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アニメの作画を語ろう
animator interview
森本晃司(4)


小黒 『AKIRA』の後、森本さんは、演出の仕事が多くなるわけですけれども、その時に、湯浅(政明)さんとか近藤高光さんとか、いわゆるグラフィック系の方と組む事が多いですよね。
森本 グラフィックと言うよりは、つまり、記号を遊んでる人達だね。記号を記号として、ちゃんと認識して、その上に何かを作ろうとしてる人達。
小黒 そういう人達と組むし、森本さん自身の画風も、そっちの方に向かったわけですよね。
森本 そっちの方が面白いな、と思ってね。小さい頃に、落書きしている感じに戻りたいな、っていう気分なんですね。例えば、子供が描いた怪獣って、ヘンテコだったりするんだけど、でも、その子の中では凄くリアルなんだよね。
小黒 特に『ノイズマン』が顕著だと思うんですけど、あれは、森本ワールドVS湯浅ワールドみたいな感じで、ふたつが混じっていて、でも融合していないですよね。
森本 そうだね。勿論、世界としては融合しているんだけど……。
小黒 でも、お互いの個性が際だっている。
森本 それはね……人間が発想している限り、例えば宇宙人を描いたとしても、人間の発想の域を出ないから、それは宇宙人とは言えないんじゃないか。もっとわけの分からないもの、人間の発想が及ばないものがいたらどうだろう、っていうのが元々の発想だから。それなら、全然違う傾向の人が描いたらどうだろうか。全く違う方法論のものが一緒に住んでいる世界は、それはそれで面白いかも、と思って作ったんだ。そういう意味では、実はアレに近いのかもしれない――劇画『天才バカボン』(笑)。
小黒 ああ。『元祖』の「天才バカボンの劇画なのだ」ですね(注9)
森本 そうそう(笑)。ああいう面白さのために、リアルな作画を使いたいなって思うんだ。一方がふざけていればいるほど、もう一方がリアルであればあるほど、相乗効果でおかしい、っていうね。そのためには勿論、井上(俊之)君みたいな、極めたような作画は必要なんだけど、でも、もっと効果的に使いたいなって。
小黒 つまり、リアルのためのリアルはやめよう、って事ですね。
森本 それは、コストパフォーマンスが悪すぎる、と(笑)。
小黒 じゃあ、『AKIRA』以降でリアルな方向に行ったのは、『MEMORIES』だけなんですか(注10)
森本 いや、あれはリアルじゃない……と思うけどね。リアルなところを出そうとしたんだけど、ちょっと違うな、って。確かにそういう匂いは出そうとしているんだけど、結局、内なる心の痛みみたいなところまで届かなかったな、という思いがあるんだよ。
小黒 先ほどから仰ってる、「そこにいる感」みたいなものですか。
森本 そうですね。主人公達の中に入っていければ面白かったんだろうな、と後で色々思うわけ。あ、勿論、やっている時は自分の中でサイコーだったんだけどね(笑)。
小黒 技術的な事で言うと、相当完成度高いですよね。
森本 ああ、そうですね。自分でも結構好きなんですよね、フィルムとしては。ただ、あの時……。あれは舞台がフランスで、ロココ調の建築物が出てくるよね。それを資料を使いながら描くんだけど、なんだか描いているだけであって、「それそのもの」にはならないんだよ。多分、自分がロココに住んでないからだと思うんだけど(笑)。
小黒 ああ、自分の中で実感できない、という事ですか。
森本 うん、できないんですよ。描き込めば描き込むほど、逆にね。「俺って日本人だよね」っていう意識が強まる(笑)。俺は何してるんだろうか、って思えてきちゃう。これが、自分達が見た事のあるアイテムであれば、臨場感がもうちょっと出せるかと思うんだけど……。見た事も触れた事もないものを描いていていいのだろうか、という思いが出てきてね。それで、やっぱり日本の方がいいな、って。分からないまま描くほど虚しいものはないんでね。
小黒 近年の一連の短編の中だと、ご自身として一番思うがままに作れたものはどれなんでしょう。『EXTRA』になるんですか。
森本 あ、『EXTRA』は確かにそうですね。あれは制作的にひとつも制限がなかったし。演出というよりも、気持ちだけでつなげて作る事ができないかなあ、って思って作ったものなんだ。この曲はこんな感じの画面が欲しい――手前から奥に何かが欲しいとか、横切る何かが欲しいとか、そういう作り方でね。
小黒 『EXTRA』の時点で、作品の傾向がガラリと変わりますよね。
森本 だからそれは、自分がフランス人じゃなかった、という事だよね。
小黒 ああ、それは森本さんにとって、そんなに大きい事なんですか。
森本 もうメチャメチャ大きいです。
小黒 じゃあ、『MEMORIES』で、フランス人みたいに描けたら、その後も『MEMORIES』のラインに行ったかもしれない。
森本 勿論。結局、フランス人じゃなかったんだなって。……ワインは飲んでますけど(笑)。
小黒 CGだろうと3Dだろうと手描きだろうと、基本的には「遊び心の森本作品」っていう印象があります。
森本 遊ぶの好きなんだよね。新しいものを見つけるのが好きだったりするんで。そういう意味では、コンピュータとかも、新しいツールだったわけでね。だから、基本的にはずっとそうなんじゃないのかなあ。
小黒 それはもう、『スペースコブラ』の頃から。
森本 ずっと、自分の中で面白いものは何だろうって探している。いたずらっ子だから(苦笑)。『MEMORIES』は、ある意味、凄く直球だったけど、それ以降は、こちら側に何かを用意して、こちらとあちらを対比させる方向をとる作品が多いんじゃないかな。
小黒 『サバイバル』は割と直球じゃないんですか?
森本 これはね、GLAYの、多くの女性ファンを掴もうと思った作品ですね(笑)。
小黒 ああ、「森本さん、カッコイイ!」っていうラインですね(笑)。
森本 そうそう。その1点でやれた作品ですね(笑)。
小黒 まあ、とは言っても、ここ最近の「路地裏感覚」とでもいうべきものは出てますけど。
森本 そうだね。
小黒 路地裏とトイレですよね。
森本 トイレは基本ですね。毎日お世話になってるんで(笑)。まあ、そういう意味では、ほんと『MEMORIES』はターニングポイントかもしれないですね。その先の方向には、あんまり来たくないなっていう思いはあります。井上君は今でも、そちらの方を驀進中ですけどね。
小黒 井上さんは、リアルなアニメの道を突き進んでいますね。もう少し、3Dと2Dについてもうかがっておきたいんですけど。
森本 いつかはね、3Dの向こう側にある世界にいければいいだろうな、って思っているんだけどね。まあ、絵描きは当然、画が好きなんだよね。タッチとかさ。だから、3Dが嫌いな人は嫌いだよね。自分としても、3Dにもうちょっとタッチが入らないかなって、やっているんだけど。
小黒 タッチと言うと、鉛筆のタッチの事ですか?
森本 ちょっと違うんだけど……3Dって、ひとつ作ってしまえば360度ぐるっと綺麗に回転できるよね。でも、作画は違って、そう綺麗にはならない。正面の画のバランスと、横からの画のバランスが多少違うんだよね。それが、多分、画の面白さであり、マジックなんだよ。そういうのがもっと3Dの中に入らないかなと思っている。そういうものが動いてもいいんじゃないか、って。
小黒 ああ、動きによってひずんだり?
森本 1コマで動くと単にズレるだけだから、気色悪いんだろうけど、そうじゃないようにできないか、と。例えば、1枚1枚、そこの部分だけ描いてしまうなんてやり方もあるかもしれない。多分、その先があるんだと思うんですよ。
 3Dの面白さって、空間がとりあえず作れちゃうって事なんだよね。だから、ゆっくりカメラが動くような場合は得意なんだよ。そういう時のカメラって、メチャ、フェチだなあって思うし、好きなんだよ。そういうのは作画だと枚数かかるじゃないですか。
(注9)『元祖』の「天才バカボンの劇画なのだ」
『元祖天才バカボン』15話Aパート「天才バカボンの劇画なのだ」。演出・出崎統、作画・大橋学。バカボン世界のキャラクターが劇画調になってしまうという、異色作。



(注10)『MEMORIES』
大友克洋が企画、製作総指揮総監督、原作他を兼ねたオムニバス劇場作品。森本は「EPISODE 1 MAGNETIC ROSE 彼女の想いで」の監督を務めた。詳しくは「作品紹介(8)」を参照。
小黒 先ほど見せていただいた『ハッスル!!とき玉くん』だと、影の入れ方が、手描きのアニメと同じ形になってますよね。あれはどうやって?(注11)
森本 あれはだから、影を狙うのが大変だった。あれは、見えない光源がいくつか存在しているんだよ。光源からの光だけでは、普通に影が落ちてしまう部分があるんだけれど、それはどうも嫌だった。だから実は、キャラクターにくっついて動く隠しライトを設定したんだよ。だから、どうカット割りしても影は動かない。そういう事を、あえてやってる。
小黒 ああ、それでアニメっぽい影になる。じゃあ、『とき玉くん』に関しては、アニメっぽい部分は狙ってやっているんですね。
森本 そこを指向していたよね。だから逆に3Dの人とは、そういうところで、意見がぶつかったんだけど。「なんでここに光源があるの?」って問われるんだよ。「いや、そういう事じゃなくて、何が欲しいか、なんだ」って言うんだけど。そうなると精神論なんだけど(笑)。
小黒 廊下で、子供がドアの開け閉めをするカットが、凄くアニメっぽくなっていて、よかったですね。
森本 ああ、あの子供は、ほとんど自分で動きをつけているんですよ。
小黒 なるほど。そこまでできれば、別段3DでもOKって感じですよね。
森本 うん。だから、その向こうに、なんだかバカバカしいものが見えるような気がしているんだけど。「モンティ・パイソン」的な精神が結構好きなんだよね。こんなギャグの作品に、これだけお金と労力を使って、その向こうにあるものを表現しようとしているよね。ギャグだから、背景は手抜いていいっていうんじゃなくてさ。例えば、TVシリーズなんかも、ホントは、ギャグの方こそ、リアルな背景を持ってくればいいのに、とは思うよね。
小黒 今のところ、2Dと3Dとは、ご自身の中であんまりギャップはないんですか。
森本 使う時は、あまりないですね。
小黒 それは、元々なかったわけじゃなくて、今はなくなった、という事?
森本 いや、3Dを使うんだったら、そういう風に使いたいなっていうのが元々あったから。
小黒 ああ、記号的に?
森本 そう。基本的には、やっぱり画が好きなんだよ。画が好きと言うか、2Dが好きなんで。
小黒 でも、『EXTRA』や『サバイバル』では、2Dのものに3Dを入れる時というのは、どちらかと言えば、リアルな空間作りのために使っていますよね。手描きの画にどこまで奥行きを出せるか、みたいな。
森本 そういう意味では、影や光にももっと使いたいなと思っているんだよ。まだまだ、やりたい事はいっぱいあるんで。
小黒 それは2Dでも3Dでも。
森本 その辺はだから、一緒くたなんだ。次の作品は、そういう事で言うと、自分の中でひとつ答えが出るんじゃないか、と思ってやってます。
小黒 それはいつぐらいに完成なんですか。
森本 今年いっぱいかな。
小黒 長さは?
森本 6分か7分程度。今まではいろんな方向性の、いわばお試し期間だったわけだけど、どうやらここら辺に面白さがあるらしい、という事で作っている作品なんだよ。多分、それは俺がアニメーションに入ったときの動機、というか、何が面白かったのかな、というところに、結構立ち返るっていう感じはありますね。

(注11)『ハッスル!!とき玉くん』
3DCGによる短編作品。森本は作・演出を担当。3D第2回文化庁メディア芸術祭デジタルアート・ノンインタラクティブ部門大賞受賞。

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(01.07.23)


 
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