森本 描いてて楽しかったよね。SFが好きだったんだけど、『ジョー2』はそうじゃないから、ほら、光線とか描けないじゃない?(笑) 外の作品を観てて、「ああ、メカものやりてえなあ」って思ってた時に、『コブラ』が来たんだよ。当時は、テレコムが『ルパン』で「アルバトロス」みたいな作品をやってて(注3)。やっぱり、それに対する対抗意識があったから。「動かす」という事を相当意識して、それを試してみようかな、と思って色々と実験みたいな感じでやったんだよね。「今回はちょっとディズニー調にやってみようかな」なんて。
小黒 なるほど。
森本 そうやって試していたから、面白かったね。テレコムが1万2000枚使ったと聞けば、もっと枚数使わせてくれって制作に無理を言って、スケジュール内に納めるからという条件で、使える枚数を増やしてもらった事もあったし。そうやっているうちにいろんな発見もあったしね。金田さんが好きだと言ったけど、金田さんって、あの気持ちよさの前に、動きのタメがあるんだよね。緩急って言うのかな。伸びる方向と逆に1度戻る動きが入るんだよ。そういうアクションの捉え方をしているという事が、色々やった結果、分かったりね。そういう風に色々実験してた事は、出崎さんには申し訳ないけど(苦笑)。
小黒 『コブラ』を観返すと、時々、凄く楽しそうに描かれているシーンがあるんですよね。そのいくつかが森本さんの原画だと思うんですが。
森本 毎回毎回、何かしないと収まらなかった(笑)。と言うか、ちょうど、いろんなタイプの面白い原画マンが出てきた時期だったから、そういう中でいかにアピールするか、いかに目立つか、って考えてやってたね。
小黒 それは、あんなぷるの中で?
森本 それもそうだし、アニメ界の中でもね。当時のあんなぷるっていうのがまた、不思議な空間でね。一軒家だったせいもあるんだろうけど。女の子も月に1、2回しか家に帰らないとか、飯もみんなで食うとか。ほとんど合宿状態で。寝てると、隣の部屋でカリカリと鉛筆の音が鳴るんだよ。そうすると、寝られないんですよ、気になって(笑)。そんな感じだから、凄くハイな状態でやってた。今考えると、ああいう会社は、あんまりないと思うんだけど、当時はそれが当たり前だと思ってたから。月曜日に打ち合わせして、火曜日にレイアウト終わらせて……と計算すると、もう、10分に1枚ぐらいのペースでやらないと間に合わない。時計の針を観ながらやってましたね。そうやっている中で、アニメーションの「動かして面白い」というところに、やっと触れられたというのかな。実感として、「こうすればこういう風に動くんだ」とか「多少、オーバーにしたぐらいで、ちょうどいいんだ」とか、そういう事が分かるようになった。ま、その後、ガンッと、高い壁にぶち当たるんだけどね(笑)。
小黒 壁にぶち当たった……それはいつぐらいなんですか。
森本 うーん、作画的な事で言うと、『ウラシマン』をやっていたあたりは、まだ楽しかったんだけど、その後かな。ただ動かしてれば気持ちいいとか、そういうレベルから変わっていった。劇場作品をやるようになって……。まあ、『レンズマン』の頃でも、「動かして楽しい」という気持ちは半分は引きずっているんだけどね。「臨場感」と言うか、「リアリティ」と言うか……キャラクターが生きているかいないか――そういう事を考え出すと、作画が急に止まるんですね(笑)。それまではね、話と関係ないと言うと極端なんだけど、多分演出をそんなに分かってないで、自分のパートだけをオーバーアクションで動かしているんだよ。だから、演出的にどうだったんだろう、と今から考えると、多分、俺のところは最悪なんだろうなあ、って思えてくる。例えば、出崎さんの作品を観た時に、自分が描いたところが引っかかるのね。
上手く流れていかない。出崎さんがコンテで要求している事っていうのは、このカットは右から左に。次のカットは左から右に……そうやってリズムを作っているのに、自分の担当した部分は、右から左に行くところで、寄り道をするんですよ(笑)。ズバンと右から左に行けばいいのに、コケたりとか。動かす事しか頭の中になくて、演出というものが頭に入ってなかった。それが分かってから、なんか愕然としちゃって。「出崎さんは、どういう風に通してくれたんだろう」って。多分、スケジュールがタイトだったから通ったんだろうけど。まあ、俺も俺で、自分のやった原画をそのまま観たいという気持ちがあったから、「杉野さんになるべく直されないようにするにはどうしたらいいかなあ……枚数を描けばいいんだ」なんて思ってたしね。枚数をいっぱい描けば、さすがに面倒くさいだろうから通してくれるかな、と。そういうヨコシマな考え方だったから(笑)。
小黒 それは滅茶苦茶、ヨコシマですよ(笑)。
森本 まあ、その作品から考えると悪いのかもしれないけど、実際に直されずに映像で自分の動きを観る事ができて、自分としてはよかったね。
小黒 その、動かし屋時代の話をもう少し聞いておきたいんですが。『コブラ』の後が、劇場『ゴルゴ13』ですよね。あの映画って、炎がいっぱい出てくるじゃないですか。妙に炎の形が細かいんですけど、あれはどなたが描かれているんですか。杉野さん?
森本 いや、あれは俺が描いてます。
小黒 それは全部ですか?
森本 炎が出てくるところは、ほとんどだね。担当したのは高層ビルの狙撃シーンとカーチェイスの場面かな。
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(注3)「アルバトロス」 『ルパン三世[新]』145話「死の翼アルバトロス」。宮崎駿が、照樹務(テレコム)のペンネームで脚本、演出、絵コンテを担当。飛行機アクションの大快作。
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