アニメ様365日[小黒祐一郎]

第98回 劇場版『1000年女王』

 『新竹取物語 1000年女王』は松本零士が、サンケイ新聞(現・産経新聞)の朝刊に連載していたマンガ作品だ。僕の家ではサンケイ新聞をとっていなかったので、連載は読んでいない。毎日1ページずつ連載されており、全1000回連載されたのだそうだ。それを原作とした同名TVシリーズは、1981年4月16日から1982年3月25日まで放映。TVシリーズは、兼森義則のキャラクターデザインと、スタジオバードの活躍が印象的だった。今回取り上げる劇場版『1000年女王』が公開されたのが、1982年3月13日。TVシリーズ完結直前に、劇場版が公開されたわけだ。劇場版はタイトルに「新竹取物語」がなく、シンプルに『1000年女王』。タイトルになっている1000年女王とは、惑星ラーメタルより派遣され、人知れず1000年の間、地球を支配している存在だ。現在の1000年女王は、雪野弥生という女性であり、弥生と、彼女を慕う雨森始という少年が主人公である。
 『1000年女王』は作品そのものよりも、メディア展開の活発さが印象的なタイトルだった。劇場公開時の「アニメージュ」の記事から引用しよう。

 1000年女王』は難解な作品である。『ヤマト』や『999』とくらべると、テーマがもうひとつ明快でない——。ミステリー仕立ての要素が多かった——などいくつかの理由が考えられるが、なかでもいちばんの原因は原作の連載マンガとテレビの『1000年女王』が、ストーリー上でかなりのくいちがいをみせている点だろう。
 さらに小説、ラジメーション、浅草国際のレビューなど、じつにさまざまな『1000年女王』が登場し、独自の世界を作り上げたことも、その理由のひとつである。そしてファンには待望の映画版『1000年女王』の登場となるわけだが、いったいどれが本当の『1000年女王』なのか、また、そのなかで映画はどう位置づけられるのかという問題は、ファンならずとも大いに気になるところだ。
 (「アニメージュ」1982年2月号より抜粋)

 これは特集記事の導入部分のテキストで、この後、松本零士のコメントとなり、原作・TV・映画が『1000年女王』世界を構成する大きな柱だと結論づけられている。今読むと、結論よりも前提の「さらに小説、ラジメーション、浅草国際のレビューなど……」の部分が興味深い。『ヤマト』や『999』も小説になったり、ラジオになったりといった展開はあったはずだが、アニメージュ記者がわざわざ記事の枕にするくらい、周辺の盛り上げ方が派手だったのだろう。
 「劇場アニメ70年史」によれば、劇場版『1000年女王』は「『南極物語』『子猫物語』などに続くフジサンケイグループのメディアミックス戦略の最初の作品」だそうだ。自分が具体的に何を派手だと思ったのかは、よく覚えていない。TVCMをじゃんじゃん流していたのだろうか。ではあるが、『1000年女王』に関して、かつてないくらい宣伝が派手だと思ったのは間違いない。友達と冗談で「まるで『宣伝女王』だ」と言い合ったのを覚えている。
 周辺の盛り上がりに比べると、映画本編はあっさりした印象のものだった。関東平野が浮上するといった一大スペクタクルもあるのだが、ドラマも演出も穏やかなタッチだった。女性的な映画であり、『宇宙海賊キャプテンハーロック』や『銀河鉄道999』の男くささ、こってりした感じとは対照的だ。後半でヒミコ、楊貴妃、クレオパトラといった歴代の千年女王が復活し、地球を護るために戦うのだが、そういった展開が、僕が抱いていた松本アニメのイメージとかけ離れていたため、驚いた。今なら、同じ松本零士原作作品で、まるで違ったタッチの映画を作ろうとした事に感心するかもしれないが、当時の僕は、観客としてそういった余裕がなかった。
 それから、この映画のキャッチコピーは「1000年女王の正体はメーテルなのか?」だった。だから、劇中で『銀河鉄道999』とのリンクがあるのだろうと思っていたのだが、ほとんどなかった。記憶が正しければ、劇中で弥生の本名がプロメシュームだと分かるだけだ。そのあたりも少々腰砕けだった。
 監督は明比正行、作画監督は山口泰弘。『サイボーグ009 超銀河伝説』を手がけたコンビだ。山口泰弘の作画は、きっちりしており遊びがなく、当時は不満に感じていた。今観ると、好き嫌いは別にして、山口泰弘の画は品がよく、この映画に合っている。メカニック作画監督として、金田伊功が参加しており、光線や爆発を、ちょっと変わったグラフィックのパターンでまとめている。しかし、そもそもが、メカアクションを売りにした作品ではなかったので、それが大きな見どころにはなっていない。この原稿を書くにあたって、久しぶりにDVDで少し観てみた。特に冒頭シーンで、引いた画や長回しを多用し、映画的に撮ろうという意図が読み取れた。それも、当時の僕は退屈だと思ったのかもしれない。
 ロードーショーで観た後に、女友達に「あまり楽しめなかった」と感想を伝えた。ところが、彼女はこの映画を楽しんだようで、「女の子はああいうのが好きなのよ」と言われて、少々驚いた。自分が楽しめなかったものでも、他の人は楽しんでいる場合がある。当たり前の事だけど、それが実感できたのが収穫だった。

第99回へつづく

劇場版 1000年女王

カラー/121分(本編)/片面2層/16:9 LB
価格/4725円(税込)
発売・販売元/東映ビデオ
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(09.04.02)