アニメ様365日[小黒祐一郎]

第250回 『魔法のスター マジカルエミ』27話

 国分寺は、ジャンパンテレビの小金井プロデューサーの部下で、調子のいい若い男だ。小金井と一緒にマジカラットの相手をしている。国分寺を演じているのは千葉繁で、彼の弾んだ芝居のおかげで、より味のあるキャラクターになっている。例によって、アドリブも多かったのだろう。
 27話「国分寺さん 殺人事件」(脚本/柚木圭、絵コンテ・演出/立場良、作画監督/高岡希一)は、そんな国分寺にスポットを当てたエピソードだ。足を捻挫して入院していた舞の祖父が、病院の向かいにあるマンションの窓辺で、争っている2人の人影を目撃する。翌日、そのマンションの問題の部屋に、国分寺が住んでいる事が判明。国分寺が誰かを殺したと思い込んだ祖父は、舞にその事件を調べさせる。確かに国分寺は様子がおかしいし、彼の周囲に、とても堅気には見えない強面の男が出没している。エミの姿になって、ユキ子に話を聞いたところ、彼女が問題の夜に、国分寺のマンションに行っていた事が分かる。そして、ユキ子は「国分寺さんが、あんな事をするなんて……」と言うのだった。その夜、国分寺がユキ子を自分のマンションに連れ込んだ事を知ったマジカラットの面々は、国分寺が事件の目撃者であるユキ子を消そうとしていると思い、彼のマンションに急行。と、物語はサスペンスタッチに進む。
 以上は、舞達の視点から見たこのエピソードのアウトラインだ。国分寺とユキ子の視点によるドラマについては、全てが描写されているわけではないが、省略された部分を補足すると以下のようになる。要するに、国分寺はユキ子に気があり、自分の家に招いて酒を呑ませて、モノにしようとしたのだ。国分寺は、ほしいものがあったらクリスマスに買ってやると言って気を引いて、その後で、力ずくでモノにしようとした。しかし、ユキ子の反撃にあってもみ合いになってしまった(当然、力ずくでモノにしようとしたあたりは描写されていない。ただ、前後の流れから考えると、間違いないだろう)。舞の祖父が目撃したのはその様子であり、ユキ子の言った「国分寺さんが、あんな事をするなんて……」の「あんな事」とは殺人ではなく、自分を無理にモノにしようとした事だった。
 その一件の後、ユキ子はしばらく国分寺の事を怒っていたのだが、国分寺が誠意を見せて謝った事で和解。その夜、おそらくはお詫びの名目で、国分寺は、再びユキ子を自分のマンションに招く。国分寺とユキ子は前回と全く同じやりとりを繰り返し、酒が入ったところで、国分寺はまたもや力ずくでユキ子をものにしようとした。そこに前述したように、殺人事件だと勘違いした舞達が突入してくる。舞達が見たのは、ユキ子に胸ぐらをつかまれて、スリッパで殴られようとしている国分寺の姿だった。その直後に、強面の男がマンションの管理人だった事が判明。真相を知ったマジカラットの面々が大笑いしたところで、このエピソードは幕を下ろす。
 この話は、本当に面白かった。淡々と生活感のある話をやってきたシリーズで、知人が殺人をしたのではないかと疑う話をやるのが、まず面白い。視聴者はストーリーの流れで、舞の祖父が目撃したのが国分寺とユキ子であり、殺人を犯していないであろう事は分かっているのだが、それでも、サスペンスものとしての盛り上げ方が巧いので、クライマックスまでくると、ひょっとして本当に国分寺が悪事を働いているのかと思ってしまう。
 それから、この話はなによりも大人の話だった。そういうところに突っ込んでいるという点において、『マジカルエミ』の中でも異色作だった。本放映時には、魔法少女ものでこんな話をやった事に驚いた。「これはもう魔法少女ものではないなあ」と感じたはずだ。おそらく、作り手は自分達の生活感に近いところで、このエピソードを作ったのだろうと思う。
 最初に、国分寺がユキ子をマンションに招く時に「友達も来るから、一緒に呑もう」と、見え見えの嘘をついているところとか、話しながらユキ子に擦り寄って、膝に手を乗せるところとか、いかにも、がっつている感じでおかしい。
 エミが話を聞いた場面で、ユキ子は「男だから仕方ないと思うけど……」というセリフも口にしている。これも笑っちゃうくらい大人な発言だ。その後の和解に至るまでの駆け引きも、いかにも大人。2度めにユキ子をマンションに招いた時に、前に失敗しているのに、同じ段取りでユキ子をものにしようとする国分寺もバカなら、同じ段取りで何か買ってあげようかと言われて、喜んでしまうユキ子もバカだ。バカだと思ったけれど、同時にリアルだとも思った。
 今観ても、このエピソードはよくできている。普通の男女がやりそうな、色恋が絡んだバカな騒動を面白く描いている。生々しいところに突っ込んでいるけれど、マンガっぽい感じも捨てていないところがいい。絶妙のバランスだ。こんなバランスのアニメは、他にはないかもしれない。

第251回へつづく

魔法のスター マジカルエミ
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(09.11.16)