第308回 『DRAGON BALL』97話、139話
『DRAGON BALL』で、作画で一番感銘を受けた回が、97話「決勝!! はたして 武道天下一は!?」(脚本/照井啓司、作画監督/前田実、演出/岡崎稔)だった。2度目の天下一武道会(第22回)決勝戦がはじまるエピソードで、対戦するのは悟空と天津飯。この頃の天津飯は、まだ悪役だ。Bパート途中から試合が始まり、まずは拳と蹴りの応酬。空中に跳んだ天津飯は、悟空にどどん波を放つ。悟空は猛スピードで移動して姿を消すが、天津飯はその動きを捉えて、マシンガンを撃つような勢いで、悟空に激しい突きを入れる。その攻撃を受けて悟空が気絶し、天津飯が勝ち誇るまでが、97話だ。
悟空が、天津飯に向かって猛スピードで走り出したあたりから、グンと作画がよくなる。何が起きたのかと思ったくらい作画のトーンが変わった。スピードも迫力も倍増。臨場感も素晴らしい。天津飯が目を動かすだけのカットですらかっこいい。天津飯のマシンガン攻撃の部分は、単に突きを入れているだけなのに、攻撃の激しさが感じられ、興奮した。このパートは空間の捉え方もリアルで、カットの構成も凝っていた。悟空は姿を消す直前に、画面左に跳ぶのだが、そこで一瞬だけ悟空がフレームアウトし、カメラが動いてまたフレーム入るという表現になっている。これは、あまりに悟空の動きが速いので、カメラが彼の動きを追い切れなかったという想定のカットなのだろう。そういった凝った部分があるのもよかった。
このパートの作画を担当したのは、東映動画(現・東映アニメーション)の若手アニメーターだった中鶴勝祥。彼は後に「DRAGON BALL」シリーズの主力アニメーターとなり、『DRAGON BALL Z』の途中からキャラクターデザインを務める。彼の仕事に感動した僕は、アニメージュの「TVアニメーションワールド」で、彼を取り上げ、97話の原画も掲載した(1988年5月号 vol.119 「THE原画ファイル」というコーナーだ)。
97話についで、作画関連で気に入っているのが、139話「激闘ふたたび! 悟空vs天津飯」(脚本/五月はじめ、作画監督/前田実、演出/岡崎稔)。これも天下一武道会のエピソードだ(第23回。劇中では3度目の大会だ)。Aパートでヤムチャとシェン(神様)の試合の決着がつき、Bパートで悟空と天津飯の戦いが始まるというゴージャスな構成……などと、他人事のように書いているけれど、これは、僕が脚本を担当させてもらった話だ。僕は『DRAGON BALL』のシリーズ序盤は、一視聴者として楽しみ、中盤からアニメージュのライターとして記事を作るようになり、後半では脚本を書いていたわけだ。この話のサブタイトルは、シナリオ執筆時につけたタイトルを、そのまま使ってもらった。僕個人としては、97話のあのパートを念頭において、つけたタイトルだ。
この話は、キャラクター作画にもアクションにも力が入っており、濃い仕上がりだった。僕の記憶が正しければ、ヤムチャが繰気弾を駆使してシェンを翻弄し、そして、逆転負けをするあたりの原画担当が江口寿志。佐藤正樹は、悟空・天津飯戦の途中から原画を担当。江口寿志も佐藤正樹も、スタジオジュニオの若手であり、後に江口は劇場作品『SPRIGGAN』の作画監督、佐藤は『SLAM DUNK』のキャラクターデザイン等を担当。ジュニオ若手チームは、他の話数でも見応えのある仕事を残しているが、139話が作画的に一番盛り沢山だった印象だ。
前々回(第306回 『DRAGON BALL』)でも少し触れたけれど、僕はアクション中心になった『DRAGON BALL Z』よりも、第1シリーズの方が好きだ。少しずつ本格アクションものに移行していくところに高揚感があったし、後半になると、多彩な技をぶつけ合う面白さがあった。演出や作画でも、色々と変わった事をやっていたと思う。
今日で『DRAGON BALL』の話題はお終いにするつもりだったけれど、ひとつ書きたい話題を思い出したので、もう1回だけ続ける。亀仙人風に言うと「もうちょっとだけ続くんじゃ」だ。
第309回へつづく
(10.02.17)