第103回 『FUTURE WAR 198X年』
その後、ほとんど振り返る機会がないが、『FUTURE WAR 198X年』は公開当時、話題になった作品だ。アニメファンではなく、むしろ、大人達の間で話題になった。日ソの対立を背景に、将来起こりうる第3次世界大戦を映像化したシミュレーション映画であり、その内容が問題になった。「劇場アニメ70年史」の解説には「製作中、内容が好戦的だとして労働組合からボイコット運動が起こり、これはマスコミをも巻き込む話題となった」とある。前にも書いたように、僕は東映動画でバイトをしていたので、その騒動は身近なものだった。会社の前で「198X年製作反対」のチラシが配られていたのを覚えている。僕は今も当時も、政治に関する意識が低いので、何が問題なのかは概ね理解できたが、どうしてそんな大事になっているのかは、分からなかった。
製作総指揮は渡邊亮徳。監督は舛田利雄と勝間田具治。作画監督とキャラクター・デザインが須田正己で、美術監督とメカニック・デザインが辻忠直。エフェクト・ディレクターとして高山秀樹が、メカニック作画監督として新井豊がクレジットされている。また、イメージ・イラストを生頼範義が担当し、当時のアニメ雑誌には、彼が描いた超リアルなイラストが、多数掲載されていた。
さぞや過激な映画なのだろうと思って劇場に行き、拍子抜けした。確かに核戦争の危機を描いたもので、途中までは物々しい内容なのだが、最終的に主人公の活躍よって最悪の事態は回避。一応、ハッピーエンドのかたちで終わっている。戦争や軍備を肯定するものではなく、むしろ、平和の大切さを謳う内容だった。また、主な登場人物のひとりであるアメリカ大統領は、人間味があり、正義感の強い人物として描かれていた。だから、観終わった後の感想は「どうしてこんな当たり前の内容で、騒いでいたのだろうか?」であり、「アメリカの大統領が妙にかっこよかったなあ」だった。自分の中に、なんとなく疑問が残った作品だった。
須田正己が作画監督という事で、『地球へ…』のようなリアルで、丁寧なアニメーションを期待していたのだが、それは裏切られた。「ディスコでのダンスがいい」とか、「浜辺でのヒロインの髪のなびきが凄い」とか、「ピアノを弾いている指がきれいに動いている」とか、ピンポイントで感心するところはあったが、映画全体としては、アニメーションとしての魅力の薄い作品だった。キャラクターに関しても、どういった経緯で、あのデザインに落ちついたのかは知らないが、リアルではあるが、洗練されたものではなく、描き手にとっても描きづらそうなデザインだった。予算やスケジュールの問題だったのだろうか。スーパーアニメーター須田正己の実力は発揮されているとは言えず、それが残念だった。また、生頼範義のイメージイラストが、どの程度作品に反映されたのかも分からなかった。
この原稿を書くにあたって「映画監督 舛田利雄 〜アクション映画の巨星 舛田利雄のすべて〜」(ウルトラ・ヴァイヴ発行/シンコーミュージック・エンタテイメント発売)という書籍を購入した。舛田利雄監督が関わった作品について語るインタビューブックだ。『198X年』に割かれたページは決して多くはないが、そこには僕が知りたかった事が、全て書かれていた。舛田監督は、アメリカの防衛体制をテーマにしたドキュメンタリー「テイク・オフ」を手がけており、それが『198X年』企画成立のきっかけになっているらしい。それから、東映の組合からバッシングを受けて、「製作の途中でぐっとタカからハトの方に軌道修正」したとある(詳しくは「映画監督 舛田利雄」をどうぞ。歴代『宇宙戦艦ヤマト』に関する発言も面白かった)。これを読んで「ああ、やっぱり」と思った。ロードショー時にも、途中で内容を変更したのではないかと思っていたのだが、ようやく裏が取れた。
それから「映画監督 舛田利雄」で「なるほど」と思った発言がある。『198X年』の初期構想について、舛田監督は「だってアニメでしょう。実写や現実で出来ないことがやれる。ということで作っているわけだから『ノストラダムスの大予言』(七四年)みたいに、警告の意味も込めて派手にワッーっとやろうと思っていたからね」と語っている。「ノストラダムスの大予言」は同名のベストセラーを原作に、人類滅亡を描いた特撮パニック映画だ。その過激な内容ゆえにカルト映画として扱われており、また、国内ではソフト化されておらず、幻の作品となっている。僕にとっては「ゴジラ対ヘドラ」と並ぶ、トラウマ映画だ。
確かに「ノストラダムスの大予言」と『198X年』は、ドキュメンタリータッチで人類の破滅を描いたという意味で似ている。それだけでなく、語り口も似ているような気がする。両作とも、大局と対比するかたちで若いカップルが主人公格の登場人物になっている、とするのは強引か。ちなみに、「ノストラダムスの大予言」では黒沢年男と由美かおるが若いカップルを演じており、『198X年』で主人公2人をアテたのは北大路欣也と夏目雅子だ。『198X年』がアンハッピーエンドで終わっていたら、この2本はもっと似ていたのだろう。
第104回へつづく
(09.04.09)