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COLUMN
アニメ様の七転八倒[小黒祐一郎]

第32回 浦沢脚本とホモの少年

 『練馬大根ブラザーズ』の1話でホモネタを目にしたときに「浦沢さん、やっているなあ」と思った。僕が浦沢義雄の作品を、最初に意識したのが『新ルパン』だった。

 『新ルパン』は彼のアニメデビュー作である。覚えている人も多いだろう。ルパン達がポップコーン製造器を使ってロケットで月に行こうとする124話「1999年 ポップコーンの旅」とか、鉛筆の削りカスを食べるネコを奪い合う106話「君はネコ ぼくはカツオ節」とか。あれが浦沢さんの脚本だ。
 浦沢さんの『新ルパン』は1本の例外をのぞき、スラップスティックであり、洒落たムードのある作品だ。彼が手がけたコメディ編はブロードウェイシリーズと呼ばれ、異彩を放っていた。青木悠三が絵コンテを担当する事が多く、青木さんとの相性も最高だった。ブロードウェイシリーズは、最初は「ニューヨークのブロードウェイの裏の話」という設定だったそうだが、途中からどう見ても舞台がブロードウェイでなくなっていく。ただ、浦沢さん本人によれば『新ルパン』で彼が書いたコメディの話は全部、ブロードウェイシリーズなのだそうだ。
 ルパン達が老婆のために音楽家のフリをする92話「マダムと泥棒四重奏」とか、貧乏な銀行が売名のためにルパンに盗みに入ってもらおうとする143話「マイアミ銀行襲撃記念日」も好きだなあ。ちなみに「マダムと泥棒四重奏」 は友永和秀さんが原画を描いており、「マイアミ銀行襲撃記念日」は青木悠三コンテ・テレコム作画という最高に贅沢なチームのエピソード。作画マニアも必見だ。浦沢脚本で唯一コメディでないのが、68話「カジノ島・逆転また逆転」。洒落たセリフが続出するエピソードで、これも面白い作品だ。

 その後の浦沢さんの代表作が、1981年の「ロボット8ちゃん」に始まり、1993年の「有言実行三姉妹シュシュトリアン」まで続いた、実写ドラマの「不思議コメディーシリーズ」だ。浦沢さんは、その全てのシリーズに脚本として参加しており、全話の脚本を書いた作品もある。
 僕は、3作目の「ペットントン」がいちばん好きだ。宇宙生物のペットントンが登場するファミリーコメディである。本放送でほとんどのエピソードを観たのだが、一度も録画しておらず、ビデオソフト化もされていないので再見する機会もない。見直したら印象が変わるかもしれないが、相当にイカレた作品だったと記憶している。作品の作りはチープなんだけど、それもいい。視聴率が高かったために、TV局から「何をやってもいい」と言われて書いた作品だそうだ。

 本当はここで「ペットントン」の事を詳しく語りたいのだけど、面白かった記憶はあるけれど、具体的な事をあまり覚えていない。残念だなあ。主人公はネギ太という少年だったけれど、むしろ目立っていたのは、その友人のガン太と根本だった。ガン太は小学生なんだけどホモ。しかも、肥満体。デブでホモの小学生だった。
 確か、こんな場面があったはずだ。ネギ太が父親に怒られて、尻を叩かれる事になった。そこでガン太が「ネギ太の尻は僕の尻だ。叩くなら僕の尻を叩いて!」と言う。このセリフ自体も凄いけど、その後がまた凄い。シーンが変わって、尻を叩かれたガン太が、ネギ太の父親と家から出てくる。そこで、父親が「よかったよ。またね……」とか言うのだ。その2人の様子が、不倫している上司とOLみたいな感じだった。浦沢さんが脚本を書いた公開中の実写映画「ゲルマニウムの夜」にも太ったホモの人物が出くるのだけど、僕はガン太が思い出されてならなかった。そう言えば『新ルパン』で彼が書いた100話「名画強奪ウルトラ大作戦」もホモの王様が出てきた。
 根本は鬱屈した少年で、よく女の子にフラれていたように記憶している。彼がネモトマンというヒーローに変身する話があって、それも面白かった。ネモトマンのネーミングは、後に「不思議コメディー」5作目「勝手に!カミタマン」で再び使われる事になるが、「ペットントン」のネモトマンの方が面白かった。
 それから、浦沢作品を語るうえで忘れてはいけないのが、彼が得意としている一連の「無生物もの」である。チャーハンとか、シュウマイとか、豆腐とか、バス停とか、そういった生物ではないものを主人公にしたエピソードだ。と、文字で書いてもわけがわからないと思うが、本当にそういう話なのだ。「ペットントン」の「横浜チャーハン物語」は、チャーハンとシュウマイが駆け落ちする話だった。着ぐるみとかではなくて、皿に載った普通のチャーハンとシュウマイがキャラクターとして扱われているのだ。確か最後にペットントンに話しかけられ、シュウマイのグリースピースが特撮でうなづくカットがあり、それはちょっと感動的だった。「ペットントン」には、他にも豆腐が活躍する「豆腐がおこった日」があった。後番組の「どきんちょ!ネムリン」には、都会の生活につかれたバス停が登場する「バス停くん田舎へ帰る」というエピソードがある。僕は全ての浦沢作品を見ているわけではないが、「無生物もの」の中では「バス停くん田舎へ帰る」が最高傑作だろうと思っている。

 勿論、その後も浦沢さんは色んな作品を手がけている。『ぐるぐるタウンはなまるくん』の「はなまるキング」は究極のルーティンを目指したもので、僕は楽しみに観ていた。『忍たま乱太郎』にもじんわりと浦沢さんのアジが出ている。『あんみつ姫』でもムチャクチャな作品があったなあ。だけど、僕にとっては、今でも『新ルパン』と「ペットントン」がベスト浦沢作品だ。振り返ってみると『新ルパン』は「芝居には興味がない」と言い放つ浦沢さんが、芝居がかったセリフを書いた珍しい作品。しかも、そのいかにも芝居らしい感じがたまらない。
 僕が浦沢さんに最初に会ったのは、2001年。アニメージュの「この人に話を聞きたい」の取材だった。作品と同様に、飄々としたユニークな方だった。彼は若い頃は、ゴーゴー喫茶でゴーゴーダンサーをやっていたそうだ。また、『新ルパン』に参加する前は、構成作家としてバラエティ番組「カリキュラマシーン」等に参加しており、その頃に後の作家性が培われたらしい。ホモネタが多い事について訊いてみたところ「小学校の時、同級生にオカマがいたから、それでホモを書くのが得意になったと思う」と答えてくれた。本当かなあ、他にも理由がありそうだけど。そのあたりは、今後追究したいポイントだ。

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■第33回へ続く


(06.04.03)

 
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