アニメ様365日[小黒祐一郎]

第119回 『パタリロ!』

 この原稿を書くために、ゴールデンウィークにDVDで『パタリロ!』を観たのだが、予想以上に楽しめた。あれ? こんなに面白かったっけ? と驚くくらい面白かった。本放映時よりも楽しめた。昔の作品を見直して、初見よりも印象がよくなるのは珍しい。
 この作品の主人公は、マリネラ王国の国王であるパタリロで、副主人公がMI6のバンコラン少佐。パタリロは他人をおちょくるのが趣味で、変身や時間移動もできる怪人だ。バンコランはシリアスな世界に生きる美形。彼には「美少年キラー」のニックネームがあり、彼に見つめられると、美少年は必ず頬を赤らめてしまう。他にはパタリロの部下で、全く同じ外見の人間が大勢いるタマネギ部隊。バンコランの愛人であり、元殺し屋の美少年マライヒ。それから、ゲストで登場する美少年達。といった面々で物語が展開する。
 原作は、魔夜峰央の同名マンガ。基本的にはギャグものなのだが、耽美、同性愛、スパイものといった要素を取り入れており、シリアスなエピソードも少なくない。ギャグは多彩であり、ネチっこい。最先端のギャグマンガだった。アニメ版は、ストーリーに関してもビジュアルに関しても、その原作を尊重した作りであり、原作同様に、異色の作品となった。バンコランを中心としたドラマには、海外TVドラマのような雰囲気があり、それも面白かった。キッチュな作品であり、後にも先にも、こんなTVアニメは他にはないはずだ。
 放映されたのは1982年4月8日から1983年5月13日で、途中でタイトルが『ぼくパタリロ!』に変更。放映時間も木曜から土曜に変わり、さらに金曜に変更されている。前々番組の『銀河鉄道999』、前番組の『新竹取物語 1000年女王』に続いて、制作プロダクションは東映動画(現・東映アニメーション)、チーフディレクターは西沢信孝だ。
 ビジュアルに関しては、特に背景が素晴らしかった。原作の装飾性が高くフラットな背景を、見事に再現していた。スタイリッシュであり、シュールな味わいすらあった。後に先輩のライターさんと話をした時に、この作品の画面構成について「キャラクターが邪魔だ。背景が見えない! って思うよね」と冗談を言っていた。そう言いたくなるくらい、背景に見応えがあった。「作画アニメ」ならぬ、「背景アニメ」だった。美術のチーフは、この後に『とんがり帽子のメモル』でも大ホームランをかっ飛ばす土田勇だ。
 作画に関しては、総作画監督として鈴木欽一郎がクレジットされている。全話にわたって、キャラクターの美麗さが保たれたのは彼の力なのだろう。各話の作画の個性が際立つシリーズではなかったが、好きだったのは、兼森義則作監のスタジオバード回と、伊東誠・星野絵美コンビの担当回だった。オープニングも、伊東・星野コンビの作画だったと記憶している(間違いだったら、ごめんなさい)。彼らのシャープな作画が『パタリロ!』に合っていた。21話「超ロボット・プラズマX」はアクション編で、金田調作画まであったが、この話も伊東・星野コンビの作画だった。
 同性愛に関しては、かなり過激な描写をしており、「よくこんなものをTVでやっているなあ」と思っていた。ラスト2本は前後編なのだが、ラス前の48話「霧のロンドンエアポート」は、バンコランが、彼の旧友であるデミアンとマライヒが全裸でラブシーンを演じているのを目撃したところで終わる。今回観返して「とんでもないところで引くなあ」と思った(翌週の最終回では、なぜか同じシーンでデミアンが服を着ていたが)。同性愛ネタではないが、プラズマXの娘であるプララのエロぶりも凄い。46話「プララの初恋」で、二枚目の異星人を観て「だって、子宮がうずくの〜」という、腰が抜けそうになるセリフを言っていた。しかも、プララを演じているのが、ワカメちゃん(当時)、しずかちゃん(当時)の野村道子だったものだから、破壊力が倍増していた。
 それから『パタリロ!』について話をするなら、進化するアイキャッチに触れないわけにはいけない。アイキャッチが連続もので、新しいバージョンになるたびに、内容が過激になっていったのだ。最後のバージョンは、バンコランに大砲で撃たれたパタリロが、バズーカで撃ち返すというもので、これはかなり笑えた。
 本放映時も、僕は楽しんで観ていたのだが、各話の出来に関して「んー、もうちょい!」と思う事も多かった。それは主に、ギャグについての不満だった。ファンと名乗れるほど原作に入れ込んでいたわけではなかったけれど、単行本には目を通しており、原作と比べながら、アニメ『パタリロ!』を観ていた。原作の面白さをどれだけ再現しているか気にして、点が辛くなったいるところがあったのだろう。さっき、本放映時よりも、今回の方が楽しめたと書いたが、そんなふうに変に構えないで素直に観られたのが、楽しめた理由だ。また、バンコランを中心にした人間関係の面白さは、アダルティなものであって、歳をとってからの方が楽しめるのかもしれない。バンコランとマライヒについては、今の方が魅力を感じる。バンコランのモテモテぶりとか、バンコランとマライヒのバカップルぶりを観ているだけで楽しい。
 この作品は、キャストの存在も大きい、パタリロが白石冬美、バンコランが曽我部和行(後の曽我部和恭)、マライヒが藤田淑子。タマネギ部隊は野島昭生、古川登志夫、古谷徹、三ツ矢雄二と、スラップスティックに参加していたメンバーが中心となっていた。レギュラーだけでなく、各話のゲストも豪華な顔ぶれで、声を聞いているだけでも楽しい。これも当時より、現在の方がありがたみを感じる。

第120回へつづく

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(09.05.07)