第320回 荒木・姫野コンビの復活
前回(第319回 『聖闘士星矢』)も書いたように、荒木伸吾・姫野美智コンビが『聖闘士星矢』のキャラクターデザインに起用されたのを、僕は意外に感じた。そう思った理由は、彼らの画風がクラシカルだったからだけではない。
ベテランアニメーターである荒木伸吾は『UFOロボ グレンダイザー』等での仕事でファンを魅了し、美形キャラの第一人者と呼ばれていた。弟子の姫野美智とコンビを組んでからは、さらに画風が華麗になった。アニメブーム期を代表するスターアニメーターだ。勿論、僕も大ファンだった。
だが、1980年代の彼らの活動は、アニメファンにとって地味な印象のものだった。キャラクターデザインを手がける事はほとんどなかったし、海外との合作への参加も多かった。『わが青春のアルカディア 無限軌道SSX』や『愛してナイト』といったシリーズで、美麗なキャラクターを描いて僕達を楽しませてくれた事もあったが、各話単位での参加でしかなかった。自分自身の事で言えば、合作の影響か、荒木・姫野コンビの画風が変わったのが気になっていた。正直に白状すると、僕は当時、同人誌で荒木プロの仕事について、不満を書いた事がある。
しかし、『聖闘士星矢』での彼らの仕事は、僕の不満なんて、軽く吹き飛ばしてしまうくらい素晴らしいものだった。荒木・姫野コンビの画風と『聖闘士星矢』という素材がマッチしていたのだろう。もっと言えば『聖闘士星矢』はロマンチックなバトルものであるし、荒木・姫野コンビの作画にもロマンの香りがある。
彼らは『聖闘士星矢』で、単に美形キャラクターを綺麗に描いただけではない。その画風は華麗であり、繊細。それと同時に力強さがあった。キャラクターのフォルムがデザイン的であり、それも魅力的だった。デフォルメを効かせたアクションも独特だった。技を放つ描写には、迫力があった。星矢達が攻撃を受けた時に、顔や身体が歪む効果も、インパクト抜群だった。荒木・姫野コンビの画作りは、シンプルではあるが、表現力が高かった。キャラクターの想いをしっかりと伝える画だった。それもファンを魅了した理由のひとつだろう。
僕は『聖闘士星矢』で、荒木・姫野コンビの魅力を再確認した。彼らの作画担当回が、楽しみだった。「荒木・姫野コンビが復活した」。復活なんて言葉を使うと、ご本人達に対して失礼かもしれないが、本当にそう思った。
しかも、『聖闘士星矢』だけではなかった。『聖闘士星矢』の本放映中に、東京地方では再放映をきっかけにして『ベルサイユのばら』の人気に火がついた。ちょっとした『ベルばら』ブームが起きたのだ。言うまでもなく『ベルばら』は、荒木・姫野コンビの代表作のひとつだ。アニメージュでは『ベルばら』特集を組み、オスカルが表紙になった。アニメージュ文庫で『ベルばら』写真集を出した。
『聖闘士星矢』や『ベルばら』の人気を受けて、アニメージュは3ヵ月連続で、荒木・姫野コンビのオリジナルキャラクターのポスターを付録としてつけた。3回全部やったかどうかは覚えていないが、そのポスターは、僕が編集を担当した。つまり、イラストの発注や入稿などを担当したのだ(当時のアニメージュは、フリーのライターもそういった仕事をやっていた)。荒木伸吾と初めて会ったのも、その頃だ。若いファンに、荒木伸吾・姫野美智コンビが支持されているのも嬉しかったし、その仕事に関わることができるのも光栄だと感じていた。
第321回へつづく
(10.03.05)