第187回 『キン肉マン』(劇場版第1作)
『キン肉マン』は「東映まんがまつり」のプログラムとして、7本の劇場版が作られており、今回取り上げるのは1984年夏の「まんがまつり」で上映された第1作だ。断言するけれど、これは傑作。
ストーリーはシンプルだ。キン肉マンのチャピオンベルトとガールフレンドのマリが、凶悪な宇宙地下プロレス連盟の面々によって奪われてしまう。キン肉マンが決められた時間までに宇宙地下プロレス連盟の基地にたどりつかなかった場合は、マリの命はない。キン肉マンは6人の正義超人と共に、宇宙地下プロレス連盟の基地のあるメトロ星に到着。しかし、宇宙地下プロレス連盟の戦士は手強い。正義超人達は、キン肉マンを敵ボスがいる目的地に行かせるために戦い、1人、また1人と倒れていく。脚本は山崎晴哉、監督は白土武、作画監督は森利夫だ。
主人公のために、味方の戦士が次々に倒れていくパターン(「ここは俺に任せて、早く行け!」「すまない!」というやつだ)は、今では集団ヒーローものの定番だ。このパターンを、アニメで最初にやったのが、この劇場版『キン肉マン』第1作だろう。勿論、このパターンを『キン肉マン』が発明したとは思えない(初見時にも既視感があった)ので、時代劇か何かにルーツがあるのだろうと思う。
この映画が傑作になっているのは、単にその定番パターンをやっているからではない。それを含めてドラマがしっかりと構築されているからだ。ポイントは、キン肉マンをボスのところに行かせるために、正義超人達が命を投げ出して戦う理由が、終盤まで伏せられている事だ。クライマックスのバトルで、キン肉マンもボロボロに傷つき、このまま負けてしまうのかと思われた時に、テリーマンの口から正義超人達がキン肉マンのために戦った理由が語られる(その理由が何なのかは見当がつくと思うが、文章にすると安っぽくなるので、ここでは書かない)。
キン肉マンは仲間達の想いを知り、それに気づかなかった自分を恥じて、男泣きに泣く。キン肉マンがポロポロと涙をこぼすカットが最高にいい。観ているこっちも泣けてくる。「みんな、見ててくれよ。火事場のクソ力じゃい!」と言って立ち上がり、敵の大将であるオクトパスドラゴンを倒すまで、無闇矢鱈と盛り上がる。アニメ『キン肉マン』史上最高の名場面だ。映画冒頭から、例によってキン肉マンは、ずっとおどけた事をやっているのだが、その悪ふざけをしてきた事すらも、クライマックスを盛り上げるのに一役買っている。『キン肉マン』でテーマなんて言葉を口にするのは照れくさいが、友情というテーマをきっちりと描ききっている。ドラマのタイプとしては、東映らしいベタベタなものだが、それを貫いている。素晴らしい。100点満点で120点あげたいくらいだ。
他にも誉めたいところはいくつもある。まず、登場する正義超人の全員に、見せ場があるという事。しかも、活躍時にその正義超人のイメージソング、あるいはそのインスト曲をかけるというサービスぶり。特に、ウォーズマンはスタッフに気に入られていたのか、イメージソングの使い方も、最後の決めポーズ&決めゼリフもやたらと格好いい。キン肉マンとマリの関係がシリアスなのもいい。キン肉マンがオクトパスドラゴンを倒した後、さらに巨大怪獣との戦いがあるのもいい。48分と尺は短いが、内容はぎっしり詰まっている。
この作品については、絶賛したいのだけれど、一点だけ不満がある。最後の最後で『少年ケニヤ』のパロディがあるのだ。『少年ケニヤ』の予告編やTVスポットに、横たわったケートの顔に、ワタルの顔が近づき、「口移しに、メルヘン下さい。」というキャッチコピーが出るカットがあるのだが、突然、キン肉マンとマリがそのパロディをやる。初見時に、「こんなパロディは10年後に観直したら、なんだか分からないぞ、ここまでちゃんと出来ている作品なのに、勿体ない」と思った。25年経って、改めてDVDで観直してみたら、やっぱり意味不明なカットになっていた。
第188回へつづく
キン肉マン THE MOVIE
カラー/336分(本編)/ニュープリント・コンポーネントマスター/主音声:モノラル/片面2層2枚組/16:9 LB/7作品収録
価格/10290円(税込)
発売・販売元/東映ビデオ
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(09.08.12)