アニメ様365日[小黒祐一郎]

第99回 劇場版『わが青春のアルカディア』

 ここまで取り上げてきたように、1977年の『宇宙戦艦ヤマト』に始まり、『さらば宇宙戦艦ヤマト —愛の戦士たち—』『銀河鉄道999』『ヤマトよ永遠に』『さよなら銀河鉄道999 —アンドロメダ終着駅—』と、毎年夏に、松本零士関連の劇場アニメが公開されていた。僕は1978年の『さらば宇宙戦艦ヤマト』から見続けてきた。僕の中学から高校までの夏は、松本劇場アニメと共にあったのだ。高校3年の夏、1982年7月28日に公開されたのが『わが青春のアルカディア』だった。
 松本零士世界のヒーローであるハーロックを主人公に据えた作品で、宇宙海賊キャプテンハーロックの若き日の物語をメインにし、複葉機でスタンレー山脈を越えようとしたハーロックI世、第二次世界大戦中にトチローの先祖と友情を結んだハーロックII世のエピソードを絡ませた、少々異色の構成。ハーロックI世のエピソードは映画冒頭に置かれ、II世のエピソードはメインのストーリーの途中に挿入されている。また、I世、II世のエピソードはそれぞれ松本零士の「戦場まんがシリーズ」が元になっていた。監督は勝間田具治、作画監督は小松原一男だ。
 春の『1000年女王』のように派手に宣伝が打たれた印象はないが、この作品もマスコミ関連で、非常に印象的な事があった。冒頭に登場するハーロックI世を俳優の石原裕次郎が演じた。彼が出演している場面は5分ほどだったが、そのギャラが1000万円という高額なものだったのだ。その事がスポーツ新聞等で、大々的に報じられたのだ。『わが青春のアルカディア』の公開前後で、最も話題になったのが「石原裕次郎の出演料は1000万円」だった。初見時に、スタンレーのシーンで「これが1000万円か」と、トンチンカンな感想を抱いたのを覚えている。
 メインのストーリーは未来の話で、ハーロックが宇宙海賊になるまのでの物語だ。ハーロックが片目を失った理由、どうしてエメラルダスの顔に傷がついたのかも判明。ハーロックの恋人であるマーヤという女性も登場している。ではあるがドラマ的には、全体にやや薄味。映像に関しては、凝ったところもあるのだが、クライマックスの戦艦同士の一騎打ちが淡白だったのが残念だった。
 作画マニア的に嬉しかったのは、小松原一男作監のハーロックをたっぷりと観られた事。何しろ最初から最後まで、ハーロックが出ずっぱりだ。TVの『宇宙海賊キャプテンハーロック』や劇場版『銀河鉄道999』に比べると随分とこってりした感じだったが、当時はそのこってりが心地よかった。この頃の東映動画の劇場SFアニメは、アクションシーンの見せ場を金田伊功が担当するのが常だったが、今回はハーロックII世パートの空中戦の作画を担当。彼としては、リアルタッチのメカアクションだ。クライマックスの戦艦同士の一騎打ちも、彼がメカ作監的に爆発や煙に手を入れているのではないかと思うが、これは裏をとった事がない(同シーンの原画は森利夫)。
 同年10月にこの映画の続編として、TVシリーズ『わが青春のアルカディア 無限軌道SSX』がスタート。翌1983年春には『宇宙戦艦ヤマト 完結編』が公開され、ここで松本零士アニメブームは終焉を迎える。翌年夏は、松本零士関連の劇場アニメはない。それどころか、そもそも新作劇場アニメがほとんどない、寂しい夏になった。
 アルカディアとは理想郷の意味で、この映画の冒頭テロップで、理想郷とは青春の事だと語られている。そして、劇中で歴代ハーロックは、自分の飛行機や海賊戦艦の事を「わが青春のアルカディア号」と呼ぶ。この原稿を書いていて思い出したのだが、中学から高校にかけての僕は、「わが青春の……」と言ってしまうような自己愛的な感覚が大好きだった。本当に好きだった。

第100回へつづく

わが青春のアルカディア

カラー/130分(本編)/ニュープリント・コンポーネントマスター/主音声:モノラル/片面2層/16:9 LB
価格/4725円(税込)
発売・販売元/東映ビデオ
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(09.04.02)