アニメ様365日[小黒祐一郎]

第132回 『ヤマト 完結編』とアニメージュ

 『宇宙戦艦ヤマト 完結編』の内容に触れる前に、この作品についてのアニメージュの記事を紹介したい。『完結編』についての最初の記事が載ったのが、1982年7月号。それ以降、1983年の公開まで、毎月記事が掲載されている。
 面白いのは1983年1月号からだ。「拝啓、ヤマトスタッフさま 私は待つつもりです」のタイトルで、17歳の湊冬子というファンが『宇宙戦艦ヤマト』スタッフ宛てに書いた手紙を、2ページかけて掲載。これはアニメージュ編集部が前号で募集し、昔からのファンの気持ちを代弁するものとして選んだものだ。それに対して、次の見開きで、アソシエイト・プロデューサーの山本暎一が答えるという構成だ。そのファンの手紙は、小学3年生の子どもと高校3年生の青年を並べて立たせて「愛」と書かれたカードを見せれば、子どもと青年は全く異なった感情を抱くだろう、それは内的成長の結果である、というたとえ話に始まり、以下の文章に続く。

 ヤマト制作者は、この点を意識すべきだ。「ヤマト」といえば、なにもかも無条件に最高だと認めてくれたかつてのファンが、いつまでも変わりなく、たとえどんな作品を作っても認めてくれると「安心」してはならないのだ。創造者は常に不安でたまらない状態で、駆り立てられていなくてはならない。「安心」は「傲慢」と、ほとんど同義である。

 この後、彼女は『さらば宇宙戦艦ヤマト』以降の各作品のドラマ作り、キャラクターの描写、各シリーズの繋がり等の弱さを指摘する。そして『宇宙戦艦ヤマト』第1シリーズを貫いていたのは、正義でも愛でもなく、センチメタル(感傷)であるとし、それが宇宙の神秘と結びついて、男性だけでなく、少女の共感を呼んだと語る。そして、『完結編』では作品のテーマ、イデオロギーをしっかりと表現してもらいたい。スタッフは納得いく作品を作ってほしい。それを自分はいつまでも待つつもりだ、という言葉で文章を結んでいる。
 それに対して、山本暎一は以下のように答えている。まず、彼女に感謝の言葉をのべ、非常に深く、的確に『ヤマト』を観ている事に、感嘆の念を禁じ得ないと語る。そして、『ヤマト』第1シリーズが面白く、その後の作品にいまひとつの感がつきまとっている点については、自分も同感であると述べる。そして『ヤマト』のストーリーは、第1シリーズで完結しており、それについて付け加えるものはないとし、「しかし、『ヤマト』は、ヒットしてしまった。第2作以降をつくらせたものは、創作性ではなくて、商業性です」と断言。その後で、では、創作的に不純な第2作以降は作るべきではなかったのか、というとそんな事はないとして、その理由を述べている。彼の言う理由も面白いものなのだが、紹介するとあまりに長くなるのでここでは割愛する(さらにテーマと、手紙にあったセンチメタルについても触れている)。
 この記事が素晴らしいのは、手紙を出した彼女の作品分析が、筋の通ったものであるという事、それに対して山本暎一が誠実に答えているという点。そして、アニメージュ編集部がきちんと問題意識をもって、記事づくりに取り組んでいるところだ。
 1983年2月号では「読者 湊冬子さんへ スタッフからの 第2信」として、それに続く記事を掲載している。今度は、アシスタント・プロデューサーの山木泰人(クレジットでの役職は、設定)が、前号の内容を受けてコメントするという内容だ。前回の2人のやりとりに仰天し、戸惑ったという書き出しで始まり、以下の文面に続く(傍点は省いた)。

 たしかにおふたりのご指摘に正しい面も多々あり、スタッフの一員として、その部分は謙虚にそれを(原文ママ)受け止めたいと思います。しかし、一方で、私の知る限り「旅立ち」以降の作品が、たしかに動機は商業性であったにせよ「安心」や「傲慢」のもとに作られたことは一度もない、と信じています。

 「旅立ち」以降としているのは、山木泰人が西崎プロデューサーのアシスタントとして『ヤマト』シリーズに参加したのが『新たなる旅立ち』からであるためだそうだ。彼はその後、過去の作品について客観的反省は必要だが、あれこれ言ってもしかたないとして、制作中の『完結編』について詳しく語り、作品を判断するのはファンだが、「湊さんの待っている『本物の宇宙戦艦ヤマト』に仕上がると思います」と締めている。また、同じ2月号の特集には「もうひとつの読者からの手紙」として、沖田艦長を復活させるのを残念に思うというファンの意見を掲載している。
 ここまでの記事で、アニメージュ編集部のスタンスは、はっきりしている。『ヤマト』シリーズと新作『完結編』を全肯定はできない、この作品はこれでいいのか? という疑問がある。おそらくは、近年の『ヤマト』シリーズを否定したかったのだろう。公開直前の4月号では、その疑問をさらにストレートに記事にしている。4月号の表紙は、金田伊功が描いた古代進と森雪。キャッチコピーは「グッド・バイ 青春」。
 特集は「あなたに とってヤマトとは!? 『PART1』〜『永遠に』の スタッフ15人は 『完結編』をこう見ている!!」だ。芦田豊雄、荒木伸吾、石黒昇、藤川桂介、安彦良和といった、今まで『ヤマト』に参加したスタッフに電話でアンケートをとり、その結果で記事を構成。アンケートの内容は「(1)あなたは『完結編』を見ますか。(2)その理由は? (3)『ヤマト』の制作にかかわったことはどんな意味がありましたか。(4)あなたにとって『ヤマト』とは? ひとことでお願いします」というもの。『完結編』を観るつもりと回答したのは「機会があれば、見てみたい」「暇があれば、見ようカナー」を含めて、15人中8人。観ないと答えた人達は、その理由として「自分の一部みたいに思えた昔の『ヤマト』とは、はっきり別のものですから」「うわさでは今度の『ヤマト』はものを創る状況ではないと聞きますし、興味がわきません」「ぼくにとって『ヤマト』は終わっているからです」等と回答している。(4)の質問に対しても、辛辣な回答がいつも挙がっている。
 こんな記事を読んだら、『完結編』を観に行こうと思っていたファンも、その気がなくなってしまうのではないかと思う。しかし、当時の僕はこれらの記事を読んでひどいとは思わなかった。当時の僕の気分に、そして、おそらくは多くのファンの気分にフィットした記事だった。それくらい『ヤマト』という作品とファンの関係はこじれていたのだ。

第133回へつづく

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(09.05.26)