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アニメの作画を語ろう
animator interview
森本晃司(2)


小黒 ほほお。
森本 どんな原画を描いてるんだろう、と気になるじゃないですか。その時に、火炎竜が口からどんどん出てくるあたりの原画を見たんだ。あれって、確か、原画枚数が6枚か7枚なんだよね。
小黒 えっ! そんなもんなんですか?
森本 うん。そんなもんなんですよ。
小黒 ほおーっ。
森本 「あれ? これ少ないんじゃないの?」と思って、中割りを見たら、34枚とか24枚とかなんですよ(笑)。こんなところに24枚も入るのか、っていうぐらい間隔の短いところに中割りが入ってる。それを見た時に、「ええーっ!」っていうぐらい驚いた。
小黒 なるほど。
森本 さらに俺が原画を見たカットは、シートが1、2、3、2、5、3、4なんていう風になってる。均等に動画が入る事を予想して、シートの順番がバラバラに打ってあるんだ。つまり、動画で均等に割ってくれさえすれば、その後で動かしてみせるから、というシートだったんだよ。こんなマジックがあるのか、って。
小黒 僕らの印象からすると、『幻魔大戦』の時って、金田さんとかなかむら(たかし)さんとか森本さんとか梅津(泰臣)さんが、こう、机並べて仕事してるのかと思っていたんだけど、そんな事は全然ないんですね(笑)。
森本 違いますね(笑)。たかしさんも自宅でやってるはずですし。なかむらさんと一緒に仕事をするようになったのも……あんなぷるでは、劇場版の『ゴルゴ13』が終わって、次に合作の話があったんだよ。でも、俺は合作はやりたくなかった。『ゴルゴ』でも、画がきっちりしてたし、「これが続くと嫌だなあ」って思ってたんだよ。そんなところにいきなり……。ちょうど杉野さんと一緒に飯を食いに行こうとしてたところだったんだけど、たまたまTVで、確か『Gライタン』のなかむらさんがやった「世忘れ村(の怪人)」を流していたんですよ。
小黒 ほおほお。
森本 その中で、懐中電灯がカラカラカラって転がるカットがあってさ。それを観た時に「えっ!? 今何が起こったの」っていうぐらい驚いた(笑)。「なんちゅうアニメがあるんだ」と。それで飯に行かないまま、杉野さんと最後まで観てたんだよ。他の場面も凄かったんだけど、最初に観た、その懐中電灯が転がるカットの印象が凄かった。もうドキドキしてね。それから1週間ぐらいして、友達を介して、たかしさんに「一緒に仕事をやりたいんですけど」って言ったんだ。で、それから、フリーになって今に至る。
小黒 じゃあ、『Gライタン』との出会いで、フリーになったと言ってもいいんですね。
森本 うん。あの「世忘れ村」がなければ多分、もう少しは、あんなぷるにいたかもしれない。
小黒 ちょっと余計な事を訊きますけど、杉野さんは、その時何かおっしゃってました?
森本 「多分、森本は(あんなぷるを出て)行くだろうな」と、そういう感じだったかな(苦笑)。
小黒 『ライタン』を観た時、杉野さんも驚いたんですか?
森本 驚いてました。でも、まあ、杉野さんはそれで揺らぐような事は勿論ないんだよね。出崎さんと杉野さんが作っていく、大きな流れっていうのはしっかりあるわけだから。さっきも言ったように、誰が原画であっても、最低限見られるような演出をしているわけだし。原画マンの優劣で作品が簡単に変になるような作品作りはしていないんだよ。どちらかと言えば、動きよりも、1枚画の「目がものを言う」みたいなスタイル。それに対して、自分はどっちかと言うと、「動いている方が」と思っていた。そんなところに『ライタン』がね……。だから、たかしさんの影響大ですね。
小黒 なかむらさんのどういうところに驚いたんですか?
森本 リアルって言うのか、動きが普通って言うのか……つまり、本物みたいに見えたんだよ。あとね、みんなが言っている、“岩石アニメーター”のところ。それから何本か『Gライタン』を観たんだけど、「岩はどうやって消えていくんだろう」って不思議だった。
小黒 (笑)ああ、砕けた破片はどこへ行くのか、って?
森本 劇場版『コブラ』で原画を描いた時は、小さい破片まで追いかけたんだけど、そうなるといつまで経っても終わらないんですよね。「あれ!? たかしさんはどうしてるんだろう」と思って観ると、途中で消えるんだよね(笑)。物理的に考えると、石は消えないっていう頭があるから、消していい、というのも、ある意味ショックではあった(笑)。
小黒 ちなみに、その時、福島さんもフリーになってるんですか?
森本 ええ。一緒に連れ出して、出崎さんのお怒りに触れました(笑)。
小黒 それは、大事な主力選手を連れ出したから?
森本 そうそう(笑)。
小黒 『ウラシマン』への参加は26話の新幹線の話の1回だけですよね?
森本 いや、2回です。
小黒 ああ、33話ですね。これは確認なんですけど、『ウラシマン』の新幹線の話ではAパートを担当されているんですね(注5)
森本 そうです。
小黒 びっくりしてコーヒーをこぼしそうになる辺りは福島さんで、新幹線を追いかけて走るところが森本さん。
森本 そうですね、うん。
小黒 あの頃って、福島さんって、凄くエフェクトが派手ですよね。
森本 思いっ切り派手ですね。あれも金田さんの影響なんじゃないですか。
小黒 あの、コーヒーにはびっくりしましたね、当時。もう液体ではないような感じで。
森本 ははは(笑)。
小黒 どうしてこんな事をお訊きするかというと、『コブラ』のラグボールの話で、ボールを打ち返して、投球マシンをドカンバカンと壊すエピソードがあって。で、その回に名前が出ているのが福島さんなんですよ。あの場面って、福島さんなんですか?
森本 そうそう。
小黒 もう、メチャメチャ男らしい(笑)。
森本 そうだよね。男どもより男らしい原画を描いてたね(笑)。俺なんかより派手なんじゃないかなあ、と思うぐらい。むしろ、大塚(伸治)さんなんかは、どちらかと言うと、女性的な原画を描いていたかも(笑)。
小黒 それで言えば、映画の『レンズマン』では、森本さんと福島さんはどこをやられてるんですか。
森本 俺は、最初の変なカタツムリみたいな怪物が出てくるところと、中盤のバイクシーン。
小黒 でも、バイクシーンって凄く長いですよ。
森本 あそこは俺と、カミさん(福島敦子)と川尻さんの3人でやってるんだ。俺がやったのは、水路を逃げてチェイスするところ。
小黒 TVの『レンズマン』のオープニングって、この頃の代表作だと思うんですけども。結構なかむらさんの影響が見えますよね。手の感じとか。
森本 入ってますね。思いっ切り影響されてますから(笑)。
小黒 それに対して、金田さんの影響というのは、はっきり見えないような気もするんですが。森本さんは、いわゆる金田ポーズなんかは描かれないじゃないですか。
森本 影響を受けているのはアクションの作り方とか、エフェクトとかだよね。
小黒 そういう意味では、当時金田さんの影響を受けた人はたくさんいると思うんですけど、森本さんや、福島さんはかなり良い形で消化していますね。
森本 ああ、なるほどね。どちらかと言うと、隠し味なんですよね、多分。作品の傾向が違うという事もあるんだけどね。それに、自分の中では、友永(和秀)さんもちょっと入っているんだよ。「アルバトロス」がメチャメチャ好きで。破片や爆発が細かいのは、テレコムの影響かな。そういう意味では、金田さんとテレコムがミックスされている(笑)。
小黒 なるほど。
森本 「アルバトロス」はショックでしたね。ミサイルがこう、風に流されるじゃない? あれだけでね。あの臨場感。「そこ」にある感じ。あれは、宮崎さんの演出の力が大きいとは思うんだけど。

(注5)『ウラシマン』の新幹線の話
第26話「ネオトキオ発地獄行き」。絵コンテ、作画監督はなかむらたかし。Aパートの原画を森本晃司と福島敦子が担当し、Bパートの原画をなかむらが担当している。
小黒 と言うと……『鉄人』のテレコムの回は御覧になってます?(注6)
森本 観ました観ました。あれも好きですよ。ロボットが力が抜けた感じで止まるのがメチャ格好いいな、と思って。なんだろうね、ああいうのって。リアリティと言うか、妙な説得力がある。やっぱり演出の力なんだろうけど、つまりは考え方ですよね。ああいう、ものの考え方には、相当影響されました。
小黒 細かくなりますけど、『カムイの剣』ではどこをやられてたんですか。
森本 後半アメリカから帰ってきて、忍者の仲間を入れて、バサッと脱ぐところがあるでしょう。そこから、バンバンってやって、最後にみんなを斬って、ハアハアと息をつくところまで。
小黒 じゃあ、もうひとつ。『ボビーに首ったけ』はどこをやられているんですか(注7)
森本 あれはね、たかしさんと半分半分なんだ。
小黒 えっ?
森本 白黒の鉛筆画のバイクシーンがあるじゃない?
小黒 はいはい。あそこは、なかむらさんと森本さんなんですか。
森本 前半と後半に分けたんだけど、どっちがどっちをやったのか、ちょっと思い出せないなあ。
小黒 ……話を戻しますが、さっき壁にぶつかったって、おっしゃってましたよね。
森本 それは『ピーク』ぐらいの時かな。
小黒 ずっと後なんですね。
森本 自分で作品を作るようになって、「なんのために動くの?」というところで、ぶつかったんだよね。『ピーク』の時に、俺がかつてそうだったように、色々やらせてもらえるだろうと思った原画マンが参加してくれたんだけど、その時は演出としてものを考えているから、「それはダメ」って言う事が多くてね。「なんで森本さんがそんな事を言うの?」って驚かれちゃうんだよ(笑)。そうやって、どんどんドツボに入っていった。
小黒 初監督の『ロボットカーニバル』の時にはまだ、そうじゃない?
森本 あの頃は楽しかったんだけどね(笑)。
小黒 じゃあ、アニメーターとしての悩みは、その後ないんですか。
森本 いや、『AKIRA』の時はあります。
小黒 なるほど……。じゃあ、『AKIRA』の前に『迷宮物語』の話を聞かないとまずいかな。『迷宮』の時は、悩みはないんですか。
森本 そういう意味では『迷宮物語』も大きいですね。
(注6)『鉄人』のテレコムの回
『鉄人28号[新]』の第8話「恐怖の殺人合体ロボ」。テレコム・アニメーション・フィルムが作画を担当しており、作画監督補は友永和秀。





(注7)『ボビーに首ったけ』
片岡義男の小説を原作にした劇場中編。実験的な手法を多く取り入れた意欲作である。監督は平田敏夫。アニメーション制作はマッドハウス。
小黒 『迷宮』『ロボット』『AKIRA』と来るところに、歴史の節目が……(注8)
森本 ありますね。

●「animator interview 森本晃司(3)」へ続く

(01.06.23)


(注8)『迷宮』『ロボット』『AKIRA』
『迷宮物語』については「作品紹介(6)」を、『ロボットカーニバル』については「作品紹介(7)」を、『AKIRA』については「作品紹介(2)」を、それぞれ参照。
 
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