アニメ様365日[小黒祐一郎]

第251回 『魔法のスター マジカルエミ』34話

 34話「愛と哀しみの カリントウ」(脚本/平野美枝、絵コンテ/鴫野彰、演出/高山文彦、作画監督/垣野内成美)では、前回取り上げた「国分寺さん 殺人事件」と同様に、ジャンパンテレビの国分寺がメインとなる。国分寺には、お菓子のカリントウが大嫌いという設定があり、それを膨らませたエピソードだ。
 ある朝、国分寺は二日酔いだった。呑みすぎたせいか、昨夜の事がよく思い出せない。冷蔵庫をあけると、なぜか中にはカリントウが一杯。コーヒーを淹れようとして、缶をあけると、なぜかその中にもカリントウが詰まっていた。カリントウ嫌いの彼は絶叫する。会社に行くと周りの様子がおかしい。自分の机の引き出しをあけると、またまたカリントウで一杯。カリントウの着ぐるみを着た男まで現れる。憤った国分寺がマジカラットの楽屋に駆け込むと、小金井やマジカラットの面々が、それぞれカリントウを手にして国分寺に迫るのだった。ここまでがAパート。
 Bパート頭で真相が分かる。国分寺が書いた2時間ドラマ「お父さん焼き芋」の企画書が通ったのだが、スポンサーについたのが製菓メーカーだった。製菓メーカーは、タイトルの焼き芋をカリントウに変えてくれと言ってきた。スポンサーの前でカリントウが嫌いとは言えないと思った彼は、カリントウ嫌いを克服する事を決意した。昨夜、呑んだ時にそれを宣言し、皆もそれに協力すると約束したのだろう。マンションの冷蔵庫やコーヒーの缶に詰め込まれていたカリントウは、マジカラット若手3人組が深夜の街を走り回って買ってきたものだった。本人はすっかり忘れていたが、一連の騒動は、国分寺自身の計画だったわけだ。
 その後、エミのマジックショーをはさんで、国分寺がカリントウを克服するまでの様子が描かれる。目をそらさずにカリントウを見ながら「カリントウ」と言うのが第1段階。カリントウに頬ずりをするのが第2段階。カリントウを食べるのが第3段階。作劇は悪ノリ気味で、千葉繁の芝居はノリノリだ。第2段階において、みんなが嫌がる国分寺を取り押さえて、力ずくで皿に盛られたカリントウに国分寺の顔を接触させようとする。そこで精神的に追いつめられた国分寺が、どういうわけか、今後の人生設計を長ゼリフで語り出す。カリントウに顔を突っ込んだ後は、あまりのショックにおかしくなって歌って踊る。「♪からしキューリが食べと〜ま」というわけのわからない歌が印象的だ。第3段階でついにカリントウを食べた後にも、国分寺は、長ゼリフのナレーションでその感動を語るのだった(ただし、『うる星やつら』のメガネの長ゼリフほどは長くない)。
 「愛と哀しみの カリントウ」は、サブキャラクターの1人がカリントウが嫌いというネタだけで、1本のエピソードを作ってしまった事が、まず痛快だった。スタッフがノリにノっているのも観ていて分かった。身の回りに次々とカリントウが現れる事件も、他のアニメやドラマで見た事ないようなアイデアであり、面白かった。奇妙な事件であるだけでなく、その事件のスケールがやたらと小さいところが、地に足が着いたドラマをやってきた『マジカルエミ』らしい。Bパートのカリントウを克服するまでの展開は、いい年をした大人がバカな事をマジメにやっているところがおかしい。やっている事はくだらないのだが、演出はマジメだ。BGMもシリアスな調子でつけられている。
 異能声優・千葉繁の個性があったからこそ、成立したエピソードでもある。国分寺は脇役ではあるが、千葉繁の熱演と怪演でキャラクターが膨らんでいた。観ている側としても、どこかで国分寺が活躍する話を期待していたかもしれない。
 また、派手な場面ではないが、前半でマジカラットの若手3人組が、二日酔いで朝を迎えた描写がある。ユキ子は4時間しか寝てないといいながら、将達の朝食の片づけをし、進は酒が残っていて食事をとれず、たっぷりレモンを絞ってトマトジュースに入れる。大食漢の明は、二日酔いの時は脂っこいものが食べたくなると言って、大量の中華料理の出前を頼もうとする。個々の人物描写が味のあるものになっているし、それ以前に子供向けのアニメで、レギュラーキャラの二日酔いの様子を丁寧に見せていくのが斬新だった。
 本放映当時、僕は『マジカルエミ』というシリーズが、こういったエピソードで従来の魔法少女ものの枠から逸脱していくのを楽しんでいた。「ここまでやっちゃったか」なんて思いながら観ていた。「愛と哀しみの カリントウ」はシリーズ終盤のエピソードであり、36話「北風に ひとりぼっち」(脚本/渡辺麻美、絵コンテ・演出/立場良、作画監督/高倉佳彦)から最終回3部作に突入する。それについては次回で。

第252回へつづく

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(09.11.17)