第185回 『愛・おぼえていますか』とバドワイザー
『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』については、前回までで、大きな話題については大体書いたので、今日は小さい話題を幾つか。『愛・おぼえていますか』と言えば、何はなくても、バドワイザーとタコハイだ。
『愛・おぼえていますか』のクライマックスで、輝のバルキリーが、敵総司令であるボドルザーの要塞奥に突入し、通路のようなところでミサイルを一斉発射する。ムックによれば、シーン172のカット108だ。ミサイルは、お馴染みの目にも止まらぬ超スピードで飛んでいくのだが、1コマ1コマを止めて観ると、ミサイルの中にタコハイとバドワイザーが混じっているのが分かる。しかも、両方とも一度大写しになる。タコハイというのは当時流行っていたサントリーのアルコール飲料で、田中裕子のCMが人気を博していた。バドワイザーの方は説明しなくてもいいと思うけれど、米国のビールである。
確認した事はないが、ミサイルの代わりにタコハイとバドワイザーの缶が乱舞したのは、原画マンのお遊びだろう。劇場での初見時に、自分がタコハイとバドワイザーに気づいたかどうかは、覚えていない。気づいたとしても「あれ? 今、変なのが飛んでいたぞ」くらいにしか思わなかっただろう。ビデオソフトを入手してから、そのシーン172のカット108をコマ送りして、ゲラゲラ笑ったのはよく覚えている。友達との間でも「タコハイとバドワイザー、観た?」なんて話題になった。あれだけ盛り上がっているクライマックスで、そんな遊びをやっているところが、また痛快だった。『愛・おぼえていますか』は、TV『マクロス』よりもずっとまとまりがよく、『うる星やつら』等に比べればお遊びは少ないが、第66回で書いた「ぼくらの時代」を代表するタイトルである事に間違いない。僕にとっては、タコハイとバドワイザーのカットが、そのシンボルだった。あのカットを観ると、改めてアニメーターがノリノリで仕事をしていた作品なんだなと思う。
『愛・おぼえていますか』のLDを買った時も、DVDを買った時も、まずタコハイとバドワイザーのカットを確認する。それを観て「ああ、やってる、やってる」なんて思う。確認するのは、メーカーからクレームがついて、バドワイザーの画像を修正するという噂を聞いた事があり、バドワイザーが消えていないか心配だったからでもある。この原稿を書くにあたって、ネットでタコハイについて調べたのだけど、タコハイはもう販売されていないようだ。『愛・おぼえていますか』を観る度に、ちょっと呑みたいなと思っていたのだけど、遂に一度も呑む機会がなかった。
アニメーターのお遊びと言えば、スプラッターネタで印象的なカットがひとつある。これもクライマックスで大艦隊戦。敵の攻撃を受けて、マクロス艦内に被害が出るカットだ。ムックによればシーン172のカット35。逃げ惑う人物のひとりが、落ちてきた板状の物体のために、首が切断されてしまう。ギロチンみたいにスッパリと。しかも、切断された首がカメラの方に飛んでくるという趣味の悪さ。これも確認した事はないが、やはり原画マンのお遊びだろう。もし、絵コンテに指示があったとしても、作画の頑張りでエグさが増しているはずだ。このカットは短い割りには、インパクトが強い。「やっちゃった感」のある1カットだ。『愛・おぼえていますか』を観返す度に、ここで「あー、やっちゃった」と思う。
この後だと思うが、スプラッター映画のブームがあり、アニメでもスプラッター描写を取り入れた作品が増えていく。中にはドラマ的な必然性がないのに、サービスとしてスプラッター描写を挿入する作品もあった。『愛・おぼえていますか』のこのカットは、その先駆けかなと思っている。
それから、アニメーターのお遊びではないが、公開当時に、仲間内で受けていたのが、柿崎の死にっぷりだった。柿崎というのは、TVシリーズにも登場していたキャラクターで、お世辞にも格好いいとは言えない男だ。水上の戦いで、柿崎は、無線で輝に対して冗談を言って下品に笑っている最中に、敵の一撃を受けて、機体ごと爆発。あまりに間抜けなタイミングだった。しかも、その死の瞬間が、輝のコクピット内の小さなモニターに映し出されているのも、哀れさを強調していた。劇場で観た後、友達と「柿崎らしい死に方だった」と言って、うなづきあった。
『愛・おぼえていますか』については、印象的な描写、気になるセリフがまだいくつもあるのだけど、それはまたの機会に。
第186回へつづく
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(09.08.10)