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アニメの作画を語ろう
animator interview
森本晃司(3)


森本 「工事中止命令」は、なかむらさんと2人でやるというのと、監督が大友さんというので、まず、プレッシャーが凄かった。「できねえんじゃないか」って思ったよ。でも、コンテを見ると面白いし、ロボットは出てくるし……それで、やる事になって。その時は、もうちょっと踏み込んだ動きをやりたいなあ、と思っていたんだよ。で、たかしさんが、最初にロボットの動きのパターンという事で作ったのが、扉を開けてカタカタッって出てくるカット。多分、あれは全原画なんですよ。
小黒 ほお。
森本 それを見た時に、「なんじゃ、これー」と思ったんだよね。細かい上に、部分部分が違う動きをしているような感じだったから、これは、ある程度プランがないと描けない――整理して描いていかないと、とんでもない事になるぞ、って。送り描きで描いていると、芝居をするところまで歩いていってくれるかな、みたいな(笑)。
 その上、最初はもうちょっとリアルかな、と思っていたんだけど、大友さん自身が原画を描くときに、ガンガン崩しているんだよね。大友さんは、脇にウォルト・ディズニーの本を置いて、それで原画を描いている。だから、顔なんかもデフォルメや潰しがあるんだよ。
小黒 ディズニーの本と言うと?
森本 ミルト・カールとかフランク・トーマスとかあの辺の(いわゆるナイン・オールドメンの)画集を見ながら。
小黒 森本さんやなかむらさんが、それを見ながら作業していた、というわけではない。
森本 うん。ただ、まあ、たかしさんもディズニーは好きなんでね。
小黒 大友さんは、どこをやられているんです?
森本 主人公の食事シーンだよ。食事に入っていたナットが歯にカチッと当たって、プッて吐き出すと、コロコロって転がっていくところ。
小黒 あ、あそこは大友さんの原画なんですか。
森本 そう、初原画なんだけど、メチャメチャ巧いんですよね(笑)。で、ほとんど全部原画なんですよ、それも(笑)。
小黒 中割りはなくて、2コマで?
森本 うん。画が描ける人は、原画も描けちゃうのかあ、って、大ショック(笑)。今までの、俺の苦労はなんなんだ、っていう感じで。
小黒 ははは(笑)。
森本 しかも、自分のキャラクターだから、デフォルメもできる。表情のデフォルメなんかを見ていると、痛い感じなんかがよく出ていて、俺が抱いていた「このキャラクターは崩しちゃいけない」みたいな固定観念が壊された。それがまず一発目。それまで自分は全体のフォルムで動かしていて、表情なんかにはあまり気を配っていなかった。原画を描くときもシルエットで動かしてみて、何をしているか分かるようにと描いていた。中の造形物はどうでもよかったんだ。それが、大友さんの表情の付け方を見て、ようやくそちらに目がいくようになった。
小黒 なるほど。デフォルメかリアルか、って事ではどうですか?
森本 作品がどうかって事? デフォルメの方だと思うけどね。まあ、リアリティと言うか、そこにいる感じを出そうとはしてましたけどね。大友さんの作品って、世界観が最初にあって、それがしかも結構ぶっ飛んでいるじゃないですか。だから、いかにその中に登場人物達が住んでいるか、という感じは大事にしてた。それができたかどうかは分からないけど。
小黒 じゃあ、森本さんにとって『AKIRA』はどういう位置にあるんですか。
森本 『AKIRA』は、自分としては、作画で参加する作品の最後にしようかな、って思ってた。
小黒 あ、そうなんですか。
森本 それから、これは、「やってて分からなかった」という思いもあるね。この作品の動かしの方向が分からなかった。
小黒 えっ! 森本さんですら……?
森本 たかしさんが、最初に3カットぐらいサンプルの原画を描いたんだよ。それを見て迷ったんだよね。それがあまりにもディズニーっぽかったんで。「ええっ、この作品はこっちに行くの!?」ってね。
小黒 ディズニー調というのは、つまり、伸び縮みが入っていたって事ですか。
森本 そうそう。オーバーアクション気味のリアクションもあって。それは、本編でも1、2カット使われているんだけど――鉄雄が24号とぶつかって倒れて、向こうの方で炎が上がって、金田達がやってきて、バイクを降りて駆け寄る、という場面。あそこが、たかしさんが最初に提示した『AKIRA』の方向性だったんだ。方向性と言うか……「こっちへ行くのか」と戸惑った。で、戸惑ったまま、分からないで終わったという感じ。
小黒 オーバーアクションもなかむらさんから提示されたものなんですか。
森本 そうだね。オーバーアクションと言うより、ディズニー的な方向かな。
小黒 それは動きに関しても、芝居に関しても。
森本 うん。多分、リップシンクロというものが最初にあったから、余計にそれを意識したんじゃないのかな。
小黒 でも、日本人の口って、唇を尖らせたりしながら喋らないじゃないですか。
森本 そこでまず戸惑ったんだよね。ただ、リップシンクロにしたいというのは、大友さんの願いだったし、だから、口の表情は、たかしさんも、大友さんの描き方になっている。そうなると、今、小黒君が言ったようになるんで、「日本人なのに。いいのかな」という思いはありましたね。
小黒 それに、日本人はあまり身振り手振りをつけて喋らないですよね。
森本 しないよね。だから、演技が分からない。そういう意味では、最近のアニメーションの、人物を掘り下げていくような作画ではなかったのは確かだよね。無国籍と言うか、日本人でいて日本人でないから、原画マン達も戸惑った、というのはあるだろうね。
小黒 実は「アニメスタイル」で、僕は『AKIRA』に対してどちらかと言えば批判的な事をずっと言ってるんですが……。ふと振り返って観てみると、今のリアルものって、やっぱり『AKIRA』がないと出てこなかったような気はするんです。
森本 あの作品の中で、何人か掴んだ人はいると思うんですよ。「この方向性じゃ駄目だ」みたいな事をね。『AKIRA』の中にも色々な方向性があったわけだから。そういう意味ではバラバラとも言えるわけだけど。
小黒 色々なスタイルのアニメが入ってますよね『AKIRA』という作品の中には。
森本 ある意味、いろんな可能性を提示するみたいな作品ではあったと思います。新しい事をやるっていう思いが凄く強くて、原画マンもいろんなところから集まってきて。不思議な作品ではあったよね。多分、あの中にいくつも答えがあったんだろうな、っていう気もするし。
小黒 いいところは、相当にいいですもんね。
森本 だから、あれをやって、何を間違いと考えたかっていう事だろうね。たかしさんは、たかしさんで、あっちの方向へ行ったし(笑)。
小黒 確かに、なむからさんは『AKIRA』で方向性が変わりますよね。
森本 俺からすると、たかしさんは、日本から離れて行っているようにも見えるんだけど(笑)。日本と言うか、日本人の気持ちから。それはでも、本人にとっては、余計なお世話かもしれない。
小黒 最近『AKIRA』を観返して思ったんですけど、やたらと枚数を使えばいいんだ、っていう方向性は否定してますよね。
森本 あ、それはしてますね。
小黒 それがかなり大きいんじゃないかな、と思うんです。要するに、それまでの日本のフルアニメ指向のものっていうと、「枚数沢山入れればいいや」という安直な発想がありましたよね。実際のディズニーは原画いっぱい描いてるはずなのに(笑)。
森本 枚数を使えれば、もっと何かあるんじゃないかっていう誤解は、今でもありますね。3コマ、6コマでもいいはずなのに。
小黒 『AKIRA』の芝居は日本風では決してないんだけど、原画をいっぱい描いて動かしていく形のフルアニメのスタートラインには立っているのかもしれない。
森本 うん、それは立ってると思いますね。でも、まあ、昔の東映長編を観ればね。そこに必ずあるんだけどね。僕は、森(康二)さんが、今でも最高峰だと思うんだけど。
小黒 あ、そうですか。
森本 あの演技を、まだ誰もできてはいないと思うんだよ。当たり前のように昔からあったから、できるものだってみんな思っていたんだけど、やればやるほどあの凄さが響いてくる。森さんのやられた箇所だけが、「いる」んですよ、キャラが。森さんが提示した空間というか、キャラクターのそこにいる感じというのは、凄いですよね。『西遊記』の、雪の中で花を持って歩くところとか。俺は感動しちゃうんだけど。
小黒 大塚(康生)さんではなくて?
森本 大塚さんは勿論、格好いいんだけどね。森さんは、キャラクターがその舞台にいるという感じが凄い。キャラクターが、その舞台にいて、今何を思っているかという事に対して、厳しく突っ込んで、解答を求めた人なんじゃないかな、と思う。「今、どういう気分だろう」とか「風はどっから吹いてんの?」とかが、とことん見えているんだよ、多分。
小黒 それはフルアニメ的であるかどうかとは別の話ですよね。
森本 そうだね。
小黒 でも、一方でフルアニメ的でもあるわけですけどね、森さんは。
森本 フルアニメ的かどうかっていうのは、この場合、どっちでもいいんですよね。結局、今、みんなが行こうとしてる世界っていうのは、どっちかって言うと、「そこにいるかどうか」っていうところだと思うんですね。存在感って言うのかな。だから、例えば、それが6コマでもいいと思うし、『サザエさん』でも構わない。自分としては、むしろリアルに描くかどうかという事で言うと、逆の方向にシフトしちゃっているしね。
小黒 みんな、と言うと?
森本 沖浦(啓之)君とか、あるいは北久保(弘之)とかが求めているところ。『BLOOD』は、お話はともかく、「そこにいる感」はメチャメチャあったよね。
小黒 そうですね。ええと、今の話を整理しますと、画に描いた人物がそこにいるように感じられる事が大事であるという事ですね。そのためにフルアニメ的な技術があったりCGがあったりするんであって、「求めてる物は、結局それでしょ?」という事ですね。
森本 そうそう。だから、6コマで表現できるのであれば、それに越した事はない。
小黒 『サザエさん』みたいな画でもOK。
森本 OKOK。要は「アニメーションが記号だ」っていう事を今、もう一度再認識してもいいんじゃないかな、って事なんだよ。観る人は、「それがアニメーションである」という事を最初から分かってくれてるんじゃないか、と思うんだ。なのに、どちらかと言うと、それを分からせないようにしているんじゃないの、という疑問はあるかな。実写に近づけようとしたりしてね。
小黒 沖浦さんや、北久保さん達がですか?
森本 そうそう。俺はだから、観客は記号として観るんだから、その上でしか成り立たないものを作ろうよ、と思うんだ。
小黒 確かにそういう方向には行ってますよね。
森本 あくまで記号として動かしている世界があって、その中で「いる感」が出せればね、観た時に「いる」と思わせる事ができるんじゃないのかと思ってる。そのためには、もっと皮膚感みたいなものが欲しいんじゃないか、という気はするね。例えば、シンプルな木目しか描かれていない机があったとしても、キャラクターがさわったときに、ささくれが刺さって、ポタポタと血が落ちれば、急にその机ってリアルに感じられるようになる。そういう皮膚感と言うか、匂いみたいなものが、記号でも表現できるんじゃないか。
小黒 つまり、森本さんは、出崎さんの作品に戻ろうとしているわけですね。
森本 ああ、そうです。戻るんだねえ(笑)。一番最初に、なんでアニメーションに入ってきたのかなって自分を振り返って考えると、記号であるところも好きなんだな、って思うからね。
小黒 だから、記号で何かを感じさせられれば、と。
森本 うん。それができれば、もっと面白いかもしれない。

●「animator interview 森本晃司(4)」へ続く

(01.07.11)


 
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