第309回 『DRAGON BALL』の声優陣
『DRAGON BALL』は声優に関しても、話題が多い番組だった。悟空を演じた野沢雅子をはじめ、宮内幸平、八奈見乗児、鶴ひろみ、田中真弓、小山茉美、古谷徹、鈴置洋孝、古川登志夫と、中堅からベテランまで豪華なメンバーが揃っていた。
特に素晴らしかったのが、野沢雅子だった。彼女の芝居が、悟空の明るさ、力強さを充分に表現していた。アニメ『DRAGON BALL』のメジャー感の何割かは、彼女が担っていた。今となっては、大人になった悟空を野沢雅子が演じているのを、僕達は当たり前の事として受け止めている。しかし、『DRAGON BALL』の途中で悟空が青年になり、それを彼女が演じたのは、正直言って意外だった。女性声優が少年役をやるのは当たり前だが、大人の男性を演じた例なんて、ほとんどないだろう。しかも、悟空はアクションものの主人公だ。しかし、彼女が演じた青年悟空にはなんの違和感もなかった。これには驚いた。
『DRAGON BALL Z』になると、野沢雅子は、父親になった悟空、息子の悟飯、悟天を演じ分け、さらに悟空の父親であるバーダックまで演じた。劇場版『DRAGON BALL Z 地球まるごと超決戦』では、悟空そっくりのサイヤ人であるターレスも演じており、さらに、悟空、悟飯、ターレスが同時に喋るシーンまであった。僕にとって、アニメ「DRAGON BALL」シリーズは、野沢雅子の凄さを改めて知ったシリーズだった。
声優関連の話題で忘れられないのが、ヤジロベーだ。彼が登場したばかりの頃、原作で、悟空が彼に対して、クリリンと声が似ていると指摘している。マンガ作品で、声が似ているかどうかなんて、あまり意味がないはずだ。これはいったいどういう意味だろうかと思ったら、アニメのヤジロベーに、クリリンと同じ田中真弓がキャスティングされた。実は、ヤジロベーが登場する少し前に、クリリンがピッコロ大魔王の部下によって殺されている。鳥山明は、クリリンが死んだことで、彼を演じていた田中真弓の出番がなくなったら可哀想だと考え、悟空のセリフを通じて、ヤジロベー役を田中真弓にしてほしいと、アニメスタッフにオーダーしたわけだ。
僕は『DRAGON BALL』DVD BOX解説書の編集をお手伝いしており、田中真弓にも取材した。以下は、その取材で聞いた話だ。彼女がヤジロベーをやる事になった時、アニメスタッフは、原作の鳥山明が「同じ声」と書いているのだから、ヤジロベーとクリリンは同じ芝居でいいと言ったのだそうだ。だが、演じる側としては、同じ番組の別の人物で、全く同じ芝居をやるわけにはいかない。それで、彼女はクリリンと差別化するために、ヤジロベーを名古屋弁で演じる事にした。アニメのヤジロベーが、原作と喋り方が違うのは、そのためなのだ。
さっきも触れたように『DRAGON BALL』はシリーズ初期から、ナレーションの八奈見乗児、亀仙人役の宮内幸平、天下一武道会の審判役の内海賢二と、ベテラン声優がレギュラー、サブレギュラーとして出演していた。そして、シリーズが進むうちに、桃白々役の大塚周夫、ピッコロ大魔王(神様)役の青野武、鶴仙人役の永井一郎といったメンバーがサブレギュラーとなった(内海賢二は、他にレッドリボン軍の総帥や神龍などを、永井一郎はカリン様などを演じている)。
そんな超ベテラン陣が一堂に会したのが、3度目の天下一武道会(第23回)だった。天津飯とサイボーグ桃白々が試合をする話数では、レギュラーキャストに加えて、永井一郎、大塚周夫、青野武、内海賢二がクレジットされた。当時としても呆れるくらいに豪華なメンバーだった。
第310回へつづく
(10.02.18)