アニメ様365日[小黒祐一郎]

第327回 『メガゾーン23 PART II』と「大人」発言

 省吾が「大人は汚いぜ」と言うのは、イヴとの会話においていだ。仲間に助けてもらい、省吾はイヴの元にたどり着いた。そこで彼女は、省吾に「どうして軍に入らないのか」「由唯を愛しているのか」「今、何をしたいの?」と問う。問題は「省吾にとって、大人ってなあに?」という問いへの答えだ。以下に2人のやりとりを引用する。


省吾「大人か……。ガキの頃は“大人”って言葉に憧れてたけど、今、大人って言われてるやつらを見ると、どいつもこいつも、私欲のためなら、いい加減で。人を騙し、傷つけ、時には殺す。薄汚ねえエゴイストだ。俺は、俺は、そんな大人になんかなりたくねえ! ガキの頃の、映画やTVドラマに出てくるような、大人達に会いたかった」
イヴ「なればいいのよ。あなたが憧れた大人に」
省吾「俺が、大人に?」
イヴ「そうすれば、この間違った社会全体が変えられるかもしれないわ」


 ここで、設定のおさらいをしておこう。500年前、人類は地球を死滅寸前に追い込んだ。人類は地球を再生させるため、巨大宇宙船で地球を去った。その巨大宇宙船のひとつが、省吾達が暮らしているMZ23だった。地球の再生は終わったが、人々が地球に戻れるかどうかは分からない。人類が地球に戻っていい存在かどうかを、月にある管理システム“A・D・A・M・”が判断するのだ。もしも、巨大宇宙船の住人が、かつてと同じ過ちをおかしてしまう存在であるなら、A・D・A・M・によって滅ぼされてしまう。そして、時祭イヴは、巨大宇宙船の住人の情報を、A・D・A・M・に送るためのプログラムだったようだ。
 イヴが省吾に対して様々な質問を投げかけたのは、彼らが地球に帰還するにふさわしいかどうか、判断する材料を集めるためだったのだろう。A・D・A・M・は、MZ23の人々に帰還する資格はないと判断したが、イヴ個人は省吾達の可能性を信じて、地球に降ろした。DVD解説書の粗筋などを参考にして、改めて整理すると、そういう話だったようだ。
 イヴが、省吾達に肩入れするきっかけのひとつが「大人」についての発言だった(また、省吾は、イヴに対して「君に会えてよかった」と言っている。つまり、バーチャルな存在である彼女を、1人の人間として扱った。それも、イヴが省吾達を助けた理由のひとつであるようだ)。そして、省吾達は、再生した地球で、一から社会を作り直すわけだ。苦難は多いだろうが、彼らを邪魔する大人はいない。彼らは自分達がなりたい大人になればいい。筋は通っている。省吾の「大人」についての発言は、この作品のテーマそのもの、あるいはテーマに深く関わるものだった。
 省吾の「大人」についての発言は、かなり青くさい。彼だって大人扱いされてもおかしくない年齢なのに、一方的に大人を悪く言っている。しかも、自分がいつまでも子どもでいられるわけでもないのにも気づいていない。当時、同世代のアニメファンが、この発言をどう受け止めたかは、覚えていない。「青くさいなあ」と言って、笑っていた人間が多かったような気がする。
 自分自身の事で言えば、そのテーマの部分は、自分と関係がないと感じた。僕は高校生の頃だって「大人は汚いぜ」と思えるほど、自分を立派だとは思っていなかった。大人は汚いかもしれないけれど、子どもだってロクなもんじゃないと感じていたわけだ。『メガゾーン23 PART II』のリリース時、僕は22歳。大人になりきれない大人だったわけであり、それもあって、共感はできなかった。
 ただ、この部分をどう受け止めたかは、年齢に左右されるのだろう。当時から『メガゾーン23』シリーズに入れ込んでいるファンはいた。今も熱心に同人誌活動をしているファンもいる。彼らは、この作品のテーマを正面から受け止めたのかもしれない。
 さて、以下は現在の話だ。この原稿を書くために、十数年ぶりに、いやひょっとしたら、二十数年ぶりに『PART II』を頭から終わりまで通して観た。実は、リリース当時よりもずっと楽しめた。作り手が、観客に向かって「俺達も大人になろうぜ」というメッセージを、直球で投げ込んでいる感じがよい。話の構成は粗いところがあるし、今でも省吾の発言には共感できないけれど、作り手の真摯な態度には共感できた。

第328回へつづく

メガゾーン23 PART 2

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(10.03.16)