アニメ様365日[小黒祐一郎]

第80回 『ユニコ』

 劇場版『ユニコ』は1981年3月14日に公開された作品だ。パイロットフィルムは、サンリオの社内チームで作られたが、この劇場版では、制作スタジオがマッドハウスになっている。メインスタッフも一新。監督の平田敏夫、撮影監督の八巻磐、制作担当の浅利義美は、引き続き参加しているが、作画や美術は交代しており、作画監督はマッドハウスの看板アニメーターの杉野昭夫、美術監督は小林プロダクションの新鋭であった男鹿和雄になった。また、劇場版『ユニコ』には設定協力として村野守美、川尻善昭の名前がクレジットされている。マンガ家の村野守美は、絵コンテ段階でのアイデア出しで参加。川尻善昭は、クライマックスの巨大な怪物とユニコの戦いの原画を全て担当。彼に関しては、作画としての作業で、演出的なところに踏み込んでいたため、設定協力の役職になったのではないかと思う。
 この原稿を書くにあたってデータをチェックしていて、「あれ?」と思ったのだが、1981年3月といえば、杉野昭夫は放送中の『あしたのジョー2』で全話の作画監督を担当しているはずだ。しかも、その頃、彼はマッドハウスから独立して、すでにあんなぷるに移っている。「WEBアニメスタイル」の「animator interview 森本晃司(1)」での森本晃司がマッドハウスの試験を受けた時の話や、「animator interview 大橋学」の「主要作品リスト」(このリストは大橋学自身に細かくチェックを入れてもらっている)を読むと、どうやら劇場版『ユニコ』が制作されたのは1979年であったようだ。1979年4月にパイロットフィルムが完成し、すぐに劇場版の制作に入ったのだろう。杉野昭夫の仕事としては『宝島』の後に『ユニコ』を手がけて、その次に劇場版『エースをねらえ!』に参加したという流れだろうか。
 さて、肝心の映画の内容についてだ。公開時、僕はパイロットフィルムのような、ちょっとマニアックなタイプの作品を期待していたのだが、劇場版『ユニコ』は、そういった偏りのない作品だった。内容に関しても映像に関しても、原作の持ち味を活かした、ファミリー向けのアニメーションになっていた。その仕上がりが不満だったかと言うと、そんな事はなかった。むしろ、アニメーションとして、丁寧に作られていて感心した。今の目で観ると、ちょっとTVアニメ的なところあって、それが気になるのだが、当時としては相当なクオリティだった。キャラクターの画が、パキっとしているのが気持ちよかった。上品な色遣いも印象的だ。手塚治虫の長編アニメに関しては、ちょっと残念に感じる作品が続いていた。それだけに、しっかりした手塚アニメが観られて嬉しかった。
 この映画でユニコが出逢うのは、悪魔の子のアクマくん、魔女になりたいと願っている黒猫のチャオだ。この2人は出色のキャラクターだった。アクマくんはへそ曲がりの男の子で、演じていたのは堀絢子。『ガンバの冒険』のイカサマと同系統のキャラクターだ。チャオは途中で人間の姿になるのだが、黒猫の時の方が、仕草や表情が可愛い。この映画の一番の見どころではないかと思うくらい可愛い。あまり観る機会のない、杉野昭夫の柔らかい画が楽しめる作品だった。絵柄の話を続けると、ユニコを神々から守っている西風や、悪役の男爵は、劇場版『エースをねらえ!』を思わせる、面長の杉野美形キャラで、可愛らしいユニコやチャオと好対照だった。
 野球のビッチャーに喩えると、平田監督は剛速球で押していくタイプではない。様々な球種を巧みに使い分けるテクニシャンだ。パイロット版で、ヨーロッパのクラシカルなアニメーションの感じを狙って、それが失敗作だと思うと、すぐにチャンネルを変えて、別の方法論で劇場版を作ってみせる。そういったフットワークの軽さが、平田監督の凄さなのだろうと思う。勿論、これは劇場版『ユニコ』初見時の感想ではない。その後の平田監督の仕事に触れて、思った事だ。
 これも最近になって思っている事だが、1980年代前半にマッドハウスは『夏への扉』『浮浪雲』『金の鳥』といった珠玉の作品を連続して世に出している。それが、マッドハウスの2度目の黄金期だと思う。出崎統・杉野昭夫コンビが、次々と傑作を発表していた頃が最初の黄金期で、出崎・杉野コンビがマッドハウスから離れた後に、2度目の黄金期があったわけだ。劇場版『ユニコ』は、出崎・杉野コンビがマッドハウスにいた時に作られた作品のようだが、ここから2度目の黄金期が始まったのではないかと思う。それについては、改めて書く事にしたい。

第81回へつづく

ユニコ

カラー/90分/ステレオ/
価格/1575円(税込)
発売元/サンリオ
販売元/ポニーキャニオン
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(09.03.06)