アニメ様365日[小黒祐一郎]

第175回 「宇宙刑事シャリバン」と「ペットントン」

 今回で1983年の話題はひとまず終わりにする。1983年といえば、杉井ギサブロー監督の『ナイン』3部作についても書いておきたいのだけれど、それについては、またの機会に。今日はアニメではなくて、特撮番組に触れたい。
 1983年前後、若いファンの間で、特撮が盛り上がっていた。その中心にあったのは「宇宙刑事シリーズ」だった。若いアニメスタッフでも「宇宙刑事シリーズ」にハマっている人が少なくなかった。世代によって捉え方が違うと思うが、僕と同世代のアニメファンに関しては、『宇宙戦艦ヤマト』ブームの頃からアニメばかり観てきたけれど、特撮もいいなあと思うようになった。そんなノリの人間が多かった印象だ。アニメージュ文庫の初期の1冊として「宇宙刑事シャリバン」のフィルムストーリーブック「SEKISHA!」がある。この本が発行されたのも、そういった特撮人気があったからだ。アニメブーム以降で、アニメファンと特撮が一番接近したのが、1983年前後だったのだろうと思う。
 この時期、特撮ファンダムの動きも、より活発になっていたと記憶している。特撮雑誌や、アニメ雑誌の特撮記事に感化されて、僕も過去の特撮作品をチェックするようになった。U局の再放映で昔の番組を録画し、名画座に東宝特撮を観に行った。子どもの頃に親しんでいたウルトラシリーズを観直して、改めてよくできているのに感心した。ウルトラシリーズを観直したがをきっかけだったか、「怪奇大作戦」を観たのがきっかけだったのかは忘れたが、実相寺昭雄の作品に興味を持ち、マニアックな実相寺作品の上映会に足を運んだ事がある。その上映会では研究家のトークがあり、「怪奇大作戦」の「京都買います」、時代劇の「風」の上映などがあった(記憶が正しければ、その上映会には客として會川昇がいた。論客! という印象だった)。特撮の世界は、アニメの世界よりもマニアックな匂いがあり、それが愉しかった。
 1983年において、TVで放映されている特撮番組は東映のものばかりだった。タイトルでいうと「科学戦隊ダイナマン」「宇宙刑事シャリバン」「ペットントン」の3シリーズだ。「ダイナマン」では、すでにロボットアニメで活躍していた出渕裕が敵側組織のデザイナーとして参加し、新風を吹き込んだ。ダイナピンクを演じた萩原佐代子は、前作「大戦隊ゴーグルファイブ」の大川めぐみに続き、特撮アイドルとして人気を集めた。この時期の特撮人気の盛り上がりに関しては、そういった特撮ヒロインの存在も大きかった。
 アニメファンにも人気が高かった「宇宙刑事シャリバン」は、宇宙刑事シリーズの第2作。宇宙刑事シリーズは力強いヒーロー像と、シャープな演出が魅力だった。対象年齢も比較的高く、ストーリーの作りも大人っぽいものだった。特に「シャリバン」はドラマ性が高く、個々のエピソードに関しても傑作が続出。僕は「東映特撮もここまで来たか!」と思った。さらにつけ加えるなら、僕は「宇宙刑事シリーズ」のアングラ映画的な映像が大好きだった。当時は、あの独特の映像センスをなんと呼べばいいのか分からなかったが、あれはアングラ映画的だったのだろう。
 「ペットントン」は東映不思議コメディーシリーズの1本。アニメファンに支持された作品ではなかったが、僕はこの作品が大好きだった。浦沢義雄が全話の脚本を書いており、彼の代表作だろう。ホモの小学生のガン太、ひねくれた根本等、登場人物の造形も抜群。個々のエピソードは毒があったり、シュールだったりと、浦沢ワールド全開。カルトな作品だった。特にガン太のホモネタは、日曜の朝からこんな番組をやっていていいのかと思ったものだ。浦沢義雄が得意とする「無生物もの」としては、チャーハンとシュウマイが駆け落ちする「横浜チャーハン物語」というエピソードのインパクトが強烈だった(「アニメ様の七転八倒」第32回 浦沢脚本とホモの少年)。
 翌1984年の作品だが、「星雲仮面マシンマン」も忘れがたい。「マシンマン」の主人公である高瀬健は、卒論のために地球にやってきた宇宙の学生で、カメラマンの葉山真紀といい仲になっていく。彼はマシンマンに変身しても、敵を倒さずに、カタルシスウェーブという技で悪人の心を浄化し、善人に変えてしまう。そんな平和なシリーズだった。観ていると、やたらと和んだ。ひょっとしたら、モラトリアムな雰囲気があったのかもしれない。
 過去の作品をチェックするのも、そういった元気な東映特撮を観るのも愉しかった。僕が一番特撮に夢中になったのも1983年前後だった。

第176回へつづく

宇宙刑事シャリバン Vol.1 [DVD]

カラー/244分/片面2層2枚組/10話収録
価格/10290円(税込)
発売・販売元/東映ビデオ
[Amazon]

(09.07.27)