第307回 『DRAGON BALL』27話、28話
今回と次回は『DRAGON BALL』の印象的なエピソードについて書く。僕がアニメの『DRAGON BALL』で、最初に感銘を受けたのが、最初の天下一武道会(第21回)の決勝戦だった。具体的に言うと、27話「悟空・最大のピンチ」(脚本/平野靖士、作画監督/内山まさゆき、演出/竹之内和久)、28話「激突!!パワー対パワー」(脚本/島田満、作画監督/青嶋克己、演出/西尾大介)の2本。もっと具体的に言うと、27話についた28話の予告と、28話だった。
決勝で戦ったのは、主人公の孫悟空とジャッキー・チュン。ジャッキーの正体は、悟空の師匠である亀仙人であり、彼は修行で強くなった悟空とクリリンが慢心しないよう、正体を偽って天下一武道会に参加したのだ。悟空とジャッキーは実力伯仲。ジャッキーは決着をつけるために、萬國驚天掌という大技を使うが、その技をかけられている最中に月を見てしまった悟空は、巨大な猿に変身(ほとんどの読者は知っていると思うが、初期の悟空は、月を見ると巨大猿に変身してしまう)。巨大猿になった悟空は暴れ出し、その事態を収拾させるため、ジャッキーは最大出力のかめはめ波を放つのだった……というところまでが27話の内容だ。ちなみに「萬國驚天掌」のネーミングは、昭和40年代に放映されていたバラエティ番組「万国びっくりショー」から。『DRAGON BALL』の頃でも相当古いネタであり、原作でその技が出た時に、あまりの古さに笑った。
28話で、ジャッキーは、かめはめ波で悟空を倒したのではなく、悟空の変身を解くために月を吹き飛ばした事が分かるのだが、27話は、悟空は死んでしまったのか? というところで終わっている。そして、その27話のエンディング後についた予告が素晴らしかった。予告は以下のセリフで構成されていた。
ブルマ「わーん、孫君がバラバラになっちゃった! ひどい! あんまりよ!」
ジャッキー(亀仙人)「うん。悟空、よお戦った。ワシがこれほどまで真剣になったのも久々の事……」
悟空「次回『DRAGON BALL』「激突!!パワー対パワー」!」
ジャッキー「(呆れて)ああ? ま、まだやるのか、悟空?」
悟空「当たり前だい! みんな、絶対観てくれよ! 負けてたまるかぁい!」
何が凄いって、本編が悟空が死んだかもしれないというところで終わっているのに、予告で悟空が生きていて、まだまだやる気満々だという事をバラしている。予告で次回のAパートの内容を消化している感じだった。予告で、トントントンと話が進んでいく感じが快感だった。また、本編が重たい感じで終わったのに対して、その緊張感を解いて、開放感を与えてくれる予告でもあった。わずかなやりとりで、キャラクターの感情や魅力を充分に表現しているのもいい。もっと細かい事を言うと、ブルマのセリフのところで、映像の口パクを合わせているために、一層劇的な予告になっていた。
僕は原作を読んでいたので、悟空が生きているのは知っていたけれど、それでも、この予告には驚いた。感動もした。アニメスタッフのイケイケ感が表現されているようで、それも心地よかった。
その予告を受けた28話も、充実した仕上がりだった。決勝戦を再開したものの、すでに悟空もジャッキーも、かめはめ波のような大技を使う体力は残ってない。最後は力の力のぶつかりあいだ。Bパート頭、ジャッキーと悟空が拳の応酬を始めたところで、天下一武道会の主題歌ともいうべき挿入歌「めざせ 天下一」がはじまる。『DRAGON BALL』は挿入歌の多い番組だったが、中でも「めざせ 天下一」は傑作だった。シリーズ中で何度か使われていたが、この場面が一番ハマっていたと記憶している。
この場面は、演出と作画もいい。ジャッキーと悟空が拳を交えながら少しずつ移動していく様子を、武舞台を背景動画で動かす事で表現している。ネチっこく動かしており、臨場感ある描写になっていた。この回は、作画監督の青嶋克己が、原画も1人で担当している(彼は『DRAGON BALL』の他のエピソードでも、1人で作監と原画を担当し、見応えのある仕事を残している)。最愛の最後では、悟空もジャッキーもダウンしてしまう。先に立ち上がって、ジャッキーが「優勝したもんねー」と勝利宣言したため、彼が優勝するのだが(そういうルールだったのだ)、その勝利宣言の観せ方が秀逸。切れ味のいい演出だった。
第308回へつづく
(10.02.16)