第194回 『とんがり帽子のメモル』1話、5話、9話
メモル達は宇宙から来たリルル星人だ。アルプスの麓の人里離れたところに、名前のない湖があり、その湖の真ん中にある小さな島に、メモルを含めた246人のリルル星人が住んでいる。彼らは宇宙旅行をしていたが、途中で宇宙船が故障して、地球に不時着。1年前からその島で暮らしている。1話「星からきたおしゃまなチビ」で、以上の設定が説明されているが、前回(第193回 『とんがり帽子のメモル』)で説明したように、企画段階ではメモル達は妖精であり、宇宙人の設定は制作が始まってから足したものだった。それを知って改めて見直すと、確かに無理に設定を変更したようにも感じないでもない。ただ、本放映時にはそんな事情は知らず、妖精という曖昧になりがちなキャラクターに、宇宙人という設定を加える事で、リアリティを与えているのだろうと好意的に解釈していた。
メモル達は、島から出る事はめったになく、この星に、自分達よりもずっと大きな人間がいる事も知らなかった。メモルが最初に出逢った人間がマリエルだった。元気で屈託がないメモルに対して、病弱なマリエルは内向的で、沈んでいる事の多い少女だった。メモルとマリエルは友情を結び、やがて、マリエルは明るさを取り戻していく。2人はそれぞれ魅力的であり、小さなメモルが、マリエルを応援するという関係性もよかった。2人のドラマは品がよく、そこが好きだった。リルル星人の事は、マリエル以外の人間には秘密にする約束になっており、マリエルはお屋敷の他の人達には内緒で、メモル達を自分の部屋に入れて、一緒に時間を過ごす。「秘密の友達」という設定のくすぐったさもよかった。
メモル達が暮らしている島は、リルル村と呼ばれており、シリーズ序盤は、リルル村内で展開するエピソードと、メモルとマリエルの関係を描くエピソードが、並行して描かれた。序盤のエピソードで印象的なのは、まずは1話「星からきたおしゃまなチビ」(脚本/雪室俊一、作画監督/尾鷲英俊、演出/葛西治)。すでに世界観は完成しており、キャラクターも美術も魅力的。リルル村の生活描写も面白かったし、作画も凝っていて芝居が丁寧だ。1話で作画監督を務めた尾鷲英俊は、オープロダクションの新鋭で、前年に放映された『ベムベムハンター こてんぐテン丸』で活躍しており、僕はそのとき名前を覚えた。ただし、1話ではマリエルはラストに登場するのみ。まだ、メモルとは言葉も交わさない。5話「どうしてお腹がすくのかな?」(脚本/朝倉千筆、作画監督/只野和子、演出/佐藤順一)は、今まで一度もお腹が空いた事がなかったマリエルが、メモルのピンチを救うために駆け回り、初めて空腹を感じるという話。運動したマリエルは肌が上気し、頬が赤くなっていた。このあたりの描写で、キャラクターの暖かみを生々しさとともに描き出す、サトジュンイズムが早くも炸裂。屋根の上のアクションの見せ方も上手い。
僕にとって『とんがり帽子のメモル』が、最初のピークを迎えるのが、9話「マリエルの目玉焼」(脚本/雪室俊一、作画監督/及川博史、演出/貝沢幸男)と、10話「みんなそろって忘れ草」(脚本/雪室俊一、作画監督/名倉靖博、演出/佐藤順一)だ。9話「マリエルの目玉焼」は、マリエルの家で食べた目玉焼きの美味しさを、メモルが仲間に話した事から起きる珍騒動。演出に関しては、特に冒頭が凄い。カーテンを開けて、外界の光(窓の外は透過光!)にたじろぐマリエルが、妙にドラマッチック。サブタイトル直後に、目玉焼きの作り方をメモルが説明するのだが、ここは演劇風というか、妙に芝居じみた作りになっている。時間軸をいじって同じ場面を2度繰り返すのも格好いい。初っ端から凝った描写が連続して、思わず引きこまれた。
リルル星人はあまり動物を食べないらしいが、メモルの話を聞いて、村人は目玉焼きに興味を持ってしまった。そして、村の科学者であるコロンパスは、科学の力で、目玉焼きを発明しようとする。コロンパスの作った玉子は「コロンパスの玉子」という名前で、そのネーミングだけで、ちょっと笑ってしまった。いかにも雪室俊一らしいユニークな着想だし、ちょっとイカれたコロンパスのキャラクターも、彼が好意を持っている村の女性ミーサとの関係も味があっていい。今観るとコロンパスが貝沢幸男のオリジナルキャラクターに見えるくらい、彼の個性が出ている。また、「マリエルの目玉焼」は内容が詰まっている感じもよかった。
当時聞いた話だが「マリエルの目玉焼」と「みんなそろって忘れ草」は、いずれも絵コンテの段階で話をあまりにも変えてしまい、貝沢幸男と佐藤順一は怒られたのだそうだ。「マリエルの目玉焼」も面白かったが、「みんなそろって忘れ草」はさらに凄かった。それについては次回で。
第195回へつづく
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(09.08.21)