第328回 『メガゾーン23 PART II』の作画
今回は『メガゾーン23 PART II』のビジュアルについて触れる。リリース当時の僕にとっては、内容よりもこちらの方が重要だった。前にも話題にしたが、僕は『ストップ!!ひぱりくん!』以来、梅津泰臣の仕事に注目していた(第174回 「すずめのボーイフレンド」)。本作は、彼が初めてメインキャラクターのデザインを担当した作品だった。長編の作画監督もこれが初めてだ。
『メガゾーン23 PART II』における彼の仕事は、期待以上のものだった。超リアルであり、美麗。緻密であり、シャープ。立体的だし、かたちのとり方もイケていた。人物や服、バイク等の質感の表現も素晴らしかった。第326回 『メガゾーン23 PART II 秘密く・だ・さ・い』でも触れたが、本作では、劇中に登場するビールの缶やタバコの箱について、銘柄が分かるようにきっちりと描いていた。そんなディテールのこだわりも、梅津のリアルなキャラクター作画とリンクしたものだった。ハードタッチなストーリーと作画の相性もよかった。いくら言葉を尽くして褒めちぎっても足りないくらいだった。断言してしまうけれど、1986年当時において、梅津は最高のキャラクターデザイナーであり、作画監督だった。
それでは、僕が『メガゾーン23 PART II』のビジュアルを全肯定できたかというと、そんな事はなかった。作監作業までは、本当に素晴らしい出来なのだが、フィルムの仕上がりには粗いところがあった。具体的に言えば、動画や仕上げが粗かった。原画には影があるのに、仕上げ段階で影を抜かれたと思しきカットもあった。多分、スタッフはギリギリまで粘って、直せるものは直したのだろう。それでも作りきれなかった。そういった事情は予想がついたのだけれど、きちんとできているカットがあまりにも素晴らしいので、残念で仕方なかった。それから、時祭イヴについては、梅津と別に作画監督が立っていた。その画風が、梅津と明らかに違うのも気になった。
少し後に、アニメビジョンの仕事で、僕は、梅津の特集をやった。その時に『メガゾーン23 PART II』の作監修正原画を何枚も目にした。生の直筆原画は、やはり素晴らしく、仕上がりの粗さを残念に思う気持ちが募った。僕の欲求不満が解消されるのは、翌年にリリースされるオムニバスOVA『ロボットカーニバル』を待たなくてはならなかった。
梅津の仕事以外についても触れておこう。本作では、板野一郎が監督との兼任で、メカ作画監督を担当。彼自身は原画を担当してないが、作監として全てを描き直したカットはあるはずだ。原画マンの仕事も充実しており、アクションの見せ場は多い。中でも印象的だったのが、敵の触手マシンによって、MZ23の軍人達が殺される場面だ。スプラッター調の描写で、1コマ作画を多用。ニョロニョロと動くのだが、過剰なリアル感とデフォルメが混在しており、脳裏に残るシーンだった。記憶が正しければ、ここは大平晋也の担当だ。人物の芝居を含めて、他にも印象的な作画はいくつもある。
『メガゾーン23 PART II』のムックには、どこを誰が担当したかというアニメーターについての記事があった。僕もどこのパートが誰の担当なのかといった興味をもって、この作品を観た。第325回「1986年のOVA」でも触れたように、この頃、すでに作画マニアは減少しはじめていた。1980年代前半から半ばにかけて、決してそれは多数派ではなかったが、作画に注目してアニメを観ているファン達がいた。『メガゾーン23 PART II』は、その時代の末期のタイトルなのだろうと思う。
第329回へつづく
(10.03.17)