アニメ様365日[小黒祐一郎]

第174回 「すずめのボーイフレンド」

 江口寿史の同名マンガを映像化したTVシリーズ『ストップ!!ひぱりくん!』も、1983年の作品だ。制作ブロダクションは東映動画。放映されたのは1983年5月20日から1984年1月27日。先日、友達と呑んでいた時に、この頃の東映作品の話題となり、彼は「『ひぱりくん』の演出がいい」と言っていた。それを聞いて、えー、そうかあ? と思った。どちらかと言えば、僕にとって、アニメの『ひぱりくん!』は苦手な作品だった。
 『ひぱりくん!』の主人公は、坂本耕作というごく普通の少年。だが、彼がやっかいになっている大空一家はヤクザであり、大空家の長男であるひばりは、常に女装して生活しているニューハーフだった。原作はラブコメにニューハーフとヤクザという要素を投入した、パロディタッチの作品だ。ビジュアルも内容も、非常にセンスがよく、最先端のギャグマンガだった。アニメ版も、キャラクター配置や大筋に関しては、原作を踏襲していたはずだが、随分と印象が違う作品になっていたと思う。ありていに言えば、野暮ったかった。僕はアニメのスタッフが、原作のセンスのよさを持て余しているように感じていた。前述の友達は、僕が見つけられなかったいいところを見ていたのだろう。本放映以来、僕はこの作品を再見する機会がない。改めて観れば、原作とは別のものとして楽しめるかもしれないが、とにかく本放映時は苦手だった。
 苦手と言っても、毎週観てはいたし、好きな話はあった。ひとつが川尻善昭が演出を務め、富沢和雄が作画監督を務めた3話「ばれた!?みられた!?」だ。この話はスタッフも異色だし、仕上がりも面白いのだが、今回話題にしたいのは別のエピソード。梅津泰臣が作画監督を務めた9話「すずめのボーイフレンド」だ。
 この時の梅津は22歳。これが初作画監督だったはずだ。「すずめのボーイフレンド」は、とにかく画がよかった。キャラクターがシャープであり、リアルで美麗。梅津が描くキャラクターは、端正過ぎて人形のように見える事があるが、すでにこの時から、その徴候があった。「すずめのボーイフレンド」は、ひばりの妹である大空すずめと、同級生の男の子の恋愛を描いたエピソードで、彼の華のある画が活きる話でもあった。今の目で観ると、そんなには他の話数との差がないかもしれないが、当時の僕にとってはその差が重要だった。他の話とは別物だと思ったくらいだ。
 当時、たまたま「すずめのボーイフレンド」のキャラクター設定を見る機会があったのだが、キャクター設定も衝撃的だった。梅津が、この話でキャラクターが着る衣装の設定として描いたものだが、衣装だけでなく、顔もきっちりと描いてあった。やはりバリバリにリアルで、美麗。この原稿は記憶モードで描いているので、大袈裟な表現になってしまうかもしれないが、当時の印象としては、まるでイラストのようだった。
 僕の記憶が正しければ、その後、梅津が参加した『ひぱりくん!』は、15話「政二さんの熱い一日」、34話「ゴッホン!昭和の沖田くん!!」の2本。「政二さんの熱い一日」も作画監督を担当してたが、この話のメインである政二は、変な衣装で耕作を驚かせるのが趣味の、ゴリラのような大男で、あまり梅津のよさが活かせる内容ではなかったと記憶している。「ゴッホン!昭和の沖田くん!!」は原画のみの参加だ。
 「すずめのボーイフレンド」で、僕は梅津泰臣の名前を覚えた。彼が『幻魔大戦』『わが青春のアルカディア 無限軌道SSX』に参加していた事を知ったのは、その後だ。彼の仕事を追いかけていくうちに、キャラクターがリアルであり、美麗であるだけでなく、動きにも魅力がある事を知る事になる。

第175回へつづく

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(09.07.24)