第190回 「死んぢゃえば」1000回(番外編8)
そもそも「WEBアニメスタイル」で毎日、日記を書くというアイデアを出したのは吉松君自身だった。連載開始前の、僕からのオーダーは「吉松君、週イチで何か書いてよ」というもので、彼は数週間考えてから「だったら、毎日、日記を書きますよ」と言い出した。週に1本ちゃんした原稿を書くよりは、毎日簡単な原稿を書く方が楽だというのだ(その時の模様が「第0回 死んぢゃえばいい人のための連載」)。最初は「さすがは吉松君、面白い事を考えるなあ」と、僕も気楽に考えていた。
皆さんもご存知のとおり、上がってくる原稿は面白かった。彼らしさがよくて出ているというか、吉松孝博という人間がそのまま原稿になっているようだ(ちなみに、今までの連載の中で、僕が特に気に入っているのが、「第177回 はい、だあれ!」と「第709回 マニアイマセンデシタ」だ)。だが、毎日掲載するのは予想していたよりも、大変だった。吉松君は原稿を描くのは速い。描き始めれば、あっとい間に描いてしまうのだが、何しろ彼は現役のキャラクターデザイナーであり、アニメーターだ。多忙な彼に、毎日原稿を描く時間を見つけてもらわなくてはいけない。取材に行く前に、朝のアニメスタイル編集部に入って原稿を描いていった事もあったし(第134回 博物館へ行くので……)、打ち上げの最中に、席を外して原稿を描いてもらった事もあった(第150回 150回だよ!)。それから、原稿に送ってもらう段取りの問題がある。吉松君の仕事場には、彼のスキャナーがないので、誰かが原稿をスキャンしてデータ化し、アニメスタイル編集部に送信しなくてはいけない。スタジオの広報や制作の方にお願いしてスキャンと送信をやってもらっている(マッドハウスの2代目スキャン&送信係が、1000回記念企画の原稿を書いてくれた武井風太君だ)。だが、お願いしている人が用事があって出かけてしまうと、原稿が届かない。原稿はでき上がっているのに、いつまで待っても原稿が届かずにパニックになった事もあった(第72回 「24」風にお送りしてます。)。
連載を始めた頃は、数回分の原稿を先に描いてもらっていたのだが、すぐに、その日に掲載する原稿を、その日に描くペースになってしまった。スキャンする段取りが組めず、FAXで送ってもらった原稿を掲載した事は、数え切れないくらいある(最初のFAX入稿が「第50回 唯一ぶっちゃける俺」)。海外から原稿を送ってもらった事もあった(第175回 怖い怖い!!)。原稿が間に合わなかった時のために、代原を用意した事もあったが(第51回 FAX入稿の経緯)、笑いをとるために、用意した直後に使ってしまったので、あまり意味がなかった(第52回 お知らせ)。毎日が綱渡り。スリリングな日々だ。
そして、遂に1000回を迎える事になった。やったね、吉松君。凄い! 偉い! 素晴らしい! 1000回を迎えた夜は呑みに行こう! と思っていた先週の金曜日に、あの事件が起きた。なんと1000回を迎える直前の999回目に、いきなり原稿が落ちてしまった(詳しくは、土曜に臨時更新した「第999回 1000回前にミラクル」をどうぞ)。金曜のアニメスタイル編集部は久しぶりに、大パニック。それにしても998回毎回あげてきたのに、ここで落とすとは! しかも、その理由が「休みだと勘違いしたから」だって! 面白すぎるよ、吉松君!
999回が落ちた翌日の土曜日に、吉松君の師匠である芦田豊雄さんのところに、1000回記念企画の原稿をいただきに行った。芦田さんは「1000回連続更新なんて、吉松も大したもんだよね」と嬉しそうに言っていた。芦田さんの原稿には「吉松すげ。1000回皆勤なんて すげ。」と書かれていた。それを見て「あ、あの実は、連続更新にならなかったんですよ……」と告げたところ、さすがの芦田さんもちょっと驚かれていた。一瞬「この原稿どうしようか?」というノリになったが、そのままいただいてきた。なんだか、4コママンガのオチみたいだった。
まあ、このちょっとトホホな感じも、吉松君らしいと言えば、吉松君らしい。見事に彼らしさが表現された展開だった。そう思う事にしよう。吉松君、とにかく1000回、御苦労様。これからも面白い原稿を待ってます。
第191回へつづく
(09.08.17)