アニメ様365日[小黒祐一郎]

第222回 『オヨネコぶーにゃん』

 「アニメ様365日」としては初めてのパターンで、今回はアニメスタイル編集部内のリクエストに応えて原稿を書く。「WEBアニメスタイル」編集デスクの五所君が『オヨネコぶーにゃん』の大ファンであり、取り上げてほしいというのだ。映像ソフト化されていない作品だし、録画したビデオも手元にないのでどうしようかと思ったら、彼が最近CSであった放映を録画しており、それを観せてくれた。四半世紀ぶりの再見だったが、印象は本放映時とほとんど変わらなかった。
 『オヨネコぶーにゃん』は、カテゴリーとしてはファミリー向けのギャグアニメだが、全体に過激であり、ブラックなギャグが多かった。また人間描写がドライで、それもよかった。アニメファンの注目を集めるような作品ではなかったが、僕は友達と「あれって面白いよな」とよく言い合った。「TVアニメ25年史」によれば、放映されたのは1984年4月3日〜10月23日と、1985年3月5日〜3月19日までで全31回。3回分だけ後に放映されたわけだ。原作は市川みさこの「しあわせさん」。アニメ化にあたってタイトルを「オヨネコぶーにゃん」に変更したのだそうだ。監督は笹川ひろし(「TVアニメ25年史」でもWikipediaでも、笹川ひろしの役職は総監督になっているが、今回観たビデオでは監督だった)で、作画監督は鈴木信一。キャラクターデザインはAプロダクション系の血を受け継いだコロコロしたものだった。制作ブロダクションはシンエイ動画。今回観返してみたら、記憶していたよりも各話の作画がよかった。特にじゃんぐるじむ担当回が目立っている。
 とある家庭に、オヨヨ(=ぶーにゃん)という猫が居候を始めた事からはじまる騒動を描いた作品だ。ぶーにゃんは、いつも豚に間違えられるような風貌であり、意地汚くて、図々しい。彼のアクの強いキャラクターが、本作最大の魅力だった。ぶーにゃんを演じていたのは神谷明。キン肉マンのギャグ芝居をずっとやっている感じで、その怪演はなかなかのインパクトだった。彼がやっかいになっている、ゆでた家のたまごも気が強く、乱暴なところのある女の子だ。また、シリーズ通じて暴力描写が多く、ぶーにゃんが殴られたり蹴られたりは、毎度の事だった。
 本放映時に一番面白いと思ったのが、11話C「うずらの(秘)アルバム」(脚本/金子裕 演出/前園文夫)だった。うずらというのは、たまごの弟で、まだ幼児だ。彼はぶーにゃんからも、たまごからも散々いじめられている。この話では、うずらが昔の写真が貼られてるアルバムを見て、自分が赤ん坊の頃から、たまごにぞんざいに扱われていた事を知る。池に放り込まれたり、投げられて石段を転げ落ちたり、殺虫剤をかけられたり、動物園のライオンの檻に入れられたり。うずらは、今も自分をいじめ続けているたまごに反旗を翻し、木製バットで彼女の脳天を力まかせに叩くのだった。ギャグアニメだから、バットで叩かれてもタンコブができるくらいですむのだが、それが分かっていても、やはり強烈だった。当時20歳だった僕は、その過激さに笑った。確かこの話は、友達にも大いに受けていた(そういった過激さを笑う事ができたのは、僕達が若かったからだ。今観直すと、笑うより前に「やりすぎだろう!」と思ってしまう)。
 「うずらの(秘)アルバム」が印象的だったのは、作画のいいところがあったからでもある。大塚正実の仕事だと思うが、終盤の追いかけが素晴らしい。魚眼レンズで部屋を撮ったような構図の長回しがあり、キャラクターが画面の端に行くと(魚眼レンズで撮っているように作画しているため)身体がちゃんと歪んで見えるというカットがあり、あんまりにも凝っているので驚いた。大塚正実は、シンエイ動画所属のアニメーターで、現在も『クレヨンしんちゃん』で個性的な仕事をしている。僕が彼の名前を覚えたのが、この「うずらの(秘)アルバム」だった。

第223回へつづく

(09.10.05)