アニメ様365日[小黒祐一郎]

第288回 『は〜い ステップジュン』

 『とんがり帽子のメモル』から現在の『プリキュア』シリーズに至るまでの四半世紀の間、同枠で放映された東映アニメーション(東映動画)の作品で、唯一、映像ソフトがリリースされていないのが、『は〜い ステップジュン』だ。振り返られる機会が非常に少ない作品であるはずだ。放映開始は1985年3月10日。『メモル』の後番組である。
 僕は本放映時に、この作品に結構入れ込んでいたのだが、本放映以来観返す機会がない。全話をVHS標準で録画してあるのだが、引っ越しの時に、他のビデオと一緒に段ボール箱に突っ込んだままだ。段ボール箱は数十個あって、とても探し出せそうもない(どうにかしろよと言われそうだが、僕もどうにかしたいと思っている)。当時、この作品の同人誌を作って、スタッフインタビューや各話解説までやっているのだが、その同人誌も見つからない。そんなわけで、今回は記憶モードで書く。間違いがあったら、すいません。
 『ステップジュン』は魔法少女ものの変形だった。主人公の野々宮ジュンは中学生だが、小学生にしか見えないおチビさん。そして、メカ大好きの天才少女だ。いつも騒動を起こすロボットの吉之介も、彼女の発明のひとつだ。ジュンは、バイク好きの加納零(ゼロ)に憧れているが、零と背が低い彼女は釣り合いがとれそうもない。しかも、零には洋子というフィアンセがいた……。魔法少女ものの「魔法」を「発明」に代えた感じのラブコメディだった。人物配置は『魔法使いサリー』を意識したのだろう。『サリー』で弟分のカブにあたるのが吉之介、ポロンにあたるのが、吉之介の妹の雪之嬢。ジュンには友達が2人いて、その1人には双子の弟がいた。『サリー』におけるトン吉、チン平、カン太にあたる存在だ。
 原作は大島やすいちの「リトル・ジュン」だ。大島やすいちはアニメ化に合わせて「は〜い ステップジュン」というタイトルの作品も描いているようだ。原作については記憶が曖昧で、「リトル・ジュン」と大島版「は〜い ステップジュン」が繋がっていたのかは覚えていない。「リトル・ジュン」のジュンの髪型も、吉之介の外見も、アニメ版とはまるで違っていたはずだ。
 スタッフ的には『メモル』メンバーの多くが移行。シリーズディレクターは設楽博。『メモル』で活躍していた若手の佐藤順一が、早くもシリーズディレクター補に昇格。キャラクターデザインは小松原一男だ。全45話。前述のようなラブコメディとして話が進んだが、第2クールの最後にとんでもない事件が起きた。ジュンが憧れていた零が、突然、英国に転校してしまったのだ。その代わりにジュンが好きになる男性が出てくるわけでもなく、第3クール移行はジュンをはじめとするキャラクター達の活躍を描く日常コメディとなった。ラブコメの「ラブ」がなくなってしまったわけだ。この大胆な路線変更の理由について、公式にアナウンスされた事はないはずだ。きっと視聴率や玩具の売り上げに関連した大人の事情があったのだろう。もちろん、僕は「えー、なんで〜」と思った。前作『メモル』に続く、2年連続の路線変更だった。
 僕が同人誌を作るくらいにこのシリーズに思い入れしていたのは、各話スタッフが個性的な仕事をしていたからだ。作画監督は小松原一男、姫野美智、青山充、只野和子、後藤隆幸といった顔ぶれ。小松原一男作監回は、作りが丁寧だったし、線に色気があった。只野和子は参加話数は少ないが、楽しいフィルムに仕上げていた印象だ。後藤隆幸は『ドテラマン』でブレイクする前だったが、目がキラキラした可愛いジュンを描いていた。後にOVA『デビルマン』で作画監督を務める安藤正浩が、このシリーズのラス前で作監デビュー。各話の原画でも、彼の巧さは際立っていた。
 演出では、やはり佐藤順一と貝沢幸男の担当回が面白かった。佐藤順一担当回は、7話「吉之介がんばる」、32話「ヘーハチローの恋」等、コメディ色の強い話が多かった。「ヘーハチローの恋」はジュンの担当教師である平八郎が、保健医の女性に片想いする話。その保健医は、前の話数で佐藤順一が絵コンテのアドリブで出したキャラクターだったはずだ。貝沢幸男は、怪談風の25話「お化けでドッキリ」、学芸会のエピソードで、洋子のキャラクターを掘り下げた35話「雪之嬢とかぐや姫」といったドラマ性の強い秀作を残した。
 『ステップジュン』は決して傑作ではない。観直したなら、迷走したシリーズという事になるのかもしれない。おチビなジュンの、小柄であるがゆえの魅力も描いてないのを、本放映中も残念に感じていた。ではあるけれど、各話単位で観ると随所にいいところがあり、それが愛おしかった。

第289回へつづく

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(10.01.19)