アニメ様365日[小黒祐一郎]

第225回 『BIRTH』

 「第157回 『DALLOS』」でも書いたように、初期のOVAはクリエイターが主体となって立てた企画が多かった。TV作品と違って、OVAは内容についても、スケジュールや予算についても制限が緩い。だったら、クリエイターが本領を発揮した作品が生まれるはずだ。そう思っていたからこそ、僕達はOVAに期待した。金田伊功の『BIRTH』は、そんなOVA初期を代表するタイトルだった。制作スタジオは、カナメプロダクション。監督は貞光紳也。金田伊功の役職は、アニメーション・ディレクターとキャラクターデザインだった。OVAではあるが1984年9月5日のビデオ発売に先駆けて、1984年7月21日に劇場公開されている。
 『BIRTH』はアクアロイドという惑星を舞台にし、ユピテル・ラサ、シュルギ・ナム、バオ・ルザン、ジュノベル・キムという4人のキャラクターが活躍する冒険アクションだ。OVAリリースまでの経緯について確認しておくと、1982年夏に金田伊功が画を描き、脚本家の武上純希が文を書いた絵物語『BIRTH』が、カナメプロダクションから発行されている。その後、徳間書店の「リュウ」と「ザ・モーションコミック」に、マンガ版『BIRTH』を金田自身が連載。そういった動きを受けてのOVA制作だった。当初、このOVAは60分の作品として制作が進められていたが、急遽、劇場公開が決まり、80分に尺を伸ばす事になった。『BIRTH』のDVD解説書(別バージョンのDVDもリリースされているが、2000年にリリースされたバージョンだ。解説書の編集と構成は、僕が担当している)に掲載した長尾聡浩プロデューサーへのインタビューによれぱ、単純に60分の絵コンテに20分の内容を足して、80分に伸ばしたのではなく、伸ばす時に構成をやり直しているらしい。最初の60分版の絵コンテは、1982年に発行された絵物語に近い内容であり、80分に伸ばす段階で金田伊功と貞光紳也のオリジナルに近い内容に変わったのだそうだ。60分版の絵コンテは、完成版よりもストーリーを重視した内容だったのかもしれない。
 当時の金田伊功は、僕達にとっては神様のような存在であり、『BIRTH』は彼がメインに立ったオリジナル作品である。クレジット的には彼が原作を務めているわけではないし、監督をやっているわけでもないが、先に彼が描いたマンガ版が発表されていた事もあり、リリース前からOVA『BIRTH』を「金田伊功のアニメ」と認識していた。
 だから、当然、期待は高かった。そして、リリースされた『BIRTH』を観た。その感想は、正直に言えば「?」だった。金田伊功が亡くなって、まだ2ヶ月半ほどしか経っておらず、ファンの間にはまだ追悼の気分が残っている時に、こんな事は書くのは心苦しいが、嘘を書くのも、彼と作品に対して誠実ではないだろう。『BIRTH』はどこを面白がればいいのか、よく分からない作品だった。熱心な金田ファンの中でも『BIRTH』を全肯定できる人は多くないはずだ。
 全編アクションといってもよい内容で、金田伊功以外にも、彼の流れを汲むアクションアニメーターが大挙して参加。実によく動いている。前述の長尾プロデューサーのインタビューによれば、作画枚数は80分で「5万枚近くいったんじゃないかな」との事である。ではあるが、ドラマらしいドラマはなく、設定もよくわからず、ラストシーンに至ってはまるで意味が分からなかった。今観返すと、音楽が平板であるのも辛い。曲自体も大人しいし、つけ方もアクションもの的なつけ方ではない。たとえ映像が全く同じでも、アクションものらしい派手な曲がついていれば、ずっと楽しめる作品になったはずだ。
 リリース当時、僕は当惑した。他のファンも同様の想いだったはずだ。当惑したのは、単に話が分からないからではなく、自分達が憧れていたクリエイターが、あまり制約のない環境で作ったはずのオリジナル作品が、楽しめない作品だったからだ。もっと言えば「金田作画が沢山観られれば、それだけで楽しいはずだ」と信じていたのに、金田作画や金田系作画が山盛りだった『BIRTH』は楽しくなかった。いったい、これはどういうわけだ! と思ったわけだ。
 この話はもう少しだけ続く。

第226回へつづく

BIRTH

カラー/80分/片面2層/スタンダード 4:3
価格/6300円(税込)
発売・販売元/ビクターエンタテインメント
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(09.10.08)