第197回 『とんがり帽子のメモル』32話、35話
一度は退学が決まったマリエルだったが、彼女のピアノを気に入った院長のはからいで、サンロアーヌ学園に残れる事になった。メモルは寄宿舎の部屋で、彼女と一緒に生活する事になる。26話からしばらくサンロアーヌ学園が舞台となり、マリエルとメモルを中心に物語が展開。リルル村の描写はかなり減った。オスカーやグレイスもサンロアーヌ学園の生徒であり、グレイスとその取り巻き達が、マリエルをイジメる事も多かった。ファンタジー色も薄くなり、暗いトーンのエピソードも生まれた。初期のエピソードと比べると、まるで別の作品になってしまった。
この路線変更は、視聴率対策として行われたものであったようだ。マリエルが周囲にいじめられ、苦労するストーリーで視聴率を上げたかったのだろう(1年前にNHK連続テレビ小説の「おしん」が大ヒットしており、その影響もあったのかもしれない)。TVシリーズが初期のコンセプトを貫かなくてはいけないとは言わないが、正直言って、26話以降はシンドいところがあった(より正確に言えば、25話「二人を結ぶ風の手紙」についた予告からシンドかった)。路線変更直後は、脚本や演出のテンションも落ちているようだった。30話「幕があいたら小さなスター」(脚本/雪室俊一、作画監督/姫野美智、演出/久岡敬史)では、メモルの存在に疑問をもったグレイスに対して、オスカーが、メモルは「マイコンが入った人形」だと言ってごまかすのだが、このエピソードを観た時には「『メモル』の世界でマイコンはないだろ!」と思った。
オスカーとグレイスが、マリエルが入学したサンロアーヌ学園の生徒だったのも、ご都合主義的だが、サンロアーヌに来たメモルがホームシックになっているのに、リルル村に帰ろうとしないのも(劇中でメモルが村に帰らない理由を説明していたが、説得力はいまひとつ)、作り手の都合だけで話が進んでいる感じで嫌だった。
この時期のエピソードで印象に残っているのが、32話「あたしは星空のバレリーナ」(脚本/鈴木悦夫、作画監督/野部駿夫、演出/佐藤順一)と、と35話「白い木の実の秘密」(脚本/鈴木悦夫、作画監督/只野和子、演出/貝沢幸男)だ。「あたしは星空のバレリーナ」は、サンロアーヌ学園でマリエルの友達になったシンシアにスボットがあたるエピソード。ストーリーは薄味なのだが、ポーズや表情が可愛らしい。この話では、佐藤順一が演出チェックで大量のラフを描き、作画の底上げをしたらしい。最大の見どころは、冒頭で伸びをするレオタードのシンシアだ。これが激ウマ。
「白い木の実の秘密」は貝沢幸男の個性が色濃く出たエピソードで、ファンにも人気が高い。湖の畔で暮らす老人と、その孫のモニカという女の子にメモル達が関わる事になる。モニカは働きに出たまま何年も帰らない母親を待っていた。モニカは、湖に白鳥が来たら母親が戻ってくると思い込んでおり、老人はどんな鳥が来ても「それは白鳥ではない」と言う。しかも、老人の命はもう長くないようだ。泣ける話ではあるのだが、この話の見どころはそれだけではない。秋の情景、しっとりとした雰囲気もいい。オスカー、マリエルが図書館で木の実について調べている場面(マリエルが「(白鳥が)糞をしたのね!」と大きな声で言うのが、なかなかのインパクト)や、マリエルとメモルが木の実を使って栄養剤を作る場面のコミカルな感じも新鮮だった。
老人とモニカのビジュアルはかなり独創的。これは貝沢幸男のイメージと、只野和子のデザインによってできたキャラクターだろう。スタジオライブだけあって作画に遊びが多く、キャラクターが生き生きとしていた。「白い木の実の秘密」は内容に関しても、ビジュアルについても味のある話だった。
第198回へつづく
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