第74回 『ゴッドマーズ』ビジュアルの魅力
『ゴッドマーズ』のビジュアルが好きだった。キャラクターデザインと全話の作画監督を務めた本橋秀之は、弱冠23歳の若手だった。この前後には、他にも若手アニメーターが活躍している作品があったが、それにしても異例の若さだ。これは『ムーの白鯨』と『新・鉄人』での仕事ぶりが認められての起用であり、当時のアニメージュに、赤川茂プロデューサーの「(略)周りからも心配の声が出るほど、大抜擢だった。彼の意欲はたいへんなもので、こちらの期待以上の仕事をしてくれている」というコメントがある(1982年4月号89頁)。本橋秀之は、荒木プロダクション出身で、ほんの一時期だけスタジオZに所属。このスタジオZは金田伊功がいたのとは別のスタジオで、富沢和雄が経営していた4代目のスタジオZだった。そこで一緒だった亀垣一、平山智とスタジオZ5を結成。スタジオZ5は5代目のスタジオZの意味だ。本橋秀之がメインキャラをデザインしたのは『戦国魔神ゴーショーグン』が最初で、次が『ゴッドマーズ』になる。
ムックにも掲載されているが、彼はデザインの初期案として、横山光輝の画に似せたキャラクターも描いている。荒木伸吾系統の美形キャラクターでいく事になったのは、周囲の判断だったようだ。荒木伸吾の流れを汲む流麗なキャラクターに、シャープさ、力強さを加えたのが、本橋秀之の『ゴッドマーズ』のキャラクターだった。描き手の若々しいエネルギーが、画面に漲っていた。今観直しても『ゴッドマーズ』の彼の画は魅力的だと思う。メカデザインは、ゴッドマーズと六神ロボについては、玩具メーカーのデザインを元に本橋秀之が設定をおこし、クラッシャー隊の戦闘機であるコスモ・クラッシャーや敵ロボットは、亀垣一がデザインを担当。亀垣一は本編でも、コスモ・クラッシャーを描く事が多かった。
原画に関しては、スタジオZ5とスタジオNo.1のメンバーが、全体の8割の話数に参加。アクションシーンを中心に作画を担当し、シリーズを支えた。ケレンのあるアクションが、各話単位の個性ではなく、シリーズ通じてのカラーとなっていたのだ。『新・鉄人』にあったような、1話まるまるをZ5やNo.1が作画したエピソードはないが、アクションの見どころがシリーズの随所にあった。彼らは、それぞれが個性的な作画をしていた。当時のアニメ雑誌や、ムックでもよく取り上げられた。本橋秀之を含めたZ5とNo.1のメンバーは、ちょっとしたスターだった。『ゴッドマーズ』でアクション作画に興味を持ったファンも多かったはずだ。
メカ描写では動きだけでなく、六神ロボやゴッドマーズのポージングも魅力的だった。ロボットのシルエットをシンプルに捉えているのがよかった。ロボットの見せ場の作り方も巧かった。今観てもほれぼれする場面が沢山ある。ロボットやアクションの格好よさについては、作画の手柄だけでなく、作画のよさを引き出した演出にも注目したい。今沢哲男チーフ・ディレクターをはじめとする演出陣に「きちんと格好よくロボットを見せよう」という意識があったのだろう。
『ゴッドマーズ』の映像は全体にシャープで、鮮やかな印象のものだった。キャラクターやメカアクションだけでなく、美術や色彩設計、撮影の力も大きいはずだ。セルの色は、いわゆるアニメ的な色遣いなのだが、そのパキパキした感じが心地よかった。フィルムについて言うと、東京ムービー新社の作品は、本編を16ミリフィルムで撮影したシリーズと、35ミリフィルムで撮影したシリーズがある。『ゴッドマーズ』は35ミリフィルムを使っており、それも映像がシャープで、鮮やかだった理由のひとつなのだろう。撮影に関しては、やたらと透過光が多く、またそれが派手だった。出崎統監督作品を除けば、この当時で、これほど撮影の仕事が目立った作品は、他にはないと思う。
第75回へつづく
(09.02.26)