アニメ様365日[小黒祐一郎]

第319回 『聖闘士星矢』

 今回から1986年の話題に戻る。『聖闘士星矢』の原作は、車田正美の同名漫画だ。ギリシャ神話をモチーフにし、女神アテナのために戦う聖闘士(セイント)達の活躍を描いたアクションアニメである。
 制作は東映動画(現・東映アニメーション)。シリーズディレクターは、アクションものを得意とする森下孝三(シリーズ中に菊池一仁に交代)で、彼は途中から、本作のプロデューサーになっている。シリーズ構成は小山高生(シリーズ中に菅良幸と共同になる)。ギャグもので知られる小山高生がシリアスな本作でヒットを飛ばしたのは、少し意外だった。キャラクターデザインは、これが代表作となる荒木伸吾、姫野美智。美術デザインは窪田忠雄(シリーズ中に鹿野良行に交代)。音楽の横山菁児の仕事も素晴らしいものだった。放映は1986年10月11日から1989年4月1日。
 放映開始前、僕は『聖闘士星矢』は当たらないだろうと思っていた。車田正美の代表作である「リングにかけろ」はヒット作だったし、僕も好きな作品だった。だが、「リングにかけろ」の連載が始まったのは1970年代末だ。『聖闘士星矢』放映開始時には「いまさら、車田正美?」と思った。荒木伸吾、姫野美智コンビについても同様だ、荒木伸吾は美形キャラの元祖と呼ばれる存在であり、姫野美智とのコンビで、素晴らしい仕事を残してきた。自分達は荒木・姫野コンビのキャラクターが観られるのは嬉しいが、若いファンにとっては、絵柄が古いのではないかと思った。
 ところが『聖闘士星矢』は当たった。僕の予想は大外れだった。聖闘士たちは、聖衣(クロス)と呼ばれる鎧を装着して戦うのだが、その聖衣の玩具が売れたのだ。『聖闘士星矢』の成功を受けて、『超音戦士ボーグマン』(1988年)、『鎧伝サムライトルーパー』(1988年)、『天空戦記シュラト』(1989年)といったプロテクトスーツヒーロー物が作られる事になった。プロテクトスーツヒーロー物は、玩具展開としては、ロボットアニメに近いものだった。
 子供達だけではない。アニメファンも『聖闘士星矢』に夢中になった。『聖闘士星矢』のファンは女性が中心だった。本作の主人公は、天馬星座(ペガサス)の聖闘士である星矢であり、彼とその仲間である青銅聖闘士(ブロンズセイント)の紫龍、氷河、瞬、一輝を主軸にして物語が展開。他にも、黄金聖闘士(ゴールドセイント)を始めとする多くの戦士が登場した。
 主要キャラの大半が、美形キャラクターだった。登場人物の個性は猛烈に強かったし、アニメファンが好むナルシスティクなキャラも多く、彼らに女性ファンが胸をときめいた。神話をモチーフにしているだけに、物語は浮世離れしたものだったが、それゆえに、ストレートなかたちで友情や兄弟愛、正義や平和への想いが描かれていた。激しいバトルが中心ではあったが、ロマンの香りのする作品でもあった。
 東映動画のダイナミックな作品作り、車田正美のケレンミや力強さ、ギリシャ神話をモチーフにしたバトルものというコンセプト、荒木・姫野コンビのキャラクターなど、複数の要素が重なって化学反応を起こし、アニメ『聖闘士星矢』ができ上がった。荒木・姫野コンビのキャラクターも、若いファンに受け入れられた。神話の世界を舞台にした物語が、彼らの画風とマッチしていたからだろう。
 個々の話の出来については、凸凹があった。また、アニメのオリジナルキャラクターで、機械でできた聖衣を装着するスチールセイントには、苦笑させられた。氷河の師匠として、アニメのオリジナルキャラのクリスタルセイントを出してしまった後で、原作で師匠として黄金聖闘士カミュが登場。劇中で辻褄を合わせようとしたのも、苦しい感じだった。ただ、少なくとも僕にとっては、そういった荒っぽい感じが気になるシリーズではなかった。むしろ、そういった粗に、突っ込みを入れて楽しんでいた。
 物語は、オリジナルエピソードを挟んではいたが、黄金聖闘士と戦う十二宮編までは、原作に沿った展開。その後、アニメオリジナルのアスガルド編を経てから、原作のポセイドン編を映像化。しかし、最終章である冥王ハーデス編に達する前に、TVシリーズは終了してしまった。OVAとして冥王ハーデス編が制作されるまで、10数年の時を待たなくてはならなかった。
 TVシリーズでは、十二宮編が圧倒的に面白かった。黄金聖闘士も魅力があったし、ドラマも濃密だった。『聖闘士星矢』は人気男性声優が次々に登場するのも魅力だったが、ムウの塩沢兼人、アルデバランの玄田哲章、シャカの三ツ矢雄二、ミロの池田秀一、カミュの納谷六朗など、黄金聖闘士のキャスティングは、特に豪華だった。この原稿を書くにあたって、星矢VSアイオリア戦、輝VSシャカ戦のあたりをDVDで観返したのだけど、今観ても面白い。星矢達の関係が濃密に描かれており、これなら、女の子達がハマったのも分かると思った。

第320回へつづく

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(10.03.04)