アニメ様365日[小黒祐一郎]

第120回 『The・かぼちゃワイン』

 前回、『パタリロ!』について「よくこんなものをTVでやっているなあ」と思ったと書いたが、同時期に、同じように思っていたTVアニメがあった。それも東映動画(現・東映アニメーション)の作品で、『The・かぼちゃワイン』だった。この作品の何について「よくこんなものを」と思ったのかについては、前にコラムで書いた。

「アニメ様の七転八倒」

第78回 『かぼちゃワイン』でダメになる
第79回 ドキ!「初恋同志の 露天風呂」
第80回 『うる星』と『かぼちゃ』と『一休さん』

 中でも印象的だったのが、第79回で触れた73話「初恋同志の 露天風呂」と91話「おれとエルとが 失神寸前!」だ。これは本放映でも、3年前に見直した時も「やりすぎだろ」と思った。僕は『かぼちゃワイン』を親と一緒に観る機会はなかったけれど、家族で晩飯でも食べながら観たら、きっと気まずくなっただろう。『かぼちゃワイン』について一番書きたい事は、上記のコラムで書いてしまったので、今日はそれを補足する内容にする。
 僕は『かぼちゃワイン』がかなり好きで、本放映でほぼ全話観ている。ただ、『超時空要塞マクロス』や『魔法のプリンセス ミンキーモモ』のような、アニメ雑誌に特集されるタイプの作品とは、別のものとして楽しんでいた。たとえば、実写のコメディドラマを観るような気分で観ていた。学生が主人公のラブコメディではあったが、『かぼちゃワイン』は、どこか大人目線で作らているところがあり、そのため、実写のコメディのように感じていたのだろう。原作の三浦みつるは青春ドラマが好きで、森田健作主演の「おれは男だ!」に登場した青葉学園からとって、主人公の名前を青葉春助にしたのだそうだ。『かぼちゃワイン』では、レギュラーキャラクターの多くが寮生活を送っており、確かに少し前の青春学園ドラマのようなノリもあった。それは1982年当時でも、すでにクラシックなものであり、実写のコメディドラマみたいとか、大人目線だと思ったのは、そのためでもあるのだろう。
 それから、僕は『あずきちゃん』『キテレツ大百科』『サザエさん』といった雪室俊一脚本のコメディが大好きで、彼の名前を最初に意識したのが『かぼちゃワイン』だったかもしれない。ご本人は決してそうは思っていないだろうけれど、僕にとっては雪室俊一の代表作だ。観ていてホッとするキャラクターの描写が最大の魅力で、アツアツぶりを描く事に対して、まるで躊躇がないのも素晴らしい。シリーズ後半は、あの手この手を使って、エッチなシチュエーションに持っていく手並みも(無理矢理な感じも含めて)楽しんでいた。
 「アニメ様の七転八倒」の第80回では、奥歯にものが挟まったような書き方になってしまったが、当時フジテレビは『うる星やつら』を大ヒットさせており、その後も『さすがの猿飛』『ストップ!!ひばりくん!』と、ヤングをメインターゲットにしたラブコメを連発していく(ヤング向けでもないし、ラブコメでもないが『Dr,スランプ アラレちゃん』の大ヒットも、フジのアニメを勢いづかせていた)。それに対して、ちょっと遅れるかたちでテレビ朝日は『かぼちゃワイン』『愛してナイト』『夢戦士ウイングマン』と、ラブコメものを発表していく。
 フジの一連の作品が、やたらと明るくテンションが高いのに対して、テレ朝のラブコメは落ちついていた。ちょっと野暮ったかったと言ってもいい。当時の関係者に話をうかがったところ、テレ朝側は、フジの作品を意識しなかったわけではないのだが、同じような派手な感じにはなりきれなかったという事らしい。それについては、テレビ朝日が教育番組専門局として設立されたTV局であり、その社風も影響しているのだそうだ。
 フジのラブコメ路線は、アニメブームによって、ティーン以上のアニメ視聴層の存在が大きくなったのに対応したものだったのだろう。それを思えば『かぼちゃワイン』のお色気路線は、ヤングのアニメ視聴層を意識し、ヤング向けになりきれなかったものとも考えられる。いや、ヤング向けでないところがよかったのだけれどね。

第121回へつづく

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(09.05.08)