アニメ様365日[小黒祐一郎]

第79回 パイロット版『ユニコ』

 1981年に手塚治虫原作、平田敏夫監督の劇場長編『ユニコ』が公開されている。それに触れる前に、1979年に作られたパイロットフィルムについて書いておきたい。以下のイベントに関する部分は、完全に記憶モードで書くので、どこか大きく間違っているかもしれない。間違っていたら、申し訳ない。
 僕は、手塚治虫ファン大会というイベントに行った。ひょっとしたら、このイベント名からして間違っているかもしれない。後述するように、このイベントで『ユニコ』のパイロットフィルムを観ている。資料を見ると、そのパイロットは1979年4月に完成したとある。イベントが開催されたのも、その頃だったのだろう。場所は九段下あたりだったか。大きな会場で開催されたイベントだった。イベントの内容は、よく覚えていないのだが、確か『100万年地球の旅 バンダーブック』が上映されたはずだ。これはTV放映後に、リイテクを加えたバージョンだと説明があったような気がする。入場者には『バンダーブック』のセル画が配られ、それと別に、会場でセル画が販売されていたと記憶している。僕は、バンダーとミムールの2ショットのセル画を入手した。これは余談だが、予定したプログラムが終了したところで「これから、パイロットフィルムの上映があります。ご覧になる方は、そのまま会場に残ってください」というアナウンスがあった。確か上映されたのは『ノーマン』や『0マン』のパイロットだったはずだ。それも是非観たかったのだが、予定のプログラムが終了した時点で、かなり時間が遅くなっており、あきらめて帰宅した。当時の僕は、まだ中学生だったのだ。あれから30年も経ったが、今だに『ノーマン』と『0マン』のパイロットフィルムは観る機会がない。
 話を戻すと、上映された作品で一番印象的だったのが、『ユニコ』のパイロットフィルムだった(作品中で表示されるタイトルは『UNICO』)。原作は、サンリオの雑誌「リリカ」に連載されていた手塚治虫の同名マンガで、このパイロットもサンリオが製作したものだ。当時、サンリオは映像作品に対して積極的で、次々に作品を発表していた。主人公のユニコは、ユニコーンの子供だ。この作品では、工場が出す煙や排水のために汚れてしまった街が舞台となり、ユニコは、重い病気にかかっている少女チコと出逢う。タイトル部分に映倫マークが入っているが、一般公開はされていない。ひょっとしたら、その手塚治虫ファン大会が唯一の公開だったのかもしれない。もう二度と観る機会はないだろうと思っていたが、1989年に『ユニコ 黒い雲と白い羽』のタイトルでビデオ化された。現在はDVD化もされている。
 監督は、後の長編『ユニコ』と同じ平田敏夫。キーアニメーターは、いずれも虫プロ出身であり、他のサンリオ作品にも参加している山本繁、赤堀幹治、波多正美。美術監督はやはり虫プロ系で、サンリオ作品で活躍していた阿部行夫だった。パイロットフィルムといっても、かなりゴージャスな作りだった。西風役の岸田今日子をはじめ、松島みのり、肝付兼太、滝口順平、有島一郎と、キャストも有名どころが揃っている。主人公のユニコ役は岡浩也という名前がクレジットされているが、ドラマ「ケンちゃんシリーズ」の2代目ケンちゃんの岡浩也だろうか。
 26分の短編で話はシンプルなのだが、アニメーションとしてよくできていた。色遣いは渋く、美術はまるで絵本のようだった。動きも丁寧で、フルアニメーション的に動いているところが沢山あった。チコのキャラクターデザインのラインは、海外のクラシカルなアニメーションを思わせるものだった。それも含めて、全体に品がよく、外国の作品みたいだな、と思った。また、この原稿を書くにあたって、DVDで観返して思ったのだが、実写の煙を合成する等、撮影に関しても工夫を凝らしている。撮影監督は、他にも意欲的な作品を多く手がけている八巻磐だ。平田監督を始めとするスタッフは、「アニメ」ではなく、「アニメーション」として作ろうとしていたのだろう。それはこの作品だけでなく、当時のサンリオのアニメーションが、目指していた方向性だったはずだ。
 初見時に驚いたのは、当時大人気だったゴダイゴのミッキー吉野とタケカワユキヒデが、音楽を担当していた事だ。1979年4月なら、ドラマ「西遊記」の後で、劇場版『銀河鉄道999』の前だ。短い作品だが、劇中で何本ものボーカル曲が使われている。その中の、ユニコが煙を出している工場を壊すシーンで流れる軽快な歌が、抜群によかった。イベントでパイロットフィルムを観た時に「いいものを観たなあ」と思ったのだが、そう思った理由のひとつが、その挿入歌だった。
 「この人に話を聞きたい」で平田監督に取材した時も、そのパイロットフィルムについて話をうかがった。その取材で、彼は「ちょっと若気の至り。僕はあれは完璧な失敗作だと思うんです」と語っている。原作にあった公害に関する問題意識をストレートに出してしまったのが、失敗の原因だというのだ。確かに、そういった生硬さがあるのは事実なのだが、それでもやはり、魅力のあるフィルムだったと思う。

第80回へつづく

キティとミミィのあたらしいかさ/ユニコ黒い雲と白い羽

カラー/51分/ステレオ/
価格/1575円(税込)
発売元/サンリオ
販売元/ポニーキャニオン
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(09.03.05)