アニメ様365日[小黒祐一郎]

第164回 エピソードで振り返る『クリィミーマミ』3

 25話「波瀾! 歌謡祭の夜」、26話「バイバイ・ミラクル」において、優はマミに変身する力を失ってしまった。27話「フェザースターへ!」でフェザースターでの冒険を経て、優は魔法を取り戻すのだが、それと引き替えに冒険に同行した俊夫が、優に関する記憶の一部を失ってしまう。彼は、優とマミが同一人物である事を忘れてしまったのだ。一視聴者である僕が見ても、優と俊夫とマミの関係をシリーズ前半と同じ状態に戻そうとする制作者の意図は明らかで、この話を観て「ちょっと強引だなあ」と思った。28話「ふしぎな転校生」では、優のクラスに日高守という少年が転校してくる。守は自然や動物が好きな少年であり、すぐに優と友達になった。ひょっとして、優、俊夫、守で新しい三角関係になるのかと思ったが、そうはならなかった。守は恋愛には疎い男の子だったのだ。そんなこんなで、『クリィミーマミ』シリーズ後半がスタート。シリーズ後半は、前半に比べてファンタジー話が少なく、芸能界の話や日常の話が多くなっている。
 僕が『クリィミーマミ』で一番好きなエピソードが、31話「優のフラッシュダンス」(脚本/伊藤和典 絵コンテ・演出/望月智充 作画監督/後藤真砂子)だ。僕はこの話で『クリィミーマミ』にハマった。それまでも感心したり、面白がったりしていたが、熱中はしていなかった。「優のフラッシュダンス」のタイトルは、この年に公開された洋画「フラッシュダンス」から。めぐみがジェニファー・ビールス風の衣装着ているし、クライマックスの入会テストも「フラッシュダンス」風だ。優となつめはダンスを始めようとして、あるスクールに見学に行くが、そこは本格的なバレエのスクールだった。ダンスの素人だった2人は、スクールの先生に小馬鹿にされる。腹を立てた優は、数日後に行われる入会テストまでに、きちんと踊れるようになってみせると誓うのだった。
 話はシンプルで、ひねりもない。演出的な事についても、他の望月智充演出回の方が凝った事をやっている。だけど、観ていてやたらと楽しかった。幸福感のあるフィルムだった。当時はそれが何だか分からなかったのだが、今なら分かる。「優のフラッシュダンス」は、アニメファン(おそらくは男性のアニメファン)が望む快楽原則に忠実なフィルムだったのだろう。近年で言うと、京都アニメーションの作品に近い。勿論、それまでもアニメファンの快楽原則にリンクした作品はあったが、「優のフラッシュダンス」は、その純度が高かった。
 たとえば、この話の前半で、優が子どもの頃に何になりたかったのかが話題になり、イメージシーンで、そのひとつひとつを3頭身のデフォルメキャラで再現する。チビ優が消防士、婦人警官、看護婦、スチュワーデスに変身。最後にはゴジラになってしまう(正確には怪獣映画の着ぐるみ俳優)。ゴジラの着ぐるみを着て「がおー」と鳴くチビ優は、ロリコン的な意味で相当な破壊力だった。その一連のコスプレシーンは、ギャグとしても楽しく、つかみはバッチリ。後半では、主にダンスの練習をする様子が描かれるが、これも楽しい。猫の足取りをバレエの参考にしようとして、優はネガを床に落とすが、居眠りしていたネガは無様にお尻から着地。そこで優が「だーめだこりゃ」と呆れるのだが、その呆れ顔がよかった。口を大きく開けて、開けた口から2本の八重歯が見える。マンガ的な崩し顔だが、実にユニークで、可愛らしい。『クリィミーマミ』以前にも、少女マンガ原作のアニメでヒロインの崩し顔はあったが、こんなに鮮やかに使った例はなかったと思う。
 ダンススクール入会テストの前夜に、優は自分の部屋で大開脚に挑戦する。しかし、思ったように脚が開かないので、「パパー、パパー!」と哲夫を呼んで、甘えた感じで「手伝って〜」と頼む。哲也は背中を軽く押しただけなのだが、優の背中は胸が床に着くくらい曲がり、同時にグキっと音がして、「いたーい!」と大声を上げる。声を上げる時は画面は森沢家の全景で、叫び声はオフゼリフだ。この描写が完璧。今の若いアニメファンが観てもなんとも思わないかもしれないが、当時としては、驚くくらいキャッチーな描写だった。アニメ的にキャッチーであり、ロリコン的にキャッチーだった。
 このエピソードは、話としてはシンプルなものだが、その代わりに日常描写が多かった。明るい筆致による(主に少女の)日常描写と、ゆったりとした感じがマッチして、幸福感のあるフィルムになっているのだろう。洗練された後藤真砂子のキャラクター作画もポイントが高い。図書館のシーンで、竹本泉風のキャラクターがいるのも見逃せない(この当時、竹本泉が好きなのは、かなりの通だったはずだ)。
 「優のフラッシュダンス」では、哲夫となつめのやりとりで印象的なものがふたつある。まず、優が守を家に連れてきた事をきっかけに、疑問を抱いた哲夫が「あのさ、前から不思議に思ってたんだけど、優が連れてくる友達って、なんで男の子ばっかりなんだろうね」となつめに尋ねる。すると、彼女はちょっとからかうように「哲ちゃんがいけないのよ」と答える。なつめの説明によれば、それは哲夫が優を独り占めして、男の子の遊びばかりを教えていたからだ。いつも哲夫が優と遊んでいたために、なつめは、自分が優と遊んだ記憶がほとんどないのだ。そう言われて、哲夫はちょっと照れる。本筋とは直接関係ないやりとりだが、キャラクターへの愛情がたっぷりと感じられる描写だった。優が活発な性格になったのも、怪獣映画の着ぐるみ俳優になりたいと思ったのも、哲夫に男の子のように育てられたためなのだろう。そんなバッグボーンまで考えられているのが(この場面を描く時に、思いついたのかもしれないが)驚きだったし、優が親に愛情を注がれて育ったのもいいなと思った。
 もうひとつは、哲夫となつめがTVのクイズ番組を観ている場面。番組中で出された問題は「女優でMMと言えば、マリリン・モンロー。では、BBといえば?」。TVの回答者はボボ・ブラジルと答えるが、それは間違い。哲夫は「え、今の間違い?」と言うと、なつめは「バカねえ。ベティ・ブープでしょ」と突っ込む。本当の正解はブリジット・バルドー。これは視聴者がなつめに突っ込むところだ。ちなみに、ボボ・ブラジルはプロレスラーで、ベティ・ブープはアニメのキャラクター。子どもの視聴者には難度が高すぎるギャグだが、大人のアニメファンならニヤリとするところだ。これは望月智充のギャグだろうなあ。さらに本筋と関係ないやりとりだったけれど、森沢家の生活感が感じられ、同時に作り手の気分が出ていた。
 続く32話「二人だけのバレンタイン」(脚本/島田満 絵コンテ・演出/大町繁 作画監督/昆進之介)は、バレンタインの日の出来事を描いたエピソード。前半に、心をこめたチョコレートには、フェザースターのニンフが愛を吹き込むというファンタジー描写があるが、マミの登場はTVCMと、俊夫の妄想のみ。小さい頃の思い出をからめて、優と俊夫の関係を描いた正統派ラブロマンスだった。僕が『クリィミーマミ』の録画を最初に残したのが「優のフラッシュダンス」。その次が「二人だけのバレンタイン」だ。

第165回へつづく

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(09.07.09)