第266回 『ゲゲゲの鬼太郎』(第3期)
水木しげるの代表作『ゲゲゲの鬼太郎』は、たびたび映像化されている人気タイトルだ。初のTVアニメ化が1968年、2度目のアニメ化が1971年だった。今回とりあげるのは、1985年に放映が始まった第3シリーズだ。アニメーション制作は、他の全ての『鬼太郎』と同じく東映動画(現・東映アニメーション)。キャラクターデザインを兼森義則、シリーズディレクターを葛西治、芝田浩樹が担当している。放映されたのは1985年10月12日から1988年2月6日。第3シリーズ放映直後に、同じスタッフによる全7回の番外シリーズ『ゲゲゲの鬼太郎 地獄編』も放映されている。
目玉おやじの田の中勇以外のキャストは一新され、鬼太郎は戸田恵子に、ねずみ男は富山敬となった。以降もアニメ『鬼太郎』は、田の中勇だけが固定で、鬼太郎役とねずみ男役はキャストを変更していく事になる。戸田恵子も富山敬も、第1シリーズと第2シリーズの野沢雅子と大塚周夫とはまるで声質が違ったが、放映が始まってすぐに慣れた。不思議な事に、第4シリーズ以降も鬼太郎とねずみ男の声に関しては、ほとんど違和感を感じなかった。それだけ『鬼太郎』という作品の懐が広いという事なのかもしれない。ただ、目玉おやじだけは、もしも、役者が変わってしまったら、激しく違和感を感じてしまうような気がする。
放映局はフジテレビだった。ライトなノリだからといって、なんでもかんでもフジテレビのせいにするのもどうかと思うが、やはり、この頃のフジテレビのカラーが強いシリーズだった。要するに「フジテレビアニメ」というジャンルがあり、そのひとつだったという印象だ。
『鬼太郎』第3シリーズ(以下、『鬼太郎3期』と記す)は、基本的には明朗なヒーローアクションものだった。細かく原作と照らし合わせた事はないが、第1シリーズから第5シリーズまでの中で、原作から一番離れたシリーズだったはずだ。人間の少女であるユメコがヒロインになったのも大きい。ユメコは小学生なのだが、ねずみ男が彼女に惚れているというとんでもない設定になっていた。今観ると、驚くような事ではないのだけれど、アイキャッチとエンディングに、頭身の低いデフォルメキャラを使っていた。番組が始まった頃は「え〜、『鬼太郎』でデフォルメキャラ〜!?」と思った。作り手が怪奇色を薄くし、視聴者にとって口当たりのよいシリーズにしようとしてるのは、はっきりしていた。
……と書くと、まるで僕が『鬼太郎3期』に対して、否定的な立場をとっているみたいだけれど、そんな事はない。原作から遠のいたのは少し寂しかったけれど、同時に「なるほど、『鬼太郎』を現代的に作るとこうなるのか」と感じていたし、アクションヒーローものとして『鬼太郎』を楽しんでいた。『鬼太郎』放映中に、僕は「アニメージュ」で仕事をするようになり、「TVアニメーションワールド」というページで、データ原口さん達と一緒に放映中の番組を取り上げる記事をやっていた。その「TVアニメーションワールド」で、僕も原口さんも積極的に『鬼太郎3期』を取り上げた(『エスパー魔美』『きまぐれオレンジ☆ロード』もよく取り上げていた)。
僕が『鬼太郎3期』に惹かれたのは、主には作画の部分だった。『鬼太郎3期』は作画的に面白いシリーズだった。特に序盤が凄かった。2話「鏡じじい」は、スタジオジャイアンツの原画マンが集結した豪華な仕上がり。特に冒頭の日常芝居がいい。クレジットされていないが、摩砂雪、鈴木俊二もやっているはずだ。3話「ネコ仙人」は上妻晋作のトリッキーな作画が大炸裂。4話「妖怪 ぬらりひょん」はスタジオジュニオ担当回で、井上俊之が参加。冒頭のディスコシーンが凄まじく巧い。「巧いっていうのはこういう事だぜ」と人に言いたくなるくらい巧い。『鬼太郎3期』の序盤は、最近の言葉で言うと、相当な作画アニメだった。
放映が進んでからも、各話作画スタッフの個性が発揮されており、チェックするのが楽しかった。シリーズ通じて見応えがあったのが、入好さとる・新岡浩美コンビと、キャラデザインの兼森義則が所属していたスタジオバード担当回だった。入好さとる・新岡浩美コンビは、画が洗練されており、アクションにもケレンがあった。コッテリした感じも『鬼太郎』に合っていた。僕は「TVアニメーションワールド」で新岡さんに取材したし、別の号でイラストも描いてもらった。
スタジオバードは、動きよりもポーズやフォルムで勝負する感じだったが、やはり巧かったし、味わい深い画を描いていた。途中から作画監督となる稲野義信の代表作のひとつだと思う。スタジオバードは、『鬼太郎3期』の前には、『ストップ!!ひぱりくん!』『夢戦士ウイングマン』と、同チームの作風に合っているとは思えない作品が続いていた。それに対して『鬼太郎』は、彼らの個性が活かせるタイトルだった。
それから、作画で忘れていけないのが、磯光雄の登場だった。後に『MOBILE SUIT GUNDAM 0080 ポケットの中の戦争』等でアニメーターとして注目を集め、『電脳コイル』を監督する彼が、若手原画マンとして『鬼太郎3期』に参加。この時、すでに目立った仕事をしていた。原口さんが「TVアニメーションワールド」で、102話「おてんば魔女ジニヤー」のフィルムストーリーをやった際に、短いネームの中で、わざわざ「とくに若手原画マンの磯光雄さんが担当した後半の鬼太郎のきめポーズは最高!」と触れたくらいだった(写真のキャプションでも「この一連のシーンは磯光雄さんが原画を担当」と書いている)。
第267回へつづく
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(09.12.09)