アニメ様365日[小黒祐一郎]

第248回 『魔法のスター マジカルエミ』26話

 26話「枯葉のシャワー」(脚本/園田英樹、絵コンテ・演出/高山文彦、作画監督/洞沢由美子)は、『マジカルエミ』の中でも異色作なのかもしれない。季節は秋。将はボクシングの試合を控えて、焦っていた。試合の相手が強敵なのだ。ロードワーク中の彼を、銀杏の木の下で見つめる女性がいた。その女性が気になったのか、深夜、将は銀杏の木がある公園に行く。そこで彼女と出会って、言葉を交わす。彼女はずっと将がトレーニングしている様子を見ていたと語り、今の将が、ボクシングを楽しんでおらず、追い立てられるようにトレーニングをしていると指摘する。そして、将は彼女をボクシングの試合に誘う。
 クライマックスの構成は複雑だ。いよいよ将とライバルとの試合が始まろうとしていた。その頃、舞をはじめとするマジカラットの面々は番組出演のために、TV局に来ていた。そして、将が出会った女性は、銀杏の木の下に立っていた。銀杏の木は、ほとんど葉が落ちており、彼女は辛そうにしている。試合開始のゴングが鳴ると同時に、銀杏の木から最後の葉が落ちる。それを見上げる女性。試合がはじまり、将は一方的にパンチを受ける。TV局ではエミが歌い始める。最後の葉は風に乗って、宙を舞う。試合の場面、公園の銀杏の木の映像に、エミの歌がかぶる。公園から女性は姿を消し、試合中が行われている会場に姿を現す。葉は舞い続ける。そして、女性はダウン寸前の将と、目と目で会話をする(テレパシーのように、心と心で会話しているようにも見える)。彼女が伝えたのは別れの言葉だった。将がダウンしたその瞬間に、公園では葉が地上に落ち、エミの歌も終わる。風が吹いて、地面に落ちていた沢山の銀杏の葉が宙を舞う。枯葉のシャワーだ。
 インパクトのあるクライマックスだった。詩的なエピソードどころか、詩そのものだ。将の試合、落ちる枯葉、エミの歌がリンクしている事に意味を見出そうと思えば、見出せるかもしれないが、それは野暮というものだろう。場面と感情と歌が交錯している感覚が心地よい。1枚の枯葉が宙を舞って、地上に落ちるまで。そんな短い間に、将は試合に負け、謎めいた女性と気持ちを交わした。そんな詩だ。
 言葉では説明されていないが、女性は銀杏の精だったようだ。彼女は、来年の春にまた会えるだろうと、将に告げている。エピローグ部分で、そんな事情を知らないはずの舞が、葉が落ちた銀杏の木を見て「この木、嫌い。なんとなく」と言う。女の直感で、将と銀杏の精の関係を感じとったのだろう。女の怖さがチラと見える描写で、それもよかった。
 この話で印象的だったのは、クライマックスだけではない。冒頭では、将がボクシングの試合で負ける夢をを見る。リングの周りは暗く、銀杏の木が何本も立っており、葉が舞い落ちている。そのイメージも鮮烈だった。中盤では、将が銀杏の木の下にいた女性が気になっている事を表現するために、銀杏の葉のカットがインサートされる。それも切れ味のいい映像になっていた。後に安濃高志監督が手がける『THE八犬伝』にも、似た感覚のインサートがあったはずだ。
 たわいもない会話や、日常的な描写も『マジカルエミ』の魅力のひとつだ。この話だとBパート頭の舞と弟がトランプをやっている場面。それから、小金井が買ってきたケーキを皆が食べる場面。後者では、小金井がチーズケーキが嫌いだというところから始まり、国分寺が焼いたチーズケーキの話題をふり、しばらくチーズケーキの話が続く。将が試合を前にして焦っているのに、一方で、舞達が呑気にトランプで遊んだり、チーズケーキ談義に花を咲かせてたりしてるのが、妙にいい味になっている。
 「枯葉のシャワー」は『マジカルエミ』の中でも、特に演出的に突出したエピソードだ。本放映時には、僕達にとって刺激的なエピソードだった。今観返すと、勢いで作っているのが分かり、若描きの作品と感じるのだけれど、若描きである事も悪くない。
 前回と今回はファンタジー寄りのエピソードを紹介したが、やはり『マジカルエミ』の本領は、22話「からっと秋風 心もよう」(脚本/平野美枝、絵コンテ・演出/本郷満、作画監督/福島喜晴)のような、キャラクターの心情に突っ込んでいった話だ。それについては次回触れたい。

第249回へつづく

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(09.11.12)