アニメ様365日[小黒祐一郎]

第287回 藤子アニメが充実していた

 1985年は、藤子アニメが非常に充実していた。テレビ朝日&シンエイ動画による藤子アニメの黄金期だと思う。前回触れたように『ドラえもん』では、原恵一が傑作を次々に発表していた。4月には『プロゴルファー猿』『パーマン』『忍者ハットリくん』の3本で構成された1時間番組「藤子不二雄ワイド」がスタート。夕方の帯枠では『オバケのQ太郎』が始まった。つまり、放映されている藤子アニメのタイトル数も多かった。
 『パーマン』と『忍者ハットリくん』は、「藤子不二雄ワイド」が始まる前から放映されていた。僕は不勉強な事に『パーマン』はあまり観ていなかった。あまり観ていなかったのは、夕方の帯枠での放映だったためだ。他の番組の録画予約と重複してしまうため、録画がしづらかった(ビデオテープで録画していた時代だ。テープごとに作品をまとめていたので、夕方の帯枠の留守録をしかけると、19時台の番組が始まるまでに帰宅して、テープチェンジしなくてはならなかった)。たまたま早く帰った日に放映を観たら、その回がやたらと面白かった。確か須永司の演出回で、ラブコメチックな話だった。「『パーマン』面白いじゃん! やばい、チェックしなくては!」と思って、帯枠時代の途中から頑張って録るようになった。
 『プロゴルファー猿』は「藤子不二雄ワイド」スタートと同時に始まったタイトルだ。天才ゴルフ少年の猿谷猿丸の活躍を描いたゴルフアニメである。原作でも奇抜なゴルフ技や、奇怪なゴルファーが登場するが、アニメではそれに派手な演出が加わり、やたらとパワフルな作品になった。全話の作画監督を務めた本橋秀之のシャープな画もよかった。
 シリーズ前半は、今川泰宏の演出回がずば抜けて面白かった。最初に今川演出回に注目したのが「氷の上の対決」だった。本放映で一度観たきりなので、どう面白かったのかをよく覚えていないが、その出来に驚いたのは覚えている。その後も、今川泰宏は力作を連発した。実際にどうだったのかは分からないが、ケレンミたっぶりの今川演出が他のスタッフを引っ張っていき、その結果、シリーズ全体のテンションが上がっていったのだろうと僕は思っている。藤子アニメは長寿作品が多いが、『プロゴルファー猿』も、丸3年を越えるシリーズとなった。僕は最後まで楽しく観た。いまだにTVシリーズが映像ソフト化されていないのが残念でならない。
 劇場作品だと、この年には『ドラえもん のび太の宇宙小戦争』と『忍者ハットリくん+パーマン 忍者怪獣ジッポウVSミラクル卵』が公開されている。『のび太の宇宙小戦争』は劇場版『ドラえもん』の第6作で、舞台を宇宙にしたSFアクション編。それまでの劇場版『ドラえもん』よりもスケールアップした印象の作品だった。『忍者怪獣ジッポウVSミラクル卵』は、ハットリくんとパーマンが競演する映画の第2弾だ。ヒーローものとして見せ方が巧みで、見応えがあった。
 恒例になる「大人だけのドラえもんオールナイト」が始まるのが、この年だ。前にも少し触れたけれど、僕は最初の年と翌年に、このイベントに参加している。劇場の客席には、若手アニメ演出家やアニメ雑誌ライターの顔もあった。濃い空間だった。当時は今ほど、大人が藤子作品を読んだり、観たりするのが一般的でなかったと記憶している。当然、あんなに大勢の藤子ファンを見たのも初めてだった。大勢の大人の藤子ファンと一緒に、新作を観るというチュエーションにもワクワクした。
 TVシリーズも、劇場作品も充実していた。イベントも楽しかった。あの頃、僕は藤子アニメの楽しさにどっぷりと浸かっていた。

第288回へつづく

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(10.01.18)