アニメ様365日[小黒祐一郎]

第252回 『魔法のスター マジカルエミ』最終回3部作

 当時のアニメマニアの間で『魔法のスター マジカルエミ』の評価を決定づけたのが、最終回3部作だった。最終回3部作では、舞が自分の意志で、エミに変身できる魔法をトポに返してしまう。この展開には驚いたし、感心した。
 最終回3部作は舞、将、明、ユキ子、進のそれぞれの人生の転機を描いている。22話「からっと秋風 心もよう」がそうだったように、青春群像ものになっていた。36話「北風に ひとりぼっち」(脚本/渡辺麻美、絵コンテ・演出/立場良、作画監督/高倉佳彦)では、また将がライバルとボクシングの試合をする。ライバルはこの試合の後にプロになる予定で、将が彼と試合するのはこれが最後になるかもしれない。しかし、将は手首を痛めたまま試合に出てしまい、敗北。しかし、全力を出して闘った彼を見て、舞は「負けたくせに、いい顔をしてる」と思う。一方、ジャパンテレビの主催で、マジックの祭典「エミリー賞」が開催される。エミリー賞の名前は、伝説のマジシャンであるエミリー・ハウエルから採られている。明、ユキ子、進の3人は、エミと別に「ヤングマジカラット」として、このイベントに出場。最終的にエミがエミリー賞を獲得し、ヤングマジカラットは審査員特別奨励賞を受賞する。大きな賞を獲ったエミよりも、明達の方が嬉しそうだ。
 37話「ためらいの季節」(脚本/小西川博、絵コンテ・演出/望月智充、作画監督/加藤鏡子)では、明達の成長を感じた舞の祖父が、マジカラットの解散を宣言。明、ユキ子、進は、マジックの腕を磨くためにアメリカに行く事になる。舞が、エミとしてマジックを続けていく事に疑問を感じていたところに、国分寺がエミリー・ハウエルの記録フィルムを持ち込む。そして、改めてマジックの勉強を始めた舞は、エミに変身してマジックをやるよりも、たとえ拙くても、舞として努力をしながらマジックを覚えていく事の方がずっと楽しいのに気づいてしまう。舞としてマジックをやるために、彼女はエミに変身する魔法を返そうと思う。
 最終回38話「さよなら 夢色マジシャン」(脚本/渡辺麻美、絵コンテ・演出/安濃高志、作画監督/岸義之)は、舞が魔法を返し、トポと別れるまでの話だ。舞の祖父母が、マジカラットを解散した後に、子供のためにマジックスクールを作る事になった。それを知った進は、アメリカに行かず、マジックスクールを手伝う事を決意。自分にはそちらの方が合っていると思ったのだろう。
 最終回3部作の季節は、冬の終わりだ。36話はバレンタインデーの話でもあったのだが、ズバリ2月14日の放映だった。36話では、舞の祖父母達が暮らす屋敷の庭に、季節外れのスミレが咲いているという描写があり、37話ではそれが一度枯れ、同話のラストではそこから新しい芽が出ている。見たままに解釈すれば、エミリー賞でエミと明達が受賞した36話が、マジカラットの頂点であり、それを象徴するようにスミレの花が咲いた。舞や進が悩んでいる37話では枯れ、新たな一歩を踏み始めたところで芽を出したという事になる(かつて、美しく咲いていたスミレとステージで活躍するエミを、重ねて見せる描写もある)。ただ、そんな分かりやすい解釈よりも、季節の移り変わりがあり、その中で登場人物の内面がゆっくりと変化している事の方が−−キャラクターの感情と季節の変化を重ね合わせる事で、しみじみとしたドラマにしている事の方が重要なのだ。
 派手さを抑えて、日常的な描写を重ねていくスタイルも、この3部作で極まっている。38話の最後のステージの前に、エミが小金井プロデューサー、将に別れを告げる場面、ラストのトポとの別れは、さすがにドラマチックに見せているが、それ以外は淡々とした描写が続く。これまでのエピソードよりも、更に淡々としているくらいだ。では、つまらないかと言うと、これが面白い。それはドラマがしっかりしており、そういった演出で、キャラクターの感情が充分に表現されているからだ。この3部作はドラマ的にもクライマックスであり、同時に『マジカルエミ』の演出の完成点でもあった。
 最終回3部作が傑作であったのは、作り手が伝えようとした事が、視聴者にとって共感できる事であり、それがきっちりと伝わるように作られていたからだ。説教くさくはせずに、伝えたい事を無理に押しつけもせず、しかし、説得力をもったドラマにしている。伝えたい事というのが何かと言えば、人はそれぞれ自分の人生を歩んでいく。人生にとって大切な事は、自分で決めるべきだ。自分の目標があるなら、それに向かって努力しなくてはいけない。そうやって自分の人生をマジメに生きている人達は、見ていて気持ちがいい。あえて言葉にするならば、そういう事だろう。
 だから、マジシャンになりたい舞は、魔法に頼っていてはいけないし、進はアメリカに渡るという華やいだ道を選ばずに日本に残る。舞の母親もかつてはマジシャンであり、結婚を機にマジックを捨てたという過去がある。38話で、あなたにマジックをやめさせられたのではなくて、あなたのために捨てたのよ、と舞の父親に言う場面があるのだが、これも意外と大切な台詞かもしれない。
 ちょっと長くなりすぎた。こんなところで引っ張ってしまって申しわけないが、最終回3部作のキーとなったエミリー・ハウエルの正体については次回で。

第253回へつづく

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(09.11.18)