボディが印象的。非常に洗練された造形であり(メカデザインそのものだけでなく、作画の力も大である)、直線的な鉄人のデザインとのコントラストもよかった。また、ブラックオックスは自分で考える事ができるロボットだった。心を持たぬ鉄人が、コントローラーを奪われれば敵の思うがままになってしまうのに対して、オックスは自分で考えて行動をする。だが、心を持つがゆえに悲しみを知っており、その生い立ちも最期も、悲劇的なものだった。特にブラックオックスの最期は、映像的に鮮烈なものであり、ロボットアニメ史に残る名場面となっている。
ブラックスオックスが、鉄人と共に戦うシーンもよかった。特撮ヒーローで言えばダブルライダー、ロボットアニメで言えば、ダブルマジンガーに近い感覚だ。つまり、ダブルヒーロー的なノリだった。単体でもヒーローとして成立している番組だからこそ、ダブルヒーローに高揚感があったわけだ。
『新・鉄人』に関しては作画の魅力も大きい。というか、僕は主に作画に対する興味で、この作品を観ていた。見どころは何といっても、メカアクションのエキスパートチームであるスタジオZ5とスタジオNo.1の仕事だった。スタジオZ5が1話分をまるまる担当したエピソードは、多くはないのだが、『ムーの白鯨』に続いて、本橋秀之と亀垣一がメカ修正の役職で参加。シリーズ全体のメカアクションの底上げをしていた。
スタジオNo.1は金田伊功が所属していたスタジオだが、彼が参加したのは7話「死を呼ぶ人工衛星」だけ。ではあるが、同スタジオの若手の活躍が素晴らしかった。作画マニアの間でよく話題になるのが、スタジオNo.1が担当した28話「強敵!カンフーロボ」、36話「宿命の対決!鉄人対オックス」だ。36話で山下将仁が見せたメカアクションは、金田系作画のひとつの頂点とも言える素晴らしい出来だ。知名度ではその2本にはおよばないが、44話「スリラーシリーズIII 幽霊の正体をあばけ!」も原画の密度が高く、見応えがある。
テレコムアニメーションフィルムが担当した8話「恐怖の殺人合体ロボ」も、作画マニア的に重要なエピソードだ。この話は動かし方や見せ方が、他のエピソードとかなり違っている。テレコムらしいオーソドックスかつリアルな作画に、ロボットものらしいケレン味を加えた、面白いフィルムだ(『新・鉄人』の作画に関しては、以前にコラムで詳しく書いた。「アニメ様の七転八倒」第8回 作画アニメ『新・鉄人』だ)。
スタジオジュニオ、アニメアール、ランダムと、他の作画スタジオの担当回もそれぞれ個性があり、スタジオごとの作画の違いを楽しむ事もできた。今でもロボットアニメは、これくらいシンプルな方がいいと思うし、シンプルな方が作画のよさも引き立つと思っている。
それから『新・鉄人』には、個人的な思い出がある。確か、最終回が放映されたのは高校の文化祭の前夜だった。その時、僕は高校2年生。部活はやっていなかったが、アニメファンの先輩が、有志で声優の島本須美のサイン会を企画しており、それを手伝っていた(この原稿を書いているうちに、手伝っていたのではなく、単に周りでウロウロしていただけのような気もしてきた)。ビデオ上映をするために、大型テレビをレンタルし、教室に設置していた。記憶が間違っていなければ、サイン会の準備が終わったところで、その大型テレビで、皆で『新・鉄人』最終回を観た。ストーリー展開は期待したほどではなかったが、最終回もスタジオNo.1の作画担当回であり、その映像の魅力で盛り上がって観た。山下将仁作画のスペースロボと、越智一裕作画のマッキーの回り込みが印象的だ。
翌年の文化祭では、今度は同学年の友達がメインとなり、山下将仁と越智一裕のサイン会を開催した。皆でチラシを作って、アニメショップで配った。サイン会では山下さんに、ブラックオックスを頼んでいる人が多かった。勿論、そのサイン会を開催したきっかけのひとつが『新・鉄人』での彼らの仕事だ。今でも『新・鉄人』の36話や最終回を観ると、高校の文化祭を思い出す。
第52回へつづく
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(09.01.23)