第189回 『ドラえもん のび太の魔界大冒険』
1984年春には、劇場長編『ドラえもん』のシリーズ第5作『のび太の魔界大冒険』が公開されている。芝山努が監督になって2本目の、劇場長編『ドラえもん』だ。第78回でも書いたが、劇場長編『ドラえもん』のベスト作品なら、僕は第2作『のび太の宇宙開拓史』か、この『のび太の魔界大冒険』のどちらかを選ぶ。『のび太の宇宙開拓史』はストレートに感動した作品で、『のび太の魔界大冒険』はワクワクした作品だ。
『のび太の魔界大冒険』はアイデアが優れている。舞台になっているのは、のび太とドラえもんが「もしもボックス」で作った、科学の代わりに魔法が発達した世界。そこでは科学が迷信として扱われている。この舞台設定がまず秀逸だ。のび太達は、地球を侵略しようとする魔界の悪魔達と戦う事になる。映画後半でのび太達はタイムマシンを使って、もしもボックスを使う前の現実世界に戻るのだが、それを追って魔法世界から悪魔メジューサも過去の現実世界にやってきてしまう。この展開には、リアルな舞台と、非現実的な世界がクロスする心地よさがあった。何よりも感心したのはタイムパラドックスものとしての構成がしっかりしている事で、映画冒頭で登場したのび太とドラえもんの石像が何なのかが判明するあたりは、話の運び方も秀逸。
その後、ドラミが登場したところで、彼女の「もしもボックス」でこの物語が大団円となる事が分かり、一度は画面にエンドマークまで出てしまう。しかし、「もしもボックス」を使っても、魔法世界が消えるわけではなく、パラレルワールドとして残る事になる。「もしもボックス」を使う事は、魔法世界に残してきた仲間を見捨てる事になると思ったのび太は、それを使うのをやめて、もう一度、魔界の魔王と戦う事を決意。ここの展開には驚いたし、感心した。映画の途中でエンドマークを出してしまう茶目っ気もいい。
後の劇場長編『ドラえもん』に比べると、地味な仕上がりかもしれないが、『のび太の魔界大冒険』の初見時のインパクトは大変なものだった。だから、僕の中では『のび太の宇宙開拓史』と並んでベストだ。ここまでも「劇場長編『ドラえもん』は結構面白いよなあ」と思っていたが、『のび太の魔界大冒険』を観てから「劇場長編『ドラえもん』は凄い!」と思うようになった。
作品についてはまるで文句がないのだが、『のび太の魔界大冒険』のDVDソフトには、ふたつ残念な点がある(ビデオソフトでも同様だったはず)。ひとつは第78回で書いたのと同じ問題だ。この映画も4対3のスタンダードで制作し、上映時にマスキングしてビスタにする形式だった。DVDソフトではビスタではなく、スタンダードで収録されている。画面の上下に余裕があるレイアウトになっていて、しまりのない画面になっているのだ。『のび太の魔界大冒険』は構図をしっかりとっており、劇場で観た時も「映画っぽいな」と思った箇所がいくつかあった。それだけにスタンダードでの収録は勿体ない。
もうひとつはよく話題になる事だが、劇場公開時と主題歌が違う。劇場公開時は小泉今日子が歌う「風のマジカル」が主題歌として使われており、作品の印象を華やかなものにしていた。ところが契約の関係で、後のビデオ化、DVDソフト化では、他の歌に差し替えられているのだ。観返す機会があると「これは違うなあ」と思う。
第190回へつづく
(09.08.14)