第165回 エピソードで振り返る『クリィミーマミ』4
前回書いたように、31話「優のフラッシュダンス」で、僕は望月智充のファンになった。『クリィミーマミ』における彼は、常に作画監督の後藤真砂子とコンビを組んでおり、望月&後藤コンビの作品と書く方が適切なのだが、話を分かりやすくするため、ここでは望月智充担当回という言い方で話を進めたい。
「優のフラッシュダンス」の次に、望月智充が手がけたエピソードが37話「マリアンの瞳」(脚本/島田満 絵コンテ・演出/望月智充 作画監督/後藤真砂子)だ。僕が一番好きなエピソードが「優のフラッシュダンス」なら、一番感心したエピソードが「マリアンの瞳」だ。
タイトルになっているマリアンの瞳とは、150年前に、リヒテンゲルの王女マリアンが作らせたウェディングドレスだ。そのマリアンの瞳が、マミとめぐみが出演するファッションショーで使われる事になり、パルテノンプロに持ち込まれた。マミはたまたま、小部屋でマリアンの瞳を目にするが、その胸のところに血の跡と思しき赤い染みがついていた。直後にマミは、別の部屋でマリアンの瞳を見せられるが、それには染みがついていない。そして、さっきの部屋からはマリアンの瞳が消失していた。マミが喫茶店でお茶を飲んでいると、近くの席で、パルテノンプロにマリアンの瞳を持ち込んだ轟という男が、仲間と怪しげな事を話していた。「マミには計画どおり、紅小路鏡子と同じ運命を辿ってもらう……」と轟。そして、マミがDJを務めるラジオ番組に「マリアンの瞳を着ないで! さもないと怖ろしいことがおこります K・B」と書かれたハガキが届いた。マリアンの瞳の秘密とは? ハガキを送ってきたK・Bは、轟が言っていた紅小路鏡子なのか? マミは謎を解くために、電話帳で紅小路鏡子を調べる。紅小路家を訪ねると、大奥様と呼ばれる女性がマミを迎えた。彼女は、確かにハガキに書かれているのは鏡子の文字だが、鏡子は10年前に死んでいると言うのだった。と、ここまでがAパート。Bパートもホラータッチで物語は続く。鏡子の死の原因と、マリアンの瞳の伝説が語られ、それを知ったマミは、パルテノンプロにあるマリアンの瞳を燃やしてしまおうとするが……。その後も、時代を超えてマリアンとなってしまったマミが、マリアンの悲劇を繰り返しそうになったり、血まみれのめぐみが登場して命を落としたりと物語は二転三転。このエピソードは、脚本を執筆した島田満の代表作だろうとも思う。
当然、最後には、なーんちゃってなオチが着くのだが、そこに持っていくまでの話の運びが完璧。まるで隙のない仕上がりだった。初見時にこのエピソードを、真剣に観たのを覚えている。騙されたマミが「もおー、みんな、嫌いよー、大嫌〜い!」と叫んだところで終わるのだが、その終わり方が鮮やかでよかった。それまでの緊張感が、マミの叫びで、笑いに転化されたのだろう。細かい事を言うと、その「大嫌〜い!」のところで(つまり、マミのセリフの途中で)ポンとカメラを引いている。引いた後の、フレームの左下に小さくマミがいる構図が秀逸だった。その構図が、マミの可愛らしさを際立たせていた。
画作りが印象的なところもあった。ひとつはマミが、電話帳で紅小路の家を調べる場面。マミが使っていた電話BOXに、暴走したトラックが突っ込んでくる(轟の仲間が、マミが真実に近づくのを邪魔するためにやった)のだが、驚いたマミのハイライトや影色が、非常に鮮やかだった。事件のショッキングさを色で演出してるわけだ。謎が解かれる直前のシリアスな場面で、黒を多用し、マミが暗闇に溶け込むような描写がある。魔法少女ものとしては、エキセントリックな映像だった。
それから「マリアンの瞳」で忘れてはいけないのが、独特の場面転換だ。前シーンラストの画と、次シーン最初の画を交互に見せて、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン! と効果音をつけているのだ。「キャプテン・スカーレット」か「ウルトラセブン」(「侵略する死者たち」「蒸発都市」)の手法を戴いたのだろう(当時、望月智充から、音響スタッフが「ウルトラセブン」を意識してつけたと聞いた憶えがある)。その場面転換が緊張感を高めていた。本放映時、僕は「あ、『ウルトラセブン』の演出だ」と思った。そういった変わった演出をやっている事を面白いと思ったし、それをパロディとしてでなく、きちんと手法として使っているのが気持ちよかった。
「マリアンの瞳」前後で印象的だったのが、35話「立花さん、女になる!?」、39話「ジュラ紀怪獣オジラ!」、44話「SOS! 夢嵐からの脱出」だ。「立花さん、女になる!?」(脚本/伊藤和典 絵コンテ・演出/玉野陽美 作画監督/千葉順三)は正直言うと、もう一押し欲しかった話だが、木所と立花の父親が、女装した立花に一目惚れをするというアイデアが可笑しかった。39話「ジュラ紀怪獣オジラ!」(脚本/伊藤和典 絵コンテ・演出/立場良 作画監督/河内日出夫)は本格怪獣もの。というか、伊藤和典らしい特撮パロディもので、哲夫が芹沢博士のコスプレをしたりする悪ノリぶり。「SOS! 夢嵐からの脱出」(脚本/伊藤和典 絵コンテ・演出/安濃高志 作画監督/遠藤麻未)は「ミステリーゾーン」か「ウルトラQ」かというSFもので、立花、マミ、めぐみを乗せたヘリが夢嵐に巻き込まれ、東京上空にあるらしい異次元空間に迷い込む。異次元と東京の自然破壊を結びつけた話で、最後にマミが高層ビルが崩れていく未来を幻視するところが、ちょっと刺激的だった。ビジュアル的には、異次元の描写空間よりも、上空から見下ろした高層ビルの方が魅力的。小林ブロダクションのパワーを感じたエピソードでもあった。
第166回へつづく
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